見出し画像

きみが騒がしくしてくれないと、掃除機もかけられやしない。

六月の半ばくらいから、一緒に暮らしているネコの調子が悪くてどうにも心配でしかたなかった。

わたし自身、ぐずぐずとした空模様に引っ張られるかのように、すっきりしない体調が続いていたのだけれど、自分のこと以上にとにかくネコが心配だった。

自分自身の体調ならば、「ああ、梅雨の時期は気圧の変動で耳の調子も悪いし、めまいっぽいとか、身体のだるさとか、疲れからくる微熱とかだな。自律神経も乱れてる」と、ある程度客観的にわかるところもある。わかったところで対処できないことも多いけれど、それでも一応「毎年この時期は」という経験があるからわかる。

しかし、ネコの調子については、正直言ってよく分からない。

ものすっごく元気なときと、「ぼく、しんどい」となるときの差が激しくて、とにかく心配になる。元気なときならば「ごはんちょーだい」とか、「あそんでー」などしぐさを通じて分かることも多い。けれど、具合が悪いときはふさぎ込む一方だ。言葉のコミュニケーションができないもどかしさを、このときばかりは強く感じる。

今回のネコの不調は、おそらく毛玉が原因だった。うちの猫は長毛、というほどでもないけれど、やや毛が長い。夏毛に生え変わる時期は部屋中抜け毛だらけになる。毎年五月ごろに掃除しても掃除しても、部屋のあらゆる箇所にネコの毛がふわりとたまっている。つまみ上げて拾ったり、ハンディモップで毛をぬぐい取っている。

ただ、今年は気温に問題があったのか、思いのほか五月に毛が抜けず、ずるずると毛が抜ける時期が続いていた。ネコは毛づくろいをするときに抜けた毛が口の中に入り込んでしまう。ときおり毛玉として吐き出したり、便にまじって排出している。

うちのネコはどうも胃腸が弱いらしい。一緒に暮らし始めたころは市販の「毛玉ケア」といたフードを与えていたものの、それでは逆効果だということが獣医さんの見解で何年か前に分かった。その後は「療養食」と呼ばれるフードを与え、便として毛の排出がスムーズになるように気をつけていた。ブラッシングも、できる限りこまめにしていたつもりだった。

今年は毛づくろいをしたときに身体のなかに入る毛の量が多く、短期間に何度も毛玉を吐きだすことが続いてしまった。

こうなると、胃がむかむかするのか、ご飯は食べないし、なんども吐こうとする。食べてもいないし、毛玉もないので胃液だけを吐き出したり。夜のうちに何度も吐き出す音が聞こえてきて、そのたびに「できることなら、変わってあげたい」と思う。

何度か獣医さんに診てもらったけれど、これといった問題はみつからない。応急処置として胃薬と整腸剤を獣医で処方してもらって、ネコと格闘しながら飲み薬をあたえた。ネコは自分から錠剤をのんでくれるわけではないので、口を開けた瞬間に薬をサッと放り込まなきゃいけない。しかし、なんども薬をあげていると、彼は敏感に「あ、いまからまたいやなことする」と察知してささっと逃げてしまうのだ。一週間ぐらい、ネコとの関係がギスギスするのでお薬をあげるのも嫌だけれど、あげないわけにもいかない。(夫は「嫌われるからいや」といって、薬をあげてくれない……)

6月の半ばごろから、とにかく家のなかがシンとしていた。いつもなら階段を降りる時ですら「ニャッ、ニャッ、ニャッ」とか「ニャニャニャニャ(ドタドタドタ……)」という音が聞こえるのに、聞こえてこない。

静かに丸くなってちらっと目線だけを動かして、また顔を伏せてしまうと、こちらとしては「そのまま寝ててね」というしかなかった。いつもだらーんと手足を投げ出してゴロゴロしたり、帰宅したら「おそい!」といわんばかりに玄関まで駆け寄ってきてくれるのに、そんな姿もみられなかった。


掃除機が大嫌いで、いつも掃除機の姿を見るだけで走って逃げる。それなのに、次に掃除する部屋に逃げていくから「うわーまたきたー!」という感じで走り回って逃げる。けれど、こうもふせっているのに、彼の嫌いな掃除機をかけるわけにもいかない。クイックモップを使ったり、掃除機の掛けられない日が何日も続いた。

今週に入って、ようやくまた「ごはんちょーだい!」と催促してくれるまでには回復してくれたのでちょっとホッとしている。ただ、まだ油断できない。ようやく掃除機くらいはかけてもいいだろうと、三週間ぶりくらいに掃除機をかけた。

ネコは「いやーーー!」とさけびながら、部屋のなかをばたばたと走り回って逃げていた。

ネコと一緒に暮らしてもう7年になる。

おなかが減った。遊んでほしい。つまんない。さわらないで。ちょっと気になる、ちょっと怖い。このくらいのことは、なんとなく読み取れるようにはなった。具合があまりよくなさそう、というのもわかる。でも「具合が悪いときに、どうしてほしがっているのか」は、分からない。分かりたくても、分からない。

これからもネコにはできる限り健康で、一緒に暮らしてほしいと願うばかりだ。





最後まで読んでいただきまして、ありがとうござます。 スキやフォローしてくださると、とてもうれしいです。