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こたつから抜け出さなきゃ

「うぅ、もうヤバい……」
もう、我慢の限界だ。これ以上むりをしたら、後は大惨事が訪れるだけ、それは分かっているのに。

でも、どうしてもギリギリまで、この場所から出たくないのだ。そう、「こたつ」という暖かい場所でじっとこもり続けたい。トイレに行きたい、という生理的な現象すらも、なかったことにしてしまいたい。

こたつの魅力には抗えなくて、トイレにいくのをがまんしたり、布団で寝たほうが絶対に良く眠れるのにうとうとして「今日はもうこたつで寝るー」といってみたり。

ただただ「足が暖かい」っていうだけなのに、なぜか抜け出せないんですよね。

私の母は、絶対にこたつで足を伸ばさない人でした。足を伸ばさない理由は単純明快で「出たくなくなるから」でした。

忙しく家事をしていた母に対して、ときおり父が「こたつに入ってゆっくりしたら?」と、労いの言葉をかけていました。けれど、母は「こたつなんかに入ったら、お尻に根っこが生えて、動きたくなくなるわ。かわりに洗濯物たたんでくれはる?」と言ってはその場を立ち去っていました。そんなとき、私は「私ばっかりがぬくもってたらあかん。お母さん寒いし、かわいそう」と妙な使命感と罪悪感を持ち合わせて母の手伝いをするため、決死の思いでこたつからはい出したことを思い出します。

今暮らしている家には、こたつはありません。こたつに入ると、動きたくなくなるから入らないと言い切った母の気持ちもすごく分かります。

でもこれって、自分のいる環境にも置き換えられますよね。

暖かくてちょうど良くて。熱が直接あたる場所は、長く居たくない。なんとなくついているテレビも、真剣に見てるわけじゃないけれど、だらだらとみてしまう。外に出て、やりたいことは数えあげたらきりがなくて。ここから出てしまえば、なんてことない。はじめだけ、ちょっとつらいけれど、すぐに慣れる。

ここから出る、という決意だけが揺らいでしまって、お尻に根っこが生えてしまう。根っこは気がつかないうちにどんどん成長していく。いざ抜こうと思っても、自分ひとりの力だけではもう難しい。スコップで、周りの土を払ってもらわないといけないほど。

えいやっと抜け出す、その一瞬の気持ちの切り替えだけが、どうしてもできなくて。ぬくぬくとあたたかいこの場所にずっと居続けたい。頭の中では、「それはムリだよ」と分かっているのに。

外が寒くても、魅力的なことがたくさんあるのは分かってるんです。でも、なかなか一歩が踏み出せないんですよね。

あたたかくて居心地の良い場所があって、そこにはいつでも戻っていい。

そう思って、「こたつ」というあたたかく居心地の良い場所からサッと飛び出したいものです。いつかは出なきゃいけないと分かっているのなら、うたた寝をして風邪をひいたりしないうちに。

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