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ピリ辛な旅

2月が終わると、旅したいなあと思い始める。
受験業界の冬は忙しい。忙しくて頭が回らなくなる日々が続いた後、終わりが見え始めると、そんなふうにトリップしたい欲に駆られる。
でもそんなふうに思うのも不思議である。
そもそも僕は旅が好きでなかった。
いや、もっというと自分の家でないと眠れない。
ベッド、枕、シーツ、光の加減そういうのがいつもと同じでないとそわそわして寝付けないタイプだった。
それに人と好き好んで話したいわけでもなく、できれば一人で時間を過ごしたいので現地で誰かと仲良くなって、バーティに参加!的なことにも全くならない。
インドにいって人生変わったとか、自分のこれからについてゆっくり考える時間ができたとかいろいろ旅についてのポジティブな面を言う人もいるだろうけど、僕にとって旅はそんなポジティブなものではない。その気持ちははじめて旅したときから変わっていない
旅するっていうのはあまり心地いいことではないのだ。
日本語が通じて、どこにでもコンビニがあるこの国のほうが快適。その生活はスマホのおかげでより一層磨きがかかっている。

旅すると、たいていいいことばかりではない。困ることを体験してしまう。だからといって空港からホテルまでタクシーで行ってショッピングしてそれで終わりみたいな旅がしたいわけではない。
もちろん、身ぐるみ全て剥がされたとか、パスポートを失くしてどえらい目にあったとかそういう武勇伝的な話がほしいから行くのでもない。


日常から離れて不便な生活を自ら強いると、日常が大切なものだったと自覚できる。日常の強度が増すというのだろうか。
だから少しだけ辛いことが欲しい。そうすれば、昨日までの生活が明るくなる。
大辛ほどではなくピリ辛くらいの旅。
これが僕の旅への欲求なのかもしれない。

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