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スーイッシュを探す旅 第1話

≪ あらすじ ≫

  この世に存在しないが、この世でしか見つけることができない。  

そんな謎の伝承を持つ植物、〝スーイッシュ“を探す8人プラスαの物語。

森役人の家に育ったハイエルは、家に古くから伝わる伝承に興味を持つ。
それまでただの伝説に過ぎないと軽く受け流されていたスーイッシュに強く惹かれ、スーイッシュを共に探す仲間を集めた。

ハイエルを含め、集まった8人の内7人は男性であり、実はその7人は異なる時代に生きる同じ男性だった。
残る1人は唯一の女性で、スーイッシュの種を瞳に宿す役割を持つ。

そんな8人を導く魔女も全能ではなく、スーイッシュを咲かせるためには、人間8人と魔女とで完全な魂となる必要があった。


≪ プロローグ ≫


探しているのは、スーイッシュという名の植物でした。
スーイッシュの名を知る者はそれほど多くはありませんが、
その道の者たちにとっては「幻の花」としてよく知られる植物なのだそうです。
「この世に存在しないが、この世でしか見つけることができない・・・」
そういう説明がなされる、完全に矛盾した存在物なのです。

この馬車には、スーイッシュを探す者たち(フィールドワークの学者もいれば、酔狂な趣味人もいる)が8人乗っています。
御者を入れれば総勢9名。
少女が一人と、他は男性ばかり。
男性のなかでは、僕はかなり若い方です。
多分一番若いに違いありません。
紅一点の少女は、僕の隣に腰掛けて、馬車の揺れに身を任せています。
彼女の髪が僕の右肩にときおり触れて
アプリコットジャムのような、ほんのり甘い香りがします。

馬車の中は静かです。
それぞれが、このツアーで初めて顔を合わせたばかりなのです。
最初に軽い挨拶だけが交わされ、まだ会話がはずむ様子はありませんが
なぜだか僕には、皆が互いに親しみを感じていそうな気がしていました。
同じ目的を持つ者同士の連帯感なのかもしれません。
そう、このツアーは、スーイッシュを探す旅。
馬車に乗ってケルトの森をゆくという、かなり偏狂な趣向でもって遂行されています。



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