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「脱・楽天」のEC論

EC市場は既に飽和状態に入っています。私は2000年ごろからEC事業を始めましたが、当時は黎明期でごく小さな市場でした。そこから成長期に入り、見る見るうちに巨大市場になったのがEC業界です。

一般的にECというと、Amazonや楽天のようなプラットフォーム、あるいはヨドバシやユニクロのような大手小売りが独自でやるショッピングサイトや、メルカリのような個人間の売買を連想すると思いますが、広義で捉えると、もっともっと大きな世界が広がります。

例えばGOタクシー、あるいはUber Eats、ホテル予約、レストラン予約など、要はネット上で探して予約し、その場で決済完了するものであれば、それはEC(電子商取引)です。そう考えると、小売りや卸売りだけでなくサービス業でも、ECが当たり前に広がっている現状は理解できると思います。

「当たり前」の市場とは、すでに供給は飽和状態になっているということです。やってるのが当たり前とはいえ、新規参入のしやすさは10年前と今では大きく違います。

進化するものとしないもの

市場ができ始めてから現在までの間に、テクノロジーは大きく進歩しました。また、当初はPCサイトがメインだったものが、今はとっくにスマホファーストのUIになっています。商材や販売対象によって違いはありますが、おそらく商取引の7~8割はスマホ経由ではないでしょうか。

ECサイトは、一握りのプロしか作れないものから、もはや少し学習すると誰でも作成できるようになりました。ブログベースでのサイト作成が広がり始めたときから、急速にこうなることは予測できましたが、今後はAIによりもっと劇的に進化するでしょう。今後「Web制作」を事業とするには、特定の業種に専門特化してプラットフォーム化したり、Wordpressなどの小規模向けツールではなく、ハートコアのような本格ツールのプロフェッショナルになるくらいしか、選択肢はないように思います(顧客層が全く違うので、転換は苦労するでしょうけれど)。

クレジットなどの多様な決済手段を導入するハードルも、大きく下がりました。以前は決済代行会社と個々に契約して、手数料を交渉したりしていましたが、今や独自ドメインのサイトでも、それらが予めパッケージ化されたカートシステムを使うケースが増えています。

一方で、進化していない部分もあります。日本の場合、ECの利用はAmazonの他に楽天という国内王者やYahoo!ショッピングなどのプラットフォームが主流です。そして、それぞれがEC以外のサービスも合わせたポイントで囲い込むなど、過激なシェア争いをしています。この「少数のプラットフォームに依存する状況」は、黎明期から変わらない部分です。

脱・楽天の必要性

しかし、楽天にしてもYahoo!にしても、その中でやはり飽和状態が起きています。少し見るとわかると思いますが、この分野はさすがにないだろと思って調べても、大体多くの会社が出品しています。

例えば同じ楽天の中で、同じ商品を後発で出そうとしたら、できる戦略は限られてきます。多くの場合は、値段を安くする、ポイントを多くつけるなどの消耗戦に入っていきます。そうせざるを得ないからです。

これらの中で、広告やメルマガ、クーポンをうまく使うとか、プラットフォーム内SEOを意識してコーディングするなど、小手先のテクニックはいろいろあります。しかし、例えば楽天であれば、出店の基本料金に加えてポイント原資負担、システム利用料、メルマガ配信、クレジット決済など、多くの細かい手数料が加算されていきます。

結果、このようなラットレースで疲弊しながらも、ほとんど儲からないという事態になりがちです。

加えて、メーカーによっては値引き販売やポイント付加を禁止するところも多くあります。これは独占禁止法違反の疑いがありますが、メーカーもそれはわかっているので、公にわかりやすく圧をかけてくることはしません。メーカーの意向に沿わない価格で販売した会社には、様々な理由を付けて取引を停止してきます。そうなると、それに売り上げを依存していた会社は、大打撃を受けることになります。

どちらにしても、ECプラットフォームでやってる以上は、ラットレースの消耗戦にしかなり得ません。各分野の王者は既に存在していて、それ以外の企業が後発参入するには、とても厳しい戦いを強いられるのが現状です。消費者にとって、何を買うかと同じく「誰から買うか」も重要で、多くの人が買っている会社から買う方が安心感があるものです。それがブランドということです。

脱・楽天に必要なもの

では、脱・楽天のためにはどうすればいいのでしょうか。使用ツールなどの議論は脇に置いて、もっと根源的な部分を考えていきましょう。

商品(サービス)力

まず「何を買うか」。他のどのサイトでも売っている型番商品の場合、前述のような消耗戦に陥りがちです。それを回避する方法は3つです。

  1. オリジナル商品
    どこにでもある商品を避けるために、自社オリジナル商品を作り、単品通販で徹底的にプロモーションを行います。今は様々な分野のOEM製造元が存在しますので、比較的「製販分離」しやすいのも魅力です。

