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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第18話 プレゼン合宿

前回のあらすじ

「で、合宿って何やるの〜?」

佐々木が内藤にいささか気だるそうに聞きながらもワクワクしているのはみて取れた。

「前回、俺たちが行ったプレゼンの提案は、丸山部長の合格には至らなかったわけだけど、これは圧倒的なリサーチ力とロジックの貧弱さとエビデンス(根拠)の不十分、不確実さだと思う。
限られた時間で、これらのものを一人で一度に補えるものではないと思うんだ。
そこで、俺からの提案は、プレゼンの課題に対してそれぞれ分担してリサーチ範囲を手分けしてエビデンスを集め、ロジックを構築していくという手法の方がより効率的かつ効果的なプレゼンになりうると思うんだけど。どう?」

内藤はリーダーだけあって皆をまとめて方向性を示した。

もちろん、全員了承だが、土屋が割って入る。

「あの〜。リサーチは私の得意分野ですので、分業するのであればリサーチをお任せいただけませんか?時間は限られていますから手分けをするにしてもそれぞれの得意な分野を担当した方がより効率が良いと思うのですが。」

これにも皆が賛同した。

ということで、

・リサーチ、エビデンス収集:土屋、藤井
・ロジック構築:内藤、吉田、佐々木

のグループに分かれることになった。

「次回はSDGsだから、まずはSDGsについて知ることからですね。」

藤井が皆の認識合わせをするように、PCで『SDGsとは』とGoogleで検索したものをプロジェクターから投影した。

吉田は画面を眺めながら藤井の方を見た。

「藤井さん、ありがとうございます。早速今日から始めたいと思うのですが、今日が木曜ですから・・・。今週末の土曜日の夜にzoomでディスカッションしませんか?それぞれタスクを決めて持ち寄るということで。」

「吉田くん。それじゃ遅いんじゃないの〜。土曜まで待ってたら考えるものも考えられないでしょ〜。段取り段取り。スケジュールはプロジェクトマネジメントの一貫だから、肝よ。肝。

土屋さん、藤井さんと分担任せるけど、今日中に

・SDGsの主要国の取り組み、上場企業での取り組み、個人ベースでの主な取り組み
・SDGsに関する主なデータ

をピックアップして共有してくれる?とりあえず1時間で集められる範囲でいいわ。」

佐々木が言うと土屋は少し怪訝そうにしながらも了承したようだ。

「ありがとう。とりあえず、ここから30分はみんなでSDGs勉強会。
それを踏まえて内藤さんと私と吉田くんはSDGsの今回の事業提案についていくつか方向性を示す。
17の目標があるから、結構大変よ〜。」

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「実際には17の目標の下に169個のターゲット、さらにその下に一部重複があるが244の指標がある。そこが今回の提案内容の手がかりになる。」

内藤がターゲットと指標について話すと

「あの〜。」

藤井が内藤に向きながらも佐々木の目を意識して話す。

「リサーチですが、結局どの項目を行うかを決めてからデータ収集した方が効率が良いと思うんですが・・・。まずは、ここで30分ディスカッションして項目を絞り、その中で選定されたターゲットについてデータ収集する方が効率が良いと思うのですが、いかがでしょうか?」

藤井のコメントには反論の余地がない。

「そうですね。その通りですよね。藤井さん、ありがとうございます。ではざっくりと概要をみんなで理解しながら進めてどの項目を行うか見定めましょうか。」


慎吾はこのやりとりを見て少し不安になった。
そもそも個人で行っていたものをチームでやると言うことは、それぞれの合意を得ながら進めるわけだから、これまで一人で全部を行うこととは、また違った煩わしさや時間がかかることになる。
これが効率的なのかどうか実際のところ懐疑的であった。ただ、明かにチームで行うことでより良いアイデアの創出にはつながることは間違いない。だが、この段階からチーム全体でやる必要があるかについては腹落ちするところまではいかなかった。


30分が経って、ある程度の概要を理解した課長陣は、各々でイメージが湧いたようだ。

「私はジェンダーについてやろうかな〜。」

佐々木が言いはじめた。

「あの〜。私は3番の健康と福祉を。母の介護もありますから結構自分ごととして考えられそうですし。」

藤井が続く。

その後を土屋が続ける。

「私は住み続けられるまちづくりについて興味がありますので11番を行いたいと思います。」

残ったのは内藤と吉田だった。


慎吾はさっきの不安を話し始めた。

「すみません。これ、みんながそれぞれテーマを掲げて、出てきた5つのテーマのエビデンスを抽出するのって、土屋さんと藤井さんにとても負荷がかかると思うんです。

そこで、提案なんですが。。。
テーマを一つに絞って、課長陣全体としての提案にしませんか?
もちろん、テーマを絞るにはディスカッションが必要ですが、最初にここで合意が取れればその後の手間も省けませんか?」

「吉田。それも一つの考えだが、それだと提案が1件に限定されてしまうだろう。そもそもプレゼンノックの趣旨は個々人のスキルアップだ。チームになれば個々人のスキルアップが図れないんじゃないか?」

内藤の意見にも一理ある。
佐々木が手を挙げた。

「う〜ん。じゃ〜さ〜。今回はチーム戦にしてみない?2つ出せば部長もOKよ。
内藤さんと土屋さん。私と吉田と藤井さんでチーム戦でやりましょう。」

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今回は2チームに分かれてのチーム戦になったことを丸山部長にメールをすると「了解。」の文字だけが返信されてきた。


