月曜日には、彼女のご機嫌うかがいを。

「おはようございまーす。さ、今週もよろしくお願いします！」月曜日の仕事は、ご機嫌うかがいから始まる。ご機嫌をうかがう相手は私の相棒、Windows、surface proさんだ。

surfaceさんは、ちょうど二年くらい前から平日の昼間はほぼずっと一緒に過ごしている。surface proというタブレットタイプに、キーボードを取り付けてもらっている。

ペンシルやらなんやら、私には使いこなせない機能が多い。使い始めたばかりのころは押したつもりはないのに、突然「タブレットモード」に変わってしまっていたりした。そうなるとキーボードでの操作を受け付けてくれないのだ。モードの変換しなくていいよと、どうにかして設定を直すだけでも一苦労だ。テキスト入力と、メールなど最低限の操作ができれば良いだけなのに……。そう思いながら、なかなか気難しい相棒を好きになれない日が続いていた。

データ入力といった単純作業もあるので、Bluetoothで接続したワイヤレスのマウスも使っていた。タブレットとしての使い方としては間違っているような気もしたけれど、私が機種を選んだわけでもない。会社から支給されたもので、文句を言っても聞き入れてもらえるわけじゃあない。「とりあえずその子とさ、仲良くやってよ」社長はそう言って取り合ってはくれない。

使い始めて一年も経たないころ、マウスが反応しなくなってしまった。電池切れだろうか？ と何度も電池を変えてみた。Bluetoothの設定を色々と調べてみたし、マウスの会社に問い合わせてみたりもした。けれども、結局何が原因で使えなくなってしまったのかは分からない。接続設定のために時間を割き続けるのもバカらしくなり、マウスを使うことをやめた。マウスがなくたって、surface さんは優秀なのだから。私がsurfaceさんに合わせれば良いのだろう。

そうして私はマウスを使わないようになった。そもそもMacには右クリックとか左クリックなんて存在しないのだし。そう考えるようにした。はじめのうちは操作に四苦八苦したものの、マウス無しに慣れてしまえば、むしろマウスが無い方が快適になった。

そうしているうちに、今度は画面に問題が起きた。ディスプレイの画面下、三分の一くらいが小刻みに揺れているのだ。

何を言っているのか、分からないかもしれないけれど、とにかく画面が揺れている。かたかたかたかたかたと、足首から下だけを激しく揺らしている貧乏ゆすりのように。

かたかたかたかたかた。かたかたかたかた。

……うんざりした。
原因は何か、色々と調べてみた。何度も初期設定やら再起動やらをおこなった。ただ、どうやら同じような悩みを抱えている人も多く、ディスプレイ自体のバグの可能性が高いようだった。メーカーは保証期間が過ぎていると対応してくれないし、リコールのようなことにもなっていなかった。

画面の下三分の一が揺れているなかで作業を進めるのは、どう考えも効率がわるい。むしろ作業しないほうが良い。揺れているなかで作業をしても、間違って入力してしまうし、間違いに気づかない。かたかたという揺れがひどい時には、思い切って作業の手を止めることにした。

しかし、この不具合に法則のようなものを発見した。

そう、月曜日の朝は調子が悪いのだ。

どうも、土日の二日間をカレンダー通りに休み、さあ月曜日！　というときにsurfaceさんはどうも調子が悪い。「わたしってー、月曜日苦手じゃないですかあ？」とグダグダ言っているように思えてならない。

始めのうちは、「こいつ、もう相棒として失格やな。買い換えてもらえないだろうか？」ということばっかり考えていた。

しかし、社長は「うーん、それまだ二年も経ってなくない？」と買い替えにたいして色よい返事はくれそうにない。そりゃそうだろう。買い換えたばかりで、それほど機能を使い込んでいるとも思えない。それなりに高額だった機種をポンと買い替えるのを渋るのも無理はない。「もうちょっと様子見てみて」そう言われるまま半年近くが経過した。

そして今日もまた、かたかたかたかたと小刻みに揺れるディスプレイとともに仕事が始まる。けれど、surfaceさんは月曜日でも「調子があがってくる」と小刻みに揺れることはなくなり、火曜日以降はツンと澄まして「おはようございます」と何事もなかったかのようにわたしの作業を受け入れてくれる。それが分かってくると、どうにかして月曜日のご機嫌を伺えばなんともなく楽しくやっていけるんじゃないか？　と楽観的に思えるようになった。surfaceさんは月曜日、調子が出ないのだ。私だって月曜日は、ほとんどぼんやりしていて、ロクに仕事をしていないじゃないか。何が違うのか？　おんなじではないか。

こうして、私の月曜日は、ご機嫌伺いから始まる。

「surfaceさん、おはようございます。今朝のご機嫌いかがでしょうか？」

「わたしって、月曜日の朝はちょっと、調子でないじゃないですかあ？」

今日も一日仕事が始まる。気難しい相棒の様子を伺いながら。