[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第12話 道を修める
前回までのあらすじ
メンバーへの説得を前に、4日目のプレゼンノックは母校のプレゼン。その後内藤と吉田はメンバー説得に向けた戦略会議を行うのだった。
<10日間プレゼンノック>
内藤からは早稲田大学、そして吉田からは東京学芸大学とそれぞれが母校のプレゼンを行った。
内藤は在学時に進むべき道を教えてくれた恩師のことを話し、吉田は在学時に打ち込んだバレーボールについてプレゼンした。
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丸山はテクニックについてはそれぞれ身につきつつあることを感じていた。
少しずつだが、相手の立場に立って伝えることもできるようになってきたことにも手応えを感じていた。
それとは逆に、吉田のプレゼンにはまだまだこれで勝ち取れるほどの力強さを感じられなかった。
「吉田。今回のプレゼン。確かにスライドの作り方や見せ方は良くなってきたけど、だから?という言葉が私から続かないように次回は考えてみること。
プレゼンで
「だから?」
「それで?」
のコメントが出る時点で何も伝わっていない。
つまり、感情を動かすことなどできていないということだ。
そのポイントを意識して明日のチャレンジだ。
では、明日。
明日はおすすめの書籍TOP3。楽しみにしてるよ。ちなみに、私のTOP3も明日伝えるよ。」
「ありがとうございます!明日、楽しみにしてます!!」
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ー都内某居酒屋。
内藤は吉田と一緒に明日の課長陣への戦略会議を始めた。
「吉田。とりあえず、ビールは後だ。つまみだけ軽く頼んで考えるぞ。」
「了解です。
内藤さん、ちょっと考えたんで聞いてもらっていいですか?
土屋さんも、佐々木さんも、藤井さんも皆さんそもそもプレゼンを必要としていないと認識されてますよね。
今回のゴールはそれを必要だと思ってくれれば参加してもらえると思うんですけど、その必要さがそれぞれ個々人によって違うと思うんですよ。
だから、個人に合わせたゴール設定をすべきかなと思ったんです。」
「うむ。それで?」
「はい。それで・・・」
慎吾はそう言って手帳に書き始めた。
「メリデメ書いてみたんですけど、ここの相手の真のメリットが明確にならないとやらないですよね。。。」
「お、吉田、良くみてるね〜。うむ。切り口は時間軸とポジションだよな。」
「時間軸とポジションですか?」
「そう。短期的な今を見るのではなくて、組織として3年先を見たときに、どんなスキルがあれば生産性が上がるか。そして、中長期的に、そのスキルがあれば人生においてどんなプラスがあるか。この2つの時間軸とポジションだよ。
俺たちは、毎回同じアウトプットを一定量実行しているわけじゃない。もちろん事業だから生産性を上げて売り上げを伸ばす必要がある。利益を拡大させる必要がある。
だとすると、やることは簡単で売上を伸ばし、利益率を上げるために経費を少なくするわけだ。
絶えず成長することが前提な訳だから、案件数を増やすことと利益率を上げることが重要だよね。
つまり、高額案件をいかに勝ち取るかが勝負になってくる。
リソースは急に増やせないわけだから、やれるのは一人一人の生産性を上げることが鍵になる。
ということはだ、俺とお前はプレゼンスキルを上げることで高単価の案件にすることができるが、取ってきた案件を処理する佐々木課長はプロマネスキルの向上の方にこそ意味がある。土屋課長も同じくより良いデータ、エビデンスをさらに出してもらう必要があるからそちらのスキルアップが必要だ。藤井課長も同様に案件管理の精緻さを求められる。つまりプレゼンスキルを必須としないわけだ。」
「ここで持ち出すのが、時間軸とポジションだ。
我々は3年後も同じ事はおそらくしていない。環境変化が激しい中で今までと同じスタイルのままで突き進めるわけがない。それに業務拡大をする必要がある。組織も変わる。
その時に、今までと同じ事、同じ武器だけでは勝てなくなる。
ましてや、人生100年時代。これからの人生で大きく必要になってくるのは自分を伝えるスキルであるプレゼン力だと俺は思う。
だから、この2つを軸にしてプレゼンしよう。」
「了解です!でも、3年後ってどんな感じなんでしょうね?」
吉田が一安心したのかつまみで頼んだ枝豆を口に入れながら聞いてきた。
「3年後はきっと皆が別の業務を行なっているよ。それくらいビジネススピードが早い会社だよ。だから俺は面白くてこの会社にいるんだけどね。刺激があるんだよ。世界を動かしているような刺激がね。」
内藤は自分自身、心の底からこの会社が性に合っていると思っている。だからこそ、さらに大きな果実を獲りに行きたい。そのためにはプレゼンスキルを磨く事は必須であり、自分だけでなく多くの社員の武器にすべきだと考えていた。
「さて、ビール頼むか。『すみませ〜ん。生2つ!!』」
内藤は明日の朝、会議室で話す内容を頭の中で巡らしながら、届いたジョッキを手にした。
「はい、お疲れさん。」
「お疲れ様です!!」
慎吾は上手くいく気分に酔いしれたが、翌朝、世の中そんなに単純ではないことを思い知らされるのだった。
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