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認知行動療法を学ぶ 〜マンガ 「そんな家族なら捨てちゃえば?」

 うつ病治療などに用いられる認知行動療法は、コミュニケーションが重視される現代社会で健常者同士でも大変役に立ちます。

 カウンセラーや専門書を通して学ぶ事もできますが、最近ハマっている漫画によい例がいくつか出ていたのでご紹介します。

「そんな家族なら捨てちゃえば?」は夫婦と親子、また学校での人間関係を丁寧に描いた漫画です。

 「そんな家族ならば捨てちゃえば?」は、ネット広告で頻繁に取り上げられている連載中の人気作品です。現在、9巻まで発売しており、2024年7月にはドラマ化が決定しました。
 

篠谷家のルール (1巻 裏表紙より)

 主人公の篠谷令太郎は、13歳になる娘・一花(イチカ)と妊娠後なぜか性格が攻撃的になってしまった妻・和美と3人で生活しています。普通の家族と違うのは、和美が作ったルールにより、令太郎の生活スペースや行動に制限がある事です。令太郎は、夫婦の寝室やトイレは使用できず、同居する一花と会話をしてはいけません。

 異常な環境でありながら、令太郎は家族のために日々働きます。ある日、駅のホームで気分が悪くなり、電車の方に倒れそうになるところを、通りがかりの女性・倉敷沙耶子に救われます。令太郎は動悸を治めるため、趣味のクイズを沙耶子に出した後、謎解きの一環として自身の家庭ルールを打ち明けますが「それDVじゃないですか?」と反応され、和美が出した謎として考えて欲しかっただけの令太郎は困惑します。

 期待とは違うが、令太郎は沙耶子という相談者を得ました。令太郎は気づいていないですが、篠谷家のルールはストレスになっており、クイズを作ることで気分を紛らわせていたのです。

 認知行動療法その① 〜 ストレス解消型コーピング

 令太郎の家庭事情と心労を沙耶子があまりにも心配するので、令太郎は自分にはクイズを作る趣味があるので大丈夫と伝えます。

 この方法は認知行動療法の一つで、ストレス解消型コーピングと呼ばれています。コーピングは、ストレスを感じた時に生じるストレス反応への対処法をさします。ストレスを感じた後に気晴らしになる事をして、メンタルへの負担を減らすのが目的です。

沙耶子に「自分は大丈夫」と伝える令太郎

 令太郎が実践しているクイズ作りは、特別な場所や道具を必要しないので、コーピングの良い例です。また、日常で起きるストレスに対応するため、自分が気晴らしできる事を書き留めたものをコーピングリストといいます。コーピングは一つに絞らず複数持つ方が、よいと言われてます。

 一方、沙耶子には光(ヒカリ)という1人息子がおり、偶然にも令太郎の娘・一花と同じクラスに転校してきます。

 実は、一花はクラスで浮いた存在で、不登校気味です。光が初登校した日は一花がいないため、一時的に彼女の机を借りる形なりますが、それがきっかけで2人は話すようになり、友達になれました。

 家では平気に振る舞う一花ですが、本心は両親の不仲を気にしており、不登校の原因もそれにあると光に打ち明けます。光も転校は沙耶子の元恋人からのストーカー行為により引っ越さなければならなかったと、家庭事情を伝えます。

互いの家庭事情について語る 一花と光

 認知行動療法その② 〜問題焦点型コーピング

 一花が光と実行しようとしているのが、ストレッサーそのものに働きかけて、それ自体を変化させ解決を図ろうとする問題焦点型コーピングです。

 ストレッサーに対して直接働きかけるのは実行するのが難しいと言われていますが、一花のストレスは「父と母が仲良くない事」とわりと明確になっています。

ストレスである両親の不仲の原因を探る一花

 一花は自分なりに両親の不仲について考えます。令太郎の他人に興味がない性格を和美が許せなく、現在の険悪な状態になっていると憶測します。そう辿りついたのは、一花は令太郎と自分の性格が似ていると感じているためであり、父と娘の距離は徐々に近づいていきます。

