見出し画像

寿司と法名の共通点

父の四十九日が無事に終わった。そろそろ葬儀の裏話とか書いても、お父さんも怒って出てきたりしないだろうなと思うので、ちょっとずつ覚えていることは書いておきたい。

もちろん、父に出てきてもらうのは全然かまわない。そっちはどんな感じ? とか、根掘り葉掘り聞きたいのだけれど、全然出てきてはくれない。


父が亡くなった翌日に通夜をおこない、翌々日に葬儀という流れだった。その一連の中で、いろんなことを決めていかなくっちゃいけなくて、悲しみもあるけれど「ちょっとそれどころじゃない」というバタバタ加減もあった。

こじんまりとした家族葬にしたものの、それでも色々決めなくっちゃいけないし、お金もかかる。祭壇はどうするとか、(生花にするか、昔ながらの白木のにするか、とか)値段によって使ってもらえるお花の種類が違うからどうするか、とかお花の色は何色ベースにしますか? とか。そんなん葬儀屋さんで適当に決めてくださいと言いたくなるけれど、そういうわけにもいかないらしい。葬儀屋さんが適当に「スタンダードタイプ」を決めくれても「高い!」と揉めることもは目に見えている。

お父さんどんな花が好きやっけ? 胡蝶蘭とシャクヤクが好きやったっけど、ほかの花はあんまり好きじゃなかったよねえ。いやでも、白木のは「あれはもう古いな」って、ほかの人の通夜にいったとき、言ってたような……などと、「一応、お父さんが好きそうなパターン」を選びつつ、価格の妥当なものを選んでいった。

葬儀社によって値段はさまざまだろうけれど、棺桶の値段から、骨壺の値段まで、一冊のバインダーにファイリングされていて、ぺらぺらとめくりながらあれやこれやと決める。

しかし、その中でも「法名」へ支払う費用は決まっていない。

法名は時価なのだ。カウンターのお寿司屋さんで値段の書いていないネタと同じように「いくらですか」と、聞かないと答えてもらえない。しかも金額を聞くのはヤボですよ お客さん、みたいな世界なのである。回転ずしの金ぴかのお皿は800円、みたいにわかりやすく掲げておいてほしい。

通夜と葬儀に読経してくださるお坊様へのお布施と、お車代については、一応決まっていた。いくらだったかはっきりとは覚えていないけれど、ぼったくりやな、とは思わなかった。ふーん、こんなもんなんか、というくらい。宗派によっても違うだろうけれど、お布施が三万円くらいだったような記憶がちらっとある。お車代は一万円。これは、葬儀屋の担当者さんから「この金額をお願いします」とはっきりと提示された。

しかし、法名に関しては「これは、わたくしどもでは『いくら用意すればいい』とは、申し上げられないんです。実際のところピンキリです」と葬儀屋さんも悩んでいた。また、わたしたち家族が「戒名」とよんでいたら、宗派として「法名」というんです、とやんわり訂正された。

じつは、父は自分で法名をいくつか作っていた。生前法名というわけではない。得度式といって、生前に法名をつくって、お寺に申請するということができる。そういう制度があるのだけれど、父はそうではない。

父が亡くなる五年前くらいに、父の兄たちが立て続けに三名も亡くなられたことがあった。二年間のうちに三名、といったペースで亡くなられていた。そのとき、父は「いろんな法名を付けてもらってるけど、自分ならこういうのがいいな」と、メモ帳に二、三パターン記していた。

その法名を使うことができるだろうか、というのもお坊様に相談しなくっちゃいけない。通夜の前、挨拶をする時間が設けられていたので、そこで、父の作った「法名コレクション」を見せて、検討してもらうことになった。

法名には、一応いくつかのルールがあって、生前の名前を一文字つかう、とか、宗派によっていろいろだけれど、使う漢字によって、法名の値段が変わる、というのがある。

わたし自身は亡くなった後に、だれにも法名(戒名)で呼ばれることもないだろうから、作る必要はないと思っている。

まあ、でも父は生前に自分で作っていたのだから、お坊様に「これを採用してください」とプレゼンしなくっちゃいけない。また、プレゼンの交渉として「漢字の費用は抑えたい」ということも大事だった。

結果的に、通夜と葬儀に来てくださったお坊様はすごく親切だった。父が作った法名も「よくできてますねえ」と感心してくださった。また、つかうとちょっと高額になる漢字が含まれていたのだけれど、それについても「その漢字をつかうためには、登録申請しなくちゃいけない。登録費用がいくらかかる(金額は忘れてしまった)し、まあ、ほかの手数料も、ありますので」と、金額の内訳をぜんぶ教えてくださって、その登録費用と手数料だけの金額でいいですよと言ってくださった。そのくらいなら、今すぐ払えるわ、と安心できる額だったのは確かだ。

事前にあれこれ聞いていたのだと、「法名だけで50万円くらい必要」などと聞かされていたので、なんだかあっけなかった。意外と必要最低限の金額は決められていて、本当は時価でもなんでもなかった。もっとも、父自身が法名をつくっていたので、「製作費」みたいなものは経費削減されていたのかもしれない。

母も姉も、わたし自身も、父が作った法名で父を呼ぶことはない。お父さんのことは、「お父さん」としか呼びようがない。けれど、父自身が満足しているのならば、それでいいと思うのだ。




最後まで読んでいただきまして、ありがとうござます。 スキやフォローしてくださると、とてもうれしいです。