教育産業の構造分析してみる
山根節著の『「儲かる会社」の財務諸表』(光文社新書)https://amzn.to/3B2SHhn
を読み直していると、産業分野の分析でAppleの公表BS(2014)が使われていて、今更はっと気づいた。
詳しくは上の書籍をご覧いただきたいが、Appleという会社は、デザイン・店舗販売はするものの、デバイスの資源や製造は外国で外注しているのは有名な話だ。BSを確認すれば、セブンイレブンなどの小売業も、企画設計は自前でおこなうものの、製造設備など固定資産を持たないようにしていることがわかる。
「資源→製造→サービス」のくくりで分けると、資源はサムスンで、製造は鴻海などの精密製造工場が担っている。「サービス」にあたるのがAppleということだそうだ。
で、ここで話したいのは、この「資源→製造→サービス」という大枠を教育産業に当てはめるとどうなるかということだ。そしてそれが自分自身の活動理念とどう関係するのか考えてみたい。
教育産業をこの3つに分解してみよう。
「資源」はテキストや問題集、動画など教材、
「製造」は教師による指導・授業・講義
「サービス」は企画・学習塾「店舗」ということになるとしよう。
(※これはあくまで僕の仮説でしかなく、一般にそう言われているわけではない。しかも主要教育関連企業のBSをちゃんと確認していないので、あくまで自分の理念を話すための構造分析にすぎない。だが、それなりに説得力があるかと思い、いい加減だが少し実験してみる。)
「資源」であるテキスト・問題集を四谷大塚のように自社で製造するところもあれば、塾専用教材を制作している教材会社(おそらく自社が出資している別会社)から原価に近い値段で買い取り、非売品として使用するところもある。もちろん教材費として請求する際に「手数料」をつけて、運営費が賄えるように設定する。
また、「製造」するのは、教師の授業である。顧客に人気で質の高い授業は高値で取引される。質の高い授業を集めて評判を呼ぼうとする、大手予備校のような経営方針を選ぶ場合、製造先に外注してるのと似ているかもしれない。製造会社である予備校講師は、サービス側の予備校に不服であれば、別の予備校へ移ることも多い。(河合塾から代ゼミ、代ゼミから東進みたいな)また、小中学生を対象とした学習塾の多くは、「店舗」が託児所として機能するという利点を利用した上で、少々質の下がるリスクがあったとしても、安価で取引できる「教師」(多くは学生身分)を「自社製造」する戦略といえるだろう。
特に学習塾は店舗があることが重要である。最近はオンラインレッスンも流行っているが、塾に求めるのはやはり店舗=託児所であろう。だからこそ、多くの学習塾が、駅前に共働き夫婦がすぐに立ち寄れるビルのテナントに立地している。夕方仕事が溜まってしまっても、子どもに塾にいてもらえると、残業しやすい(だけどコロナで、この狙いも今後ズレていることになるかも)。
一方で、駅前より家賃が安く、住宅街にほど近い、幹線道路に面した土地にプレハブ小屋を建て、店舗、製造、資源すべて安価にして「親しみやすい値段」設定で、サービスを提供する「釜揚げうどん屋」的な「全身もみほぐし」的な学習塾も存在する。
いずれにせよ、塾として経営するためには、店舗を用意することが何より重要だが、店舗では利益をあげることはできない。代ゼミのように不動産投資、固定資産を増やすことで利潤を上げるというスタイルもあるだろうが、いわゆる「重い資産」をたくさん持つのは、借り手がいなければ成立せず、ランニングコストが大きいので、そもそも資金がなければ手を出せないビジネスモデルな気がする。
ということで、やはり一般的な(僕もそうだが)民間の教育機関は、店舗はなくてはならないが、それだけを運営しても利益率を上げることは難しい。だからこそ、多くの教育産業が、「企画」者というスタンスで、「資源」を安価で外注し、安価な「製造元」と契約することで、運営費を獲得しようとする。
だが、これはやりすぎると、「仲介手数料とりすぎ」ということになる。大手の不動産会社で聞く話だが、半額仲介手数料だけど、家主から1、5倍手数料をとり、さらに別の形で顧客から自社商品を売りつけることで、ふつうの2倍以上の利益を生む。そのような仕組みを教育産業でもやろうと思えばいくらでもやれるだろう。
たとえが、多すぎてよくわからなくなりそうなので、話を戻そう。
つまり、教材を安く仕入れ、教師から仲介手数料を余計にとることで塾経営は成立するということだ。結局店舗を持って運営すると、間に入る人件費が多くなるので、そうせざるをえないのかもしれない。
で、ここまで考えてみて、思ったのだが、「あ、俺がやりたいのって、Appleを非営利でやってみることだったんだ」ということである。
要するに企画や店舗運営は非営利法人が行い、あとは教師が直接契約する。場所貸しして教師と契約する場合もあるかもしれない。
どうせ店舗運営は儲からないのだから、はじめからそこは非営利法人として、関わる人たちで運営すればいい、そう思ったのだ。それだけではない。けっこうここで重要なのは、企画を非営利法人がやるということだ。
それはどういうことか。
どんな授業をしてもらいたいか、どんな授業をしたいのかを生徒や教師が企画し、それを実現する場として非営利法人があれば、Appleのように、アイデアが浮まれ、そしてそれを実現する場として、新しい教育機関として機能するのではないだろうか。(最近のAppleのアイデアが個人的にあまり好きではないのでこの際置いておいて…)
自分たちが学びたいことを「製造元=教師」に外注する。自分たちの学びたい教材を外注する。集まる場所は、非営利法人が運営している。そこは、学ぶ場所であり、どんなふうに学びたいか議論する場であり、託児所でもある。
もしこのモデルケースが広まるなら、教育産業を変革するメッセージとなるかもしれない。
次回、もう少し僕のもとめている学ぶ者の「かたち」について考えてみたいと思う。
以下参照した書籍。