和美に対して苛立ちを覚える一花

 一方、和美は相談者であり最初の友達となった光が女子ではなく、男子という事を知ります。光の性別については、一花は話していませんでしたが、名前から和美は女子と勘違いし、嘘をついたと一花を責めます。それだけでなく、光の母・沙耶子に「2人で遊ばせないで欲しい」と直訴します。その際、倉敷家は、光と令太郎は少し前に会話をしており、一花と遊ぶ事の承諾を得ている旨を伝え、和美の怒りの先は、夫・令太郎に向けられます。

 娘を大切に思っているはずの和美ですが、結果的に一花を苦しめるストレッサーの主要因のなっています。なぜそうなるかは、和美の「認知に歪み」が生じているからだと思われます。

 認知行動療法 その③〜 自動思考を知る

 
 自動思考とは、遭遇した出来事に対して、瞬間的にこころに浮かぶイメージです。自動思考は今までの人生経験で構築された価値観や人生観、評価基準(専門用語でスキーマと呼ばれている)で成り立っています。スキーマと自動思考は認知の歪みの原因になると考えられており、下記の10パターンは「考え方のクセ」としてあげられます。

1. 白黒思考 (物事を白か黒かではっきりさせないと気が済まない)
2. 過度な一般化  (十分な根拠もなく、それを一般的な法則だと思い込む)
3. フィルタリング (良い部分を無視して、悪い部分だけ見てしまう)
4. マイナス思考 (全てをマイナスに捉え、自分や他人の価値を下げる)
5. 結論の飛躍 (根拠もなく結論付け、それ以外の考えを否定してしまう)
6. 誇大視と過小評価 (自身の問題を必要以上に大げさに捉え、長所や魅力を低く捉える)
7. 感情的決めつけ (嫌なものは嫌、ダメなものはダメと感情で決めつける)
8. すべき思考 (「~すべき」「~しなければならない」と脅迫的に思う)
9. レッテル貼り (自分や挫折した人にネガティブなレッテルを貼る)
10. 自己関連付け (自分に関係がないことでも自分に責任があると思ってしまう)

米国の精神科医  David D. Burnsによる分類

 認知の歪みがあるかを確かめるため、言動から和美の自動思考を憶測してみます。


 1. 白黒思考 (物事を白か黒かではっきりさせないと気が済まない)
 

白黒思考
物事を白か黒かではっきりさせないと気が済まない

 和美は一花の言葉足らずな部分に苛立ちを覚え、令太郎と言い合いになります。喋らなくても一花の事をわかる(白)、わからない(黒)と和美の中では2択しかないため、令太郎の「わかろうとしている」(グレー)は和美の中では答えになっていないと判断し、会話を止め立ち去ってしまいます。


 2.過度な一般化 (十分な根拠もなく、それを一般的な法則だと思い込む)

過度な一般化
十分な根拠がなく、それが一般的な法則だと思い込む

 一花の担任である荻野先生は、観察力が高く、不登校の原因は篠谷家にあると気づき始めます。また、荻野は亡き姉の姿を和美に重ね、恋心に近い感情を抱いてます。一花を理由に和美と会い「一花は休み時間に辞書を読んでいる」という情報を伝えます。和美は、本ではなく辞書を読む理由は友達が作れず、休み時間を潰すためにしている行為だと悲しみます。「女の子ならフツウ本好き同士で仲良くなる」「辞書なんて読むものじゃない」と過度に一般化をし、視野を広げる事を拒んでいます。

 実際は、一花は友達をそこまで必要としていなく、父親がSNSで発信するクイズを解くため、休み時間は辞書を読んでいます。なので不登校の原因は休み時間話す友達がいない事ではないのですが、和美の自動思考が邪魔して真実とは違う方向に進んでしまうのです。


 3. フィルタリング (良い部分を無視して、悪い部分だけ見てしまう)

