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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第22話 もたらしてくれたもの

前回までのあらすじ

MIYABE.CO応接室。

そこには数々のトロフィーや盾が並べてあった。

これまでMIYABE.COが受賞してきた数々の賞や環境保護団体、公けな様々な機関からの感謝状などである。

会議室の壁には誰が描いたものか判別できない油絵が飾られていた。

名前を聞いてもその道の素養がなく、おそらく高明な画家の絵であろうがその良さは慎吾達には理解できなかった。

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先程の電話から2時間しか経っていない。

橘と一緒に思わずMIYABE.COに来てしまったが、何か聞けるわけでもないことは知っていた。ただ、そんなことよりも行動していた自分を不思議に思った。

以前であれば素直に受け入れて、今頃はオフィスでデスクワークだったろう。

あの頃とは、全く違う自分になってしまっているように思えた。

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「お待たせしました。先程はどうも。」

ドアを開けながら落ち着いた声で、山下が入ってきた。

山下みゆき。

MIYABE.COのスタッフであり、宮部社長の秘書的な役割もこなしている。

MIYABE.COは宮部公子社長が一代で築き上げた不動産会社であり、国内だけでも都心から地方に至るまで多くのホテルを所有している。

バブル崩壊で底値となった都心近郊のホテルを買収。その後、それらを足掛かりに多数のホテルの買収と新規出店による積極攻勢に出たことが時代の流れと合わさって急成長した会社だ。

女性経営者としてカリスマ的な存在であるが、その秘書として、右腕として山下が辣腕を振るっている。

「こちらこそ、お忙しい中お時間いただいてすみません。。。
先程の件についてもう少し詳しくお伺いして、今後の御社とのお仕事に活かせればと思いまして。。。」

慎吾が伝え切る前に山下が話し始めた。

「丸山様のことですか。」

山下の口調は無味で業務的な口調だった。

「吉田様。丸山様が当社とどのような接点があるのかお聞きになりたいのですね。

違いますか。」

慎吾は頷いた。

「そうです。なぜ丸山さんのことを聞かれたのでしょうか?」

山下は表情一つ変えなかった。

「何もお伝えすることはありません。」

「いや、そんなことないですよね。何かあるはずです。

私たちは正直な話し、丸山さんが急に退社された1ヶ月前からその消息を知りません。そもそも退職された理由すらわからない状態です。

恥ずかしい話しですが、山下さんがご存知であることが唯一の手がかりです。ぜひ、何でも結構ですのでご教示いただけませんか。」

山下は目を逸らすことなく吉田を見つめている。

「2025年。大阪万博が開催されることが決まっております。

吉田様。

大阪万博に当社はパビリオンを出店する予定でおります。

こちらも東京オリンピック・パラリンピックと同様に和の文化を伝えるものを考えております。

そのパビリオンのキャッチコピーをご提案いただけますでしょうか。

締め切りは1ヶ月後になります。

当方からお伝えできることは以上です。」

慎吾は山下から目をそらさずその話をじっと聞いた。

「わかりました。

では、1ヶ月後にご提案させていただきます。

コンセプトプレゼンですね。」

吉田の確認に対して山下は淡々と続けた。

「はい。

吉田様。

この案件は複数社でのコンペとなります。

御社の提案を楽しみにしております。」

そう告げると山下は会議室を出ていった。

部屋の空気は変わらず緊張感と重たさが漂っている。

「橘。行くぞ。」

「吉田さん。なんなんですかね?一方的に言い切られた感じですよ。。。まったく。。。。。」

「いいから。行くぞ。」

慎吾はまとわりつく重力を振り切るように立ち上がり、橘を促してエレベーターホールへと向かった。

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「そうか。。。手がかりは無しか。。。」

内藤部長代行への報告を慎吾がすると藤井が寄ってきて話に加わった。

「内藤さん。

吉田くんがMIYABE.COに行って掴んだ情報はコンペです。

しかも丸山さんの話をしているにもかかわらず、かえす刀で大阪万博コンペ。。。

これって、丸山さんが他社に転職したっていうことを示しているんじゃないでしょうか。。。?」

「!」

一同が顔を見合わせたと同時にすぐさま土屋が東京オリンピック・パラリンピックのMIYABE.COのPR素材に目を通した。

「サンダー・エージェントですね。。。」

土屋の十八番の検索スキルで表示された企業の情報を見ていくが、そこに丸山の名前は出てこなかった。

慎吾は土屋のPCを覗き込みながら、土屋が動かすカーソルが止まるのを待った。

マウスが机の上を滑るのをやめると同時にカーソルは静かに消えていく。

「内藤さん。。。確証はないですが、藤井さんの言うことに一理あるように思えてなりません。。。」

慎吾の焦点はすでにPCの画面に映し出されたMIYABE.COのページを捉えていない。


「このコンペの最終選考の先にその答えがあるような気がするんです。。。

内藤さん。

MIYABE.COの案件。俺にやらせてくれませんか。」

内藤はじっと見つめてくる慎吾を見返した。

見返すと同時に、念いが十分に伝わってくる熱量は誰の目にも明らかだ。

「吉田。

最初からそのつもりだ。

責任は俺が取る。

好きなようにやってみろ。

俺は、お前を信じる。。。」


内藤は何の躊躇もなく慎吾の念いに答えた。


「吉田。・・・勝て。」


慎吾は自らを取り巻く重力の急激な変化を感じた。


「勝ちます。」


囁くように。自分に言い聞かせたような「勝ちます」という宣言は誰の胸にも響いた。

「はいはい。じゃ〜、この前のようにチームでやろうよ。チームの方がいいのできるからさw

今回はチームFW(フォロンティア・ワールド)だよ!

全員で行くわよ〜!!

全員で!!」

佐々木の言葉は、そこにいる一人一人の胸の中にじわりと広がっていく。

「みなさん。よろしくお願いいたします!!」

慎吾が深々と頭を下げた。。

「吉田と橘。今すぐ大阪へ行け。現地を見て、感じて、最高のPRを考えてこい!!」

「はい!!」

内藤の送り出しに慎吾と橘はジャケットを掴んでオフィスを後にした。

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スピード感。

以前のマーケティング部にはなかった。

このスピード感は丸山部長から教わったものだ。

「ビジネスで求められるのは、スピードです。
売上、利益、アウトプット。
スピード感を持つ。
そしてそのスピード感は人によって異なります。
チームで動く時に大切なのは、
チームのスピード感をあげること。
時間軸があってくるとチームのアウトプットが高まります。

そして、スピードと同時に大切なのが精度。
この2つのピントを合わせましょう。」

ーーーーーーー

「さて、我々も動くか。

土屋。MIYABE.COと大阪万博関連、それと前回の1970年の大阪万博から前回までの傾向など各種データを二人に送って。

佐々木ーーー」

佐々木はすでに作業に入っていた。

「おっそいわ。」

スピードを体現しているのは先に出て行った2人だけじゃないのよと佐々木の一言は物語っている。
オフィスにいるメンバーもそれぞれが自走する力を発揮している。

丸山が残したのは、表面的なスピードや精度だけでなく、本質的な自走力だったことを内藤は噛み締めた。

「とりあえず、スケジュールチェックしてその他の案件はこっちで巻き取っておくから安心してやってちょーだい。
前回みたいなヘマはなしでよろしく頼みますよ〜。」

藤井も最大限のフォローをすべく、関連の下請け会社にコンタクトを取っていた。

『一人じゃない。

俺一人が動くんじゃない。

チームで動くんだ。。。』


一枚岩


まさにそれぞれが一枚になったかのようなスタートを切ったのだった。


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