慎吾はこれまでのプレゼンノックで学んだことを思い出しながら、今回のSDGsに当てはめて考えた。

まずは、構成。

課題→原因→解決策→効果

これに照らし合わせると、課題はすでにSDGsの課題があるわけだからどの課題をチョイスするか。そしてその原因に進む前に、そもそもなぜその課題選定をしたのかの動機が必要なはず。

その動機が不明確であれば実行ができない。

また、今回のSDGsの17のターゲットではまだまだ抽象的だから、さらに一歩踏み込む必要もある。

ここで慎吾はあることに気づいた。

『それぞれが個々の意見を相手に伝えながらまとめていくプロセスは、プレゼンそのものだ。』

ジェンダーについて実施したい佐々木、健康と福祉についてプレゼンをしたい藤井、慎吾は教育について行いたかった為、すでにこの時点でプレゼン大会だ。

なぜ、そのテーマについて実施したいのか。


吉田「佐々木課長はなぜジェンダーについてやりたいんですか?」

佐々木「ん〜。なんとなく。前から興味あったから。」

吉田「藤井課長はお母様の介護があるからとおっしゃってましたね。」

藤井「はい。そうなんです。ですが、もしやるのであればといった感じですから、別の案件でも大丈夫ですよ。チームでやるということは皆さんの時間もいただくことになりますから。」

佐々木「吉田くんはどうなのよ。何やりたいの?」

吉田「僕は教育です。大学でも専攻していましたし、ゆくゆくは教育に関わる事業に携わりたいと考えているので。」

佐々木「みんなバラバラだからどうしよっか?ジャンケン?」

吉田「それはないです。あみだも無しです。ディスカッションで。
今回はプレゼンノックでプレゼンスキルをあげることがゴールです。おそらくテーマは何であってもプレゼンスキルを向上させる上での学びがあると思います。」

佐々木「じゃあ、なんでもいいんじゃない?」

吉田「いえ。そこで何でもいいのではなくて、最終的にプレゼンする際に念いがなければ前回同様に実効性の低い上部のプレゼンになるんです。だから、ここは念いが強い人のプレゼンに寄せるべきだと思うんです。」

藤井「あの〜。私の場合は母が要介護ですので健康についてはとても関心があるのですが、具体的に何をするという所までは考えが及びそうにないんです。現実の介護で手一杯ですから、正直さらに世の中においてという所までは余裕が回りそうにない。プレゼンしても実際問題、実現するとかどうよりも、やりきれないと思ってしまいます。
ですから、私は学生の頃から念い続けている吉田さんが適任かなと思います。教育はこれからを担う子供たちに必要です。
すでにうちの娘たちは成人しましたが、これから将来、結婚して孫ができるとその孫たちにも教育が必要です。私は吉田さんの教育に一票入れます。」

佐々木「じゃ〜、吉田くん自身の票を含めて2票になるから吉田くんの教育のテーマで進めましょうか。元々あなたのために開かれたプレゼンノックだしね♪」

『4.質の高い教育をみんなに』

慎吾の念いを仲間と作り上げるプロジェクトがスタートした。


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一方、内藤と土屋は人数が二人であることもあり、スムーズに内藤主導ではあるものの、テーマは土屋が興味を示した、

『11.住み続けられるまちづくりを』

に決まった。

効率よく、スムーズに、スマートに内藤が指示を出し、それに対するエビデンスを土屋が提供するプロジェクトは、正に阿吽の呼吸。
痒いところに手が届くように資料は仕上がっていった。

ある程度の目処がついた頃、データを持ってきた土屋に内藤は聞いた。

「ところで、今回、住み続けられるまちづくりのテーマでローカルをどうすべきかに迫ることにしたけど、土屋さん実家は福井だよね。」

「はい。福井です。福井って言っても鯖江市ってところで、メガネが有名なところなんですよ。知ってました?」

「へー。メガネか。もしかして、土屋さんのメガネって。」

「はい。金子眼鏡っていう鯖江のメガネ使ってます。これも小さいですけど、私のSDGsですねw
私みたいに地元から東京に出てきて就職して、なかなか地元に帰らないんですけど、30歳になってこのまま東京で一人仕事していていいのかな〜って時々考えるんです。
去年、実家に帰った時には、小さい頃によく行ったスーパーもなくなっちゃって。。。商店街もシャッターだったし。何だか寂しいような、でも何か私にもやれることってないのかなって。。。
そんなことを考えている中で今回のプレゼンだったので、何だかチャレンジしたくなりました。すみません。」

内藤は、いつにも増して積極的に取り組んでいる土屋を見て、念いが込められる仕事こそ推進力が発揮できることを受け止めていた。

プレゼンテーションの原動力は、やはりその資料にこめる製作者、発表者の念いがなければならないのだと。

「土屋さん。今回のプレゼン。土屋さんが話そう。」

「え?!わ、私ですか?無理です。無理です。内藤さん、お願いします。。。」

「いや。その強い念いが言葉に乗って伝わるんだよ。
昔から、言霊っていうだろう。今回のテーマのチョイスは土屋さんだ。土屋さんのプレゼンなんだよ。
一緒に、最後までいいものにしよう。」

「は、はい。。。わかりました。。。でも、勝てる自信が全くないんですが。。。上手に話せる自信もありません。前回、緊張して早口で話してしまって部長にもご指摘いただきましたし。。。」

「大丈夫。練習をすればいいだけだから。一緒にやろう。チームなんだからね。絶対上手くなる。そして上手くいく。さあ、そうとなれば今回のプレゼンにもっと鯖江についても接点を増やそう。土屋さんの言葉になるように。」

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こうして、それぞれのチームはプレゼン制作に入って行った。

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