フィルタリング
良い部分を無視して、悪い部分だけ見てしまう

 荻野は一花と光が不純異性行為や問題を起こさないように「一花さんに、男というのはろくでもない駄目なものだと繰り返し言い聞かせて下さい」と和美にアドバイスします。

 和美はその夜から一花に父・令太郎の悪いところをだけを取り上げて、「お父さんは無責任」「何もわかってない」「愚かだ」と語ります。

 アドバイスに従って行動しているようですが、毎日家族のために仕事をし、一花や和美を気にかけている令太郎の良い部分を無視し、悪い部分だけを選択(フィルタリング)をしています。



4. マイナス思考(全てをマイナスに捉え、自分や他人の価値を下げる)

マイナス思考 
全てをマイナスに捉え、自分や他人の価値を下げる

 唯一の友達、光との仲を裂こうするなど、娘の気持ちに寄り添う事ができない和美に、一花は心を閉ざし、また不登校になってしまいます。

 一方、光はクラスの女子に人気があり、中学のイベントでクラスで「眠り姫」の演劇で、王子役に推薦されます。姫役は3人の立候補がありましたが、光は姫役は一花に演じて欲しいと思い、一花の家を訪問し彼女に頼みます。一花は人前にでるのは嫌だけど「眠り姫」のシナリオを書いてみたいと演劇に参加する意思を見せましたが、和美は姫役をやって欲しいと思い、夜なべして姫役のドレスを作りました。

 一花は「姫役は演じたくなく、シナリオを書きたい」と和美にうまく伝えられなかった事を後悔し、また、ドレスはクラスメイトに着て欲しいと思います。和美は荻野への相談のため、ドレスを持って学校を訪ねておりました。和美が学校から家に戻る途中で、一花は話し合いを避け、和美からドレスを奪おうとしますが、揉み合った際にドレスは川に落ちてしまいます。

 後日、和美は荻野にドレスの件を相談します。その際「一花は反抗的から、反社会的、社会不適合、不良、さらには犯罪者になる」とマイナス思考になっています。担任の先生に子供の価値を下げる発言をしておりますが、荻野は和美の認知の歪みに確信をもっていきます。


5. 結論の飛躍(根拠もなく結論付け、それ以外の考えを否定してしまう)

結論の飛躍
根拠もなく結論付け、それ以外の考えを否定してしまう

 沙耶子と光に、2人で遊ばせないで欲しいと伝えた翌日、和美は、夕方になったても一花がリビングにいないので、学校から帰ってきていないと思い担任の荻野を訪ねます。荻野はもしかしたら、光と一緒かもしれないと、沙耶子に電話します。沙耶子が一花は家に来ていないと伝えているにも関わらず、和美は一花は光の家にいると結論づけます。
 
 実際、一花は自宅で令太郎の部屋にいました。和美は自分たちの生活スペースではない、父親の部屋にいる訳ないと思い込んでいたせいで、様々な人に迷惑をかけてしまいます。



6. 誇大視と過小評価(自身の問題を必要以上に大げさに捉ええる)

 誇大視と過小評価
自身の問題を必要以上に大げさに捉え、長所や魅力を低く捉える

 一花はドレスをクラスメイトに渡すために、和美からドレスを奪おうとしましたが、ドレスが川に落ちたのは事故でした。しかし、和美は普段はないがしろにする令太郎を巻き込み「乱暴」「川に落とした」と大げさにします。また、一花を「犯罪者」や「どうしてこんな子に育った」など必要以上に低く評価します。


7. 感情的決めつけ(嫌なものは嫌、ダメなものはダメと感情で決めつける)

感情的決めつけ
嫌なものは嫌、ダメなものはダメと感情で決めつける

 和美の認知の歪みは最近ではなく、一花が2歳のころから調光がありました。和美は2歳になった一花の髪の毛を一度も切った事がありません。生まれてくる前の神様の世界に繋がっている気がすると、毎日一花の髪を愛でます。
 ある日、和美は友人の結婚式家を留守にし、一花の面倒を令太郎にお願いします。一花は散歩に行きたいといい出かけたところ、近所の美容院に声をかけられ、散髪をしました。

