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庭を満たすものは、花でなくてもかまわない。

趣味だったり、力を注ぐものって本当に人それぞれで。自分がやりたい! と思うことはやればいいんだなと思うことがあった。

わたしの家の近くに、少し前までとてもきれいな庭があった。広くて、角の立地で日あたりも良い。なんならその庭にもう二軒くらい家が建つんじゃないかと思えるほどだった。

日あたりが良いように、ブロック塀ではなくて金網みたいなフェンスで囲まれいた。季節によって花が咲いていたし、詳しい種類は分からないけれど、バラの花のアーチみたいなものもあった。

ご近所とはいえ区間が離れていたし、生活リズムも違うのか、お花の手入れをしている姿を見かけたことはなかった。けれど、バス停に向かう途中にあるその家の庭は、いつでも生命力にあふれていた。

そのお家が、売り物件になったことを知ったときは少なからずショックだった。お住まい方と仲良くしていたわけでもないし、ずいぶん勝手だとは思う。けれど、あれほど手をかけてあた庭を管理する人がいなくなるのは寂しかった。

すこしすると、そのお家には新しい人がやってきた。今年の夏前くらいだろうか。

私が知っていたその庭は、すっかり様変わりしてしまった。

ほとんどの植物は取り除かれ、芝生が植えられていた。黒くて大きな、車が一台か二台、カーポートに停められていた。芝生の手入れはきちんとされていたけれど、花を咲かせる植物はひとつもない。とても無機質な印象で、なんだか冷たく感じてしまった。どういったご家族がお住まいなのか、それもわからなかった。

「植物は手入れもかかるし、好みもあるからしかたないよね」前を通るたびに、夫とそういっていたけれど、ふたりともやっぱり以前の花園のような庭が好きだった。

しかし。この十二月に入り、その家はガラリと様変わりした。

様々な光を放つイルミネーションで彩られていたのだ。けばけばしく電飾をつけている、というのではなくある程度計算された配置で、ほどよく美しい。広くて無機質に感じられた芝生の上には、空気でふくらんだサンタクロースの置物がぼーんと立っている。ちょっとした物置なんかよりもはるかに大きなサンタクロース。初めて見たときは、あまりの大きさにぎょっとしたけれど、なんだかちょっと嬉しかった。

庭には花を植えてほしい、なんて、わたしの勝手な願望に過ぎない。イルミネーションに力を注ぐ人だっているし、それこそ、庭になにも飾らないおうちだってある。植物を植えると手入れや掃除だって大変だし、十分ありうる話だ。

大きなサンタクロースを見て「あー! サンタさんがいるー!」と嬉しそうに声をあげる通学中の子どもたち。君たちにはお花よりもサンタさんがいるほうが、嬉しいのかもしれないねと思いながら、その家の前を通り過ぎて行った。



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