川俣銀行で働きたい

今期の朝ドラ「エール」の放送が始まって、そろそろ一か月が経過する。

日本が生糸輸出量世界一となった明治42年、
急速に近代化がすすむ福島の老舗呉服屋に、
のちに多くの名曲を生み出すことになる作曲家・古山裕一が誕生する。
老舗の跡取りとして育てられた裕一だが、少々ぼんやりしていて、
周りには取り柄がない子どもだと思われていた。
しかし音楽に出会いその喜びに目覚めると、独学で作曲の才能を開花させてゆく。(NHK「エール」番組紹介サイトより引用)

今回の朝ドラから月曜日から金曜日までで物語はすすんでいく。土曜日は、その週のおさらい。バナナマンの日村さんが、「今週はこんなことがありました」といった具合に、物語を振り返っていく。

それほど熱心な朝ドラウォッチャーではない夫は「土曜日だけ見れば話が分かるじゃん」などと、とんでもないことを言っていた。確かにストーリーをかいつまんで教えてくれるけれど、それじゃあやっぱりおもしろくない。

たとえば、主人公の小山裕一くんの勤め先、川俣銀行の人たちの優しさや面白さ。

裕一は養子縁組の話もあって、伯父が経営する川俣銀行で勤めることになった。音楽への夢を断ち切られることになり、裕一はひどく落ち込んでいた。しかし、勤務先である川俣銀行の先輩職員たちは、とにかく陽気な人で、みんな優しい。

伯父さんはすごく厳しい人として描かれているので、その人が経営する銀行で裕一はやっていけるのだろうか? とちょっと心配していた。けれど、川俣銀行で勤めている四名は、とにかく明るくて、裕一を支えてくれる人ばかっかりだった。

女性とお付き合いしたことがないと裕一が言えば、ダンスホールに連れていってくれる。ダンスホールで知り合った女性に裕一が恋をしたら、「どうすれば恋が成就するか」をみんなで考え、やりすぎなくらい協力してくれる。

経営者の跡継ぎになるのに、仕事をほっぽりだして恋にうつつを抜かしている。そんな裕一を「あの子、経営者として大丈夫かなあ?」という視点で見ているのじゃなく「小山君の恋を応援しよう!」というスタンスなのである。

また、その恋が破れ、とにかくふさぎ込んでいる裕一を元気づけようとしてくれる。それも、裕一があきらめていた音楽を用いて。

「君の仕事はやってあげるから、がんばりなさい」と、作曲に打ち込めと支店長が応援してくれる。不景気のあおりを受けて、銀行自体それほど忙しくなさそうだとは言え、ここまで行員一丸となって応援してくれるなんて本当にありがたい。職場での悩みなんて、たいていは人間関係がうまくいかないことに尽きる。上司のいびりや、したたかな後輩に悩まされる。川俣銀行にもしたたかな人はいるけれど、それでも裕一を尊敬し、行員一丸となって励ましてくれている。

また、この銀行の人たちは裕一だけに優しわけじゃない。堀内敬子さんが演じる事務員の菊地昌子さん。彼女は三度結婚し、三度離婚をして現在独身である。明治の終わりごろ、離婚を繰り返す女性に対して、おそらく世間の目は冷たいのではないだろうか。

裕一と並んでもう一人の主人公、音のパートを見てもわかる。女は男に従っておけばいいだろう、という風潮が強い。もっとも、音のまわりにいる人たちは「女子供だからと言って、ばかにするんじゃない」という人が多いのだけれど。

昌子さんの恋愛指南を、成人男子4人が真剣に聞くなんて。バカにした様子はちっともなくって、みんな昌子さんの話に食い入っていた。

女性事務員だからと言って、低く見ることはまったくない。川俣銀行はとても楽しそうな職場である。あんな職場で働けたら、楽しいだろうなあ。

「エール」は、出勤前(もしくは帰宅してから)の楽しみ、という訳ではない。ただ、毎朝の楽しみではある。撮影が中断しているなど、なかなか難しいところもあるみたいだ。けれども「続きがどうなるんだろう?」と、朝が来るのが楽しみだ。

裕一が生きている時代はスペイン風邪の流行は過ぎたのだろうか? スペイン風邪は1918年から1920年にかけて大流行している。明治42年(1909年)生まれの裕一は、スペイン風邪を乗り越えて青年になっている。豊橋で暮らしている音の家族だってそうだ。

第五週(4月27日~5月1日)には、小山田耕三役で志村けんさんが登場するシーンがある。楽しみなようでもあり、悲しい気持ちもこみあげてくる。複雑な心境ではあるけれど、「音楽が自分を奮い立たせてくれる、エールになる」という気持ちを胸に、毎朝の楽しみとして裕一と音の奮闘を応援したい。


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