    ただし、綿密にリサーチしても、わかるのはせいぜい5割。あとはやってみないとわからないのは、他の新規事業と変わりません。また、当然ながら製造にはロット数が必要で、容器やラベル、説明書なども自前で作る必要があります。売れるかどうかわからないものをある程度発注し、在庫を持つというリスクは存在します。リスクを下げるためにテストマーケティングをするにも、それなりの知見と人員が必要です。

    まさに「言うは易し行うは難し」ですが、EC事業者にとっては挑戦しがいのある分野です。

  2. 組み合わせ
    たとえ既成の型番商品であっても、既存の自社商品やサービスと組み合わせで販売すると、オリジナル性を帯びてきます。これは、既存事業の水平展開をECで行う際に最もやりやすいです。

    例えば、ペットのしつけ教室をやってる会社が、ペットフードをEC販売するようなケースで、1万円以上の定期購入者にオンラインでしつけ相談できるIDを発行するなどです。前述のGOタクシーやUber Eatsなどがこれにあたりますが、この手の組み合わせはアイデア次第で無限に生み出すことが可能です。

  3. サービス力
    これは商品によって違いますが、例えば多種多様な類似商品がある分野で、購入者が常に迷いがちな場合、その購入を手助けしてあげるコンシェルジュ的なサービスを付加すると、それだけで価格以上の付加価値を感じられるものです。

    これはアフターサービスではなくビフォアサービスですが、リード(見込み客)を集めるためにはこのようなサービスを徹底的に告知するのも、差別化に繋がりやすいです。

企業ブランディング

何を買うかの次は「誰から買うか」ですが、それに必要な安心感のことをブランドと言います。よくブランディングという表現をされますが、端的にいうとそれが必要です。しかし、私は安易にブランディングという言葉を使う事にはずっと抵抗を感じています。なぜなら、周りを説得する実績もないのにブランディングなんてできるはずがないからです。

よく「社長ブランディング」と言って、SNSに社長が登場して、自分の考えを述べたりしています。しかし、たとえその考えが共感できるものであったとしても、それがブランディングに繋がるでしょうか?多くの人は、「で、この人の会社はどれくらい実績あるの?」と思うのではないでしょうか。

その視点で、SNS上で影響力のある人や企業のアカウントを見てください。必ず、実績が数字で出ていると思います。「創業〇〇年で年商〇〇億円」とか「社員〇〇〇人、今年国内〇ヶ所目の拠点開設」とか。さらに調べてみるとユニークなビジネスモデルで急成長している会社で、へーこんなすごい会社があるのかと。それがあるから、社長のブランディングができるのであって、要は企業のブランディングなくして、社長のブランディングなんてできないのです

まずは自分の事業を数字で表してください。それは売り上げなどの数字だけでなく、例えば退職率の低さ、市場占有率の伸び方などでも結構です。

その際、邪魔になるのは同業者目線です。同業者にとって、別に驚くような数字ではない場合でも、消費者にとっては説得力があったりします。しかし、同業者の目を気にして、こんな数字をドヤ顔で出したら格好悪いと思ってしまいます。まず、その視点をなくすことです。会社にとって最も重要なステークホルダーは顧客であり、同業者ではありません。同業者の冷笑なんて、ガン無視でいいのです。

一方、新規創業などでそのような数字が一切出せない(何も実績がない)場合もあり得ます。その場合は、この商品を通じてどんな世界を作りたいのか、そのコンセプトをしっかり打ち出して、世界観を創り出してください。

脱・楽天の最大のメリット

売上に対する利益に関しては、自社ECのマーケティングにどれだけのコストをかけるかによっても違ってきます。が、圧倒的に大きなメリットがひとつあります。

それは、自社の顧客リストが作れるということです。

多くの方が、ここを軽視しがちなのですが、通販企業の最大の資産は、生きた顧客リストです。決して商品ではなく、サイトの完成度でもありません。しかし、楽天などのプラットフォームで買ってくれた人のリストは、自社のものではありません。楽天のものです。ですので、それを使ってDMを送るなど、他の用途で使うことはできません。

楽天は、そのリストをもとに他の金融やトラベルサービスのメールを送ったりします(もちろんオプトインしたユーザーのみ)。つまり、楽天に出店している以上、頑張って楽天の顧客リストを作ってるようなものです

通販事業を行う以上、実はこれは致命的な部分です。私は事業としてM&Aのアドバイザーをしていますが、今でこそ楽天は出店サイトの売買ができるようになりましたが、少し前まではできませんでした。売買ができる今も、それはあくまで契約してる間の顧客リストであり、解約した瞬間に権利は消滅します。

「脱・楽天」とは、何も楽天だけを指しているのではなく、プラットフォームでの消耗戦を避けて、自社ECを伸ばしていくことを意味しています。ECがこれだけ広がった今こそ、「どのプラットフォームが売りやすいか」という他者依存的発想ではなく、自社のコンセプトを売り出したオリジナルECで勝負して、ぜひ自社の顧客リストを作っていってほしいと思っています

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