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柔らかな線が伝える、残酷な真実。

その人が描くものに、なぜか異様なほどに惹き付けられてしまう。虜になっている、といってもいい。

初期の頃から知っている、とかそういうわけでもないし、ただ一方的に好きなのだ。

初めて手に取ったのは、ホルベインという画材の会社とコラボして作られたクロッキー帳の表紙だった。あまりにもかわいかった。キノコ、カエル、ハシビロコウ……。精密に描かれた絵は、私の心をわしづかみにしていた。悩んだ末に、ネコの頭の上に乗せられた箱からいろいろなアイテムがびっくり箱のように出ているものをひとつだけ購入した。

そのクロッキー帳の表紙には小さく名前も入っていてた。

ヒグチユウコさんという人の存在を始めて知ったのだった。

私がヒグチユウコさんの絵にめちゃくちゃ惹かれている理由に、単純に「かわいいから」というものもあるが、それだけではない。

私は子供のころ、絵を描くのが好きだった。絵描きになりたいと思っていたし、小学校の卒業文集には「売れる画家になりたい」と書いたことも覚えている。一緒に暮らしていたベルと名付けられたシェットランドシープドッグの隣にベッタリと座って、ベルのデッサンをしたことが、なんどもあった。しかし、ベルの横顔も、正面からの姿も、輪郭は描ける。けれど、私が描きたかったのは、ベルが持っている素晴らしく美しい毛並みが描きたかった。だけど、それをどのように表現すればいいのか、わからなかった。毛を一本一本描いてみたこともあったのだけれど、ぐちゃぐちゃと汚いだけだった。何が何だかわからなくなってしまって、泣きながらベルにしがみついて謝ったりした。ベルはちょっと迷惑そうだったけれど、私に付き合ってくれた。

私はその後、絵を描くのをやめてしまった。自分には向いていないかもしれないと思ったことと、何もかもが嫌になってしまう、いわゆる思春期的な問題を抱えてしまったため放り出してしまった。

子どものころに「私が書いてみたい」と思っていた絵と、出会ってしまった。出会ってしまった以上、曲がり角でぶつかった男女が、恋に落ちてしまうかのように好きにならない理由はどこにもなかった。私の場合は今のところ、一方通行の片思いなのだけれど。

ヒグチユウコさんの絵で、おそらく人気が高いのはネコのイラストだろう。フクフクとした柔らかな毛並みと、大きな輝く目が特徴的だ。少しだけキャラクタとしても描かれていて、かわいらしいのだ。だけど、可愛い絵だけが魅力的なわけではない。ヒグチユウコさんは、致死量には到底満たない毒とも言える、ちょっとしたエッセンスを含んだ絵を描かれることも多い。

ギュスターヴくんという絵本にも、そのエッセンスはたっぷりと含まれている。いじわるで、わがままな謎のいきもの、ギュスターヴくんが創り出す混沌とした世界。かわいいけれど、本当にいると困るだろうな、と思わずには居られない。

2017年9月1日に発売になった「いらないねこ」という絵本がある。かわいらしいネコのぬいぐるみと、そのまわりにいるネコやイヌなどがでてくる暖かく、優しいストーリーだ。

しかし、ただ可愛いだけじゃない。タイトルが、すでに「いらないねこ」である。捨てられてしまった、もしくは嫌われてしまったねこのお話なのだろうか? とキュッと胸が鷲掴みにされてしまったように痛む。

絵本なので、お話自体はあっという間に読める。絵のかわいらしさにオブラートされているけれど、内容は深い。昨今のペットブームに対する警鐘や「いらない」とはどういう意味かを考えさせられる。柔らかく、温かかな毛皮をもった生き物すべてが、幸せになってほしいと願わずにはいられない物語だ。読み終えたときには、ほろりと涙がこぼれてしまった。


さて、私にはひとつ野望がある。

もしも、私がなにか本を出版できるようになったなら。著者のわがままを聞いてもらえるのかどうかはわからないのだけれど、表紙の絵をヒグチユウコさんに描いてもらいたい。まだまだ、一方的すぎる片思いでしかないのだけれど。成就させるべく、同じステージに上がれるように、コツコツとがんばりたいと思っている。

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