ゆううつを大さじ4杯、好奇心少々

「やっといたほうが、いいですよね……?」

「そうですねえ。できれば、年に一回は」

そうしたやりとりの後、わたしはしぶしぶ頷いた。

「じゃあ、胃カメラの予約を、お願いします」

年に一度、胃カメラの検査をしている。予約した次回で4回目だろうか。年に一度のこととはいえ、予約するたび、もれなくゆううつになる。

胃カメラ検査を受けるまえに、血液検査をする。採血をしてくれる仲良しの看護師さんに「あああ、ゆううつです……」ともらすと意外そうだった。

「え! 毎回しれっとした顔でカメラに対応してくれるし、検査後の血圧も安定してて。なんてことないのかなあと思ってましたけど。ゆううつなんですね。意外ー」

手際よく採血しながらも、そう返された。いや、その場になれば腹をくくるというか。やると決めたのは自分だから当日まで「いやだいやだ」とごねてもしかたないと思っているだけだ。

「まあ、とっても楽しみにしているイベント、ではないですよね」苦笑いをしながら、わたしがそういうと、看護師さんも「ですよね」と笑っていた。

とはいえ、ほんの少々、隠し味にもならない程度の楽しみもある。

自分の身体の中にカメラを入れて見る、というのはやっぱりちょっと興味がある。

自分のことは自分が一番わかっている、という人もいる。けれど、わたしは全然そう思えないのだ。自分のことも良く分からない。精神的な意味だけでなく、肉体的にも分からないことばかりだ。

胃の中を、腸の中を、みたことある? 自分の心臓のかたちを、みたことある? 自分の血液の成分内容を詳しく知ってる? わたしはどれも答えられない。

そういった意味でも、自分のことはよく分からない。問題を抱えた胃の中を、年に一度探検する気持ちでカメラを入れてもらう。

当日を迎えるまでは、ずっとゆううつだ。前日の夜の食事も気にしなくちゃいけないし、当日は胃カメラを飲む前もつらい。飲んだ後も違和感があって一日中しんどい。

それでも、ほんのちょっとの好奇心だけが救いである。





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