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よく見てて、おもしろい。

普段利用している電車で「父の日ありがとうギャラリー号」というキャンペーンが行われていた。

父の日にちなんだ似顔絵や思い出の写真を応募して、選ばれた人の作品が電車内に貼り出されるというものだ。キャンペーンの応募はすでに応募は締め切られている。そして6月3日からは似顔絵や写真が普段は広告が貼られている場所に掲示されるようになった。

先日ぐうぜん乗った車両は、子供たちが描いた「お父さんの似顔絵」でいっぱいになっていた。普段なら英会話教室の広告や新しく立つマンションのイメージ広告や、「夏がくるまえに、素肌に自信を」といったエステの広告が貼られている場所に、色鉛筆やクレヨン、水彩えのぐで書かれた誰かのお父さんの似顔絵がびっしりとあった。

ぐうぜん乗り合わせた車両がこんなことになっているなんて知らなかったので、ちょっと感動して、いろんな「お父さん」の似顔絵を見せてもらうことにした。

家族でどこかに出かけている様子とか、まだ絵が描けるような年齢じゃないらしく、青や緑の色鉛筆でぐしゃぐしゃっと線を引いたようなものもあった。

そのなかで、妙に気になる絵が二枚、並んでいた。

一枚はおそらく男の子が描いたもの。(その似顔絵には、絵をかいた子供の名前と、似顔絵のタイトルやお父さんに向けたメッセージを書くスペースがあったので、そこから推察した)

その絵には駅名や、電車の型番や、キハなど電車に書かれた文字、電車についてよく知らないわたしにはなんだか分からないアンテナ? のような絵などがびっしりと書き込まれていた。画用紙の少し端のあたりにお父さんと子供の絵が小さめに描かれていた。電車についてもっといっぱい描きたいのにお父さんとの思い出も描かなくっちゃいけないんだった……とくらいの小ささだった。

きっとその子はまだ年齢は幼いけれど電車が好きで好きでたまらないんだろう。お父さんと一緒に大好きな電車について紙にいっぱい描きました! という作品だった。

そしてその右隣に飾られていた絵。これはおそらく女の子が描いたもの。

そこには「お父さんのアピール」とタイトルがつけられていた。画用紙の真ん中にお父さんの似顔絵が描かれていて、その横に「お父さんは電車が大好きで、研究しています」と文字で説明されていた。お父さんは、きっと鉄道ファンなのだろう。研究、という書き方をしていたけれど、まあマニアの部類なのかもしれない。

なんというか、この二枚の並びがすごくおもしろくって他の愛らしい「お父さんありがとう」というほほえましい似顔絵が目に入らなくなってしまった。

しかし、もう一枚。降りる駅になり席を立ったとき。座席の上に飾られていた絵もすごかった。

「毘」という旗を持っている武将が描かれていた。タイトルがなんと描かれていたかは、見れなかったけれど、もはやお父さんかどうかは分からない。お父さんが武将好き、なのかもしれないし、描いた子が好きな武将なのかもしれない。

あとで調べてみたら「毘」の文字を掲げているのは上杉謙信、ということだった。戦国武将について、ちょっとでも知っている人にとっては当たり前の知識なのだろう。

他の車両にはどんな絵が飾られているのかわからないけれど、ものすごくインパクトの強い三枚の絵を見た。それぞれ子供たちがみている角度は違っている。自分の好きなものを通してみたお父さんの絵。俯瞰的にみて、お父さんを紹介している絵。お父さんと戦国武将が融合した絵。どれも個性的で、どれもすごく良い。

子供たちは自分の親のことをよく見ている。親は「まだ小さいからわかんないでしょ」と思うこともあるかもしれない。けれど、言葉の意味はわからなくても、悲しんでいるとか、嬉しそうだという雰囲気はわかっているはずだ。子供たちの観察眼を通して描かれた絵を六月のもう少し見てみたいと思った。





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