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一方的な再会だけど、元気そうで嬉しいよ。

「え? ちょちょ、ちょっとまって? リサちゃんって、あのリサちゃんか?」

数か月前のこと。朝の支度をしながら、時計代わりにつけている朝の情報番組をなんとなく見ていた。朝の情報番組は、これといって内容は頭に入ってこない。ただ、テレビで放送されていることにくぎ付けになってしまうと、朝の支度が一切進まなくなる。朝ドラも、「まんぷく」まではBSで7:30から放送されていたものをみていたけれど、その15分間はずっとテレビを見てしまうため、身動きが取れない。洗濯物をベランダに干しに行けなくて、なんどやきもきしたことか。

朝の情報番組は、大した内容は何も話していないくらいでちょうどいいんだろうと思っている。

その日の特集も、はっきり言ってしまうと視聴者にとっては何にも意味のないことだった。「新しい家電を購入して、ご自宅に搬入するまでを密着!」みたいな内容。購入された方にとっては、たしかに一大事だろう。もう何年も使用していた二層式の洗濯機を最新ドラム式に買い替えたり、なんてことがあったら、ドラマ以外の何物でもない。大家族の台所に、食洗器をとりつける、なんかもドラマとしては成り立つだろう。

ただ、朝の情報番組で取り上げるには、これまで使っていた家電のデメリットを上げる。家電を選び、自宅に搬入。簡単なビフォアフター企画としての紹介だった。

たいして興味もなかったので、テレビの音量を小さくして、洗濯物を干してしまおうかなと思っていた。

しかし、テレビ画面に映し出された女性をみると「え?」と、画面にくぎ付けになってしまった。その人は、知っている人だったからだ。

5,6年前くらいに、わたしは短期アルバイトをしていた。そのバイトは夏や冬のセールに合わせて行われる商業施設の抽選会場のアルバイト。派遣のアルバイトみたいに、一応登録制のような形態で「次の連休、バイト入れますか?」と、直前になって連絡が来る、という感じだった。

そこで、当時はまだ大学生だったリサちゃんと、一緒にバイトをしたのだった。

短期バイトでは、毎日同じメンバーではなく、入れる人が一日単位で変わっていったので、リサちゃんと一緒に働いたことは数回しかない。けれども、元気いっぱいで、わたしが一緒に入った日は「やばい、寝てない!」とか、「テストやばい!」とか、なにかしら慌てている印象が強かった。リサちゃんとは8歳くらい年が離れていて、あんまり話が合わないところもあるにはあった。けれど、「ちょっと悩んでて」などと、本当にちょっとした悩みを相談されたりもした。

仕事自体はすごくてきぱき、きっちりやる子だった。就職活動も早い段階で内定をもらえたけれど、もう少し希望の職種にチャレンジしようか、などと話していた。

そうして、リサちゃんは社会人になり、わたしも短期バイトはやめて、今勤めている職場に就職した。

もうリサちゃんには何年も会っていない。道ですれ違うこともなかった。しかし、偶然テレビに出ていたのはリサちゃんで、一方的ながら懐かしい気持ちになった。

リサちゃんは結婚していて、子どもを抱っこしていた。にこにこと、嬉しそうに新しい家電を自宅に迎え入れる様子が映し出されている。テレビの画面いっぱいに幸せそうなリサちゃんの笑顔が広がっていた。

その様子を、じっと見ていると、なんだかとても嬉しかった。数えるほどしか同じ現場に立つことはなかった。けれど、地下の倉庫でちまちまとチェックシートを突き合わせてたリサちゃんが、しっかりと子供を抱っこして、幸せそうな笑顔を見せている。

「テレビで見たよ!」と、連絡するほど仲が良かったわけでもない。Facebookで追うこともできるけれど、それをするつもりもない。ただ、あれこれ不安だと言っていたリサちゃんが、幸せそうで何よりだ。朝のあわただしい数分間だったけれど、温かい気持ちになれてとても嬉しかった。



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