寸景

「写真、撮ってもらえますか?」
二コリと頷いて、スマートフォンを受け取る。

「はい、チーズ」といってボタンを押すと、彼女たちはそれぞれに研究したであろうポーズをとった。

きゃきゃっと賑やかな声に背をむけて、私はまた歩き出す。

「都心から一時間半。リゾート気分でカラダとココロに休息を」
私が住んでいる町は、都会で暮らす人の観光地でもある。

大通りのヤシの木は、どこか南国の装いだ。花火大会が開催される日には、仕事でくたびれた身体を隠すように、浴衣姿の人たちと階段を下りた。

都会の人たちが休息を求めてやってくる。
しかし、その町に住む人たちは、どこで安らぎを得るのだろう?

朝日を受けた海を横目に散歩して、真夏の夜、潮の香りでむせ返る。
容赦ない風に凍えながら海岸沿いを走ってみる。

海とともに生きるといえるほど、大きな覚悟はできていない。
ただ、無条件に広がる海のそばでは、くらげのようにぐんにゃりと心が柔らかになる。


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