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ミステリー小説以上に読んでいるとこわくなる

正直なところ、この本をいま、この時期に紹介するのはどうなんだろう? という気もする。

何というか、死をテーマにした内容だし、たかだか100年くらい前のアメリカで起きた出来事。おそらく100年前くらいの話を出せば、日本でも同じようなことは起きている。足尾銅山の鉱毒事件とか。とにかく、多くの人が「毒」と定義される物質で亡くなっている。

もっとも、死がテーマというよりも、「毒による死」に尽力する医師の話である、とも言える。

ただ、今すぐ読まなくてもいいのが、本のいいところ。

「そういえば、なんかすごいタイトルの本があったなあ」と思い出し、図書館で探して読んでみようという日がやってくるはず。今は図書館すら閉められているけれど、きっとまた開館する日はやってくる。その時の候補としてオススメしておきたい。

この本を知ったのは、病理医のヤンデル先生がツイッターで本を紹介していた時のこと。「この本が気になる」ということでちょっと話題になっていた。

もちろん、わたしも気になった。タイトルにはもちろんのこと、怪しげなおじさん二人を表紙に使用したところにも惹かれた。

本屋さんで見かけたら、絶対に手に取ってしまうだろうな……。そう思わせるインパクトがある。

本の内容紹介は以下の通り。(以下、amazonの紹介文より転記)

「ジャズ・エイジ」と呼ばれる狂騒の1920年代を含むこの時期に、
アメリカの法医学は誕生し、犯罪捜査において確固たる地位を築いた。
その立役者となった法医学者ノリスと毒物学者ゲトラーのひたむきな努力と、
彼らが解決に導いた毒殺事件、その背景にあるアメリカ社会の様相を描いたノンフィクション。

この本の怖さは、ノンフィクションでありながら、「え? そんなこと本当にある?」と思いたくなる政治判断が当時のアメリカで成されていたと、知ることかもしれない。

1920年に施行された「禁酒法」によって、多くの人が進んで「毒」を飲む、という歴史。禁酒法については、正直なところわたし自身まだ勉強不足だ。宗教的な背景もあるし、経済格差が生んだ法律ともいえる。簡単に説明できる法律でもないし、理解するには難しい。

ここ最近、消毒用エタノールがなくなったからメタノールを使用、などという恐ろしいニュースを耳にした。けれど、この「メタノール(メチルアルコール)」が禁酒法時代に多くの人の命を奪ったものに他ならない。

メタノールは毒性が高いので、間違っても「エタノールの代わりに消毒! シュッシュ」などとしてはいけない。なにから命を守っているのかわからないことになる。

ただ、禁酒法時代のアメリカではメタノールを主成分としたアルコール飲料が非合法(一部は合法として)ながらも販売され、多くの人が亡くなっていった。もちろん、エタノールを用いたアルコール飲料でも、人は亡くなりうるし、本書でもそこに触れている。

身近なもの、例えば洗剤なんかでも取り扱い方を間違えれば毒になる。体のためにと飲んでいる薬やサプリメントも、摂取量を間違うと毒になりうる。明らかなる毒と、毒となりうるものの線引きは曖昧だ。

今でこそ、科学的に「これは人体にとって毒性が高い」と分かっている成分、例えばラジウムや一酸化炭素などは気をつけて使用する心構えが少なからずある。

本書に出てくる病理学者(当時は法医学という分野がなかった)ノリスと化学者のゲトラーは、「これはなぜ危険なのか」というところから突き詰めていく。後世に残した功績は数知れない。

本書が推理小説ならば、ノリスとゲトラーはいいコンビを組めるに違いない。シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンのように。

ただ、推理小説の世界ではないので、読み進めるには、ほんの少し体力と気力が必要でもある。





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