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もう、なつかしい。

海の家で食べたばかりの焼きそばが、もうなつかしい。

できたての焼きそばは、かつおぶしのダンスステージ。湯気を浴びて、ひらひらゆらゆらと踊っている様子を見て、同じように腕を動かしてはしゃいでいた。

「ひとりでひとつ食べれるもん!」と威勢良くかき氷を食べはじめたのに。途中で飽きてしまったのか、けっきょく氷のかけらが浮かぶ砂糖水を僕が飲み干した。べえっと舌を出すと、緑色に染まっていて「宇宙人みたいだね」って笑い転げたのに。

その笑い声は耳に残っているはずなのに、もう聞こえない。

海からの帰り道、向かい合って座る電車の中で拾った貝殻を手のひらにのせて、何度も眺めていた。

たっぷり遊んで、疲れてしまったのだろう。ぐらぐらと首を揺らして眠ってしまった。やわらかく、少し開いた小さな唇も、電車を降りるころにはもう見られない。

ポケットに手を突っ込むとざらざらした浜辺の砂と、思い出のかけらがぽろりとこぼれ落ちた。


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