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夫の買い物はとっても楽しそう

ここ最近、ずうっと夫の悩みを聞かされ続けていた。その悩みとは

「(釣り道具の)リールを買いたいけれど、どれにすればいいか迷っている」というもの。

趣味の釣り道具を買うのが悩みだなんて、ふざけてると思われそうだけれど、夫はとにかく真剣だった。

釣りをするには道具が必要なのだけれど、その道具は極めれば極めるほど細かくなっていく。

はじめて釣りをする人に向けた「ファミリーセット」みたいなものの場合、

釣竿(ロッド)、リール(糸をぐるぐる巻くところ)、釣り糸(ライン)、釣り針やらルアー(疑似餌)も一緒のセットに入っている。あとは、生餌を使うなら買ってくださいね、といった具合で簡単に始めることが出来る。

ただ、釣りではなくて、例えばカメラも場合でも機種に合わせたレンズだとか、レンズも望遠とかパンケーキレンズと呼ばれるような種類ものもとか、いろいろと揃えたくなるのが心理というものだろう。

釣りも同様で、釣竿だけでも、海釣りか渓流釣りかだけでもいろいろあるし、釣りたい魚種によって使う道具は全然違ってくる。初心者用の釣竿セットでは、大きなマグロは釣りあげられない。たぶん糸が切れるし、場合によっては釣竿が折れてしまうかもしれない。

釣りにハマり出すとロッド、リール、ライン、この3つは別々に買いそろえることになる。

今回夫は、リールを買いたいのだという。

そんなん、好きなの買えばいいやんと思うだけれど、夫はそうもいかないらしい。顔を合わせるたびに「どれにすればいいか、分かんなくなっちゃって」と聞いてくる。挙句の果てには「悩み過ぎて夜も眠れない」などという。

もっとも、リールは頻繁に買うものではない。釣り糸やルアー(疑似餌)は切れたり、無くなったりするので、年に一度くらいは購入しているけれど、リールはそう簡単には(高額だから)買えない。不具合が出てきてもオーバーホールに出して、修理してもらっている。

釣り道具屋さんを何件もめぐって、「一回触って、リールの動きを確かめてきた。でも、余計わかんなくなっちゃって」と、泣きそうになったり、イライラしてわたしに八つ当たりまでしてきた。

わたしは夫の趣味には文句は言わないし、好きにすればいいと思っているのだけれど、今回はちょっと参ってしまった。

朝起きて開口一番に「リールのことなんだけど……」と、ずうっと言ってるのである。もう二週間ぐらいはずっとこの調子だった。聞いてるこちらとしては、「どれも似たり寄ったりだから、一番気に入ってるやつにしたら?」としかアドバイスできない。「どれどれ、何で迷っているのか聞いてあげようじゃないか」と言ったところで、「高額のリールのほうが性能がいいよね」という話しかできない。高額のリールは、初心者用の釣りセットを10個買ってもおつりがくる。

本人が「これ!」と決めてくれないと、わたしも「あー、それでいいじゃん!」と入ってあげられないのである。

夫はものすごく悩んでいた。寝ても覚めても悩んでいて、あちこちの店舗で実際に触ってみたり、釣り具メーカーのサイトを何度も見て性能を確かめたり。普通の会話が成り立たないほどに、ずうっとリールの話しかしていなかった。

それでも夫の買い物はすごくすごく楽しそうだった。

好きなものをひとつしか購入できないとしても、悩んで、選んでいる時間こそが本当に楽しいに違いない。


夫はようやく決心して、ひとつのリールを買うことに決めた。

購入直後は「あー、こんなにいいリールを買ってしまったー」などと、にやにやしながら床を転がり、ネコに不審な目で見られていた。

嬉しそうで何よりだ。存分に釣りに行ってほしい。





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