 家に戻り、髪を切った一花を見て和美は泣き崩れます。いつかは切らなくてはいけない髪の毛ですが、あまりに突然の出来事に冷静に判断ができなくなり、悲しみを令太郎と一花のぶつけてしまうのです。


8. すべき思考(「~すべき」「~しなければならない」と脅迫

すべき思考
「〜すべき」「〜しなければならない」と脅迫的に思う

  ドレスを川に落とした件で、和美は一花を令太郎の前で責めました。一花は「お母さんはいつもそうやって泣きわめいて、事を大きくして、挙げ句に私を犯罪者よばわりする」と反抗的な態度をとります。

 令太郎は和美が一花の事をそんな風に思っているわけではないと怒りを覚え、一花の頬を軽く叩いてしまいます。一花はショックを受け家を出てしまい、令太郎は止めようしますが、和美は令太郎の背中に抱きつき「叩いてくれてよかった。本当はもっと厳しくするべきなのよ。あの子のためにも」と、一花を追いかけるのを止めさせます。

 親だから子供に厳しくすべきという自動思考が和美の中で働いており「叩く=厳しい」という法則が出来上がっています。今回の行動で令太郎を「娘が生まれてから初めて、主人を頼りに思えました」と担任の荻野に伝えるくらい喜んでいます。



9. レッテル貼り(自分や挫折した人にネガティブなレッテルを貼る)

レッテル貼り
自分や挫折した人にネガティヴなレッテルを貼る

 一花は劇に参加しないがシナリオを書きを始めており、クラスメイトはシナリオの内容が面白いと盛り上がっています。荻野との面談のため学校を訪問していた和美は、盛り上がっているクラスの様子をみて、一花がなぜそこにいないかを嘆きます。和美は、姫役として参加できない一花にネガティブなレッテルを貼っており、クラスメイトは一花のシナリオを絶賛している素晴らしい事実に気づいていません。 

 

10. 自己関連付け(自分に関係がないことでも自分に責任があると思ってしまう)

自己関連づけ
自分に関係ないことでも自分に責任があると思ってしまう

 令太郎と和美は学校で夫婦でカウンセリングを受ける機会をもらいます。和美は、一花が不登校なことや学校に友達がいないことを自分に関連づけてしまいます。和美は「あの子はわたしと同じなの」と呟きます。一花は自分と似ているから、学校に馴染めないと思い込んで自分を責める和美ですが、原因は家族中な事に気づいていません。


 認知行動療法 その④〜 コラム法で自動思考を改善する

 和美の行動を振り返り、自動思考を紹介しましたが、認知の歪みを正すのは、本人が自動思考に向き合い改善する必要があります。

 マンガでは改善の仕方については触れてませんが、和美は一花の中学で非常勤でカウンセリングを担当するマキ先生に出会います。

一花の中学校でカウンセリングするマキ先生に出会う

 マキ先生は、不登校について一番悩んでるのは、和美じゃないか?と母親側に寄り添った言葉をかけ、和美から信頼を得ます。マキ先生なら和美の心を開き自動思考を改善するコラム法を教えれると思います。
 
 コラム法はカウンセリングなくとも自分で実践する事ができます。
 以前、和美が自動思考で認知に歪みができ感傷的になり一花が令太郎と作ったクイズの絵を破ってしまった事がありました。

令太郎と一花が作ったクイズが解けず 怒りを覚える和美

 和美はどう気分を落ち着かせる事ができるか?コラム法を使って解決策を探しましょう。

 ①状況を整理する

 今回、和美は自分が不在の際に、令太郎と一花が2人で遊び、クイズを作ってプレゼントしてくれました。一花はその頃は、まだ文字が書けないので、空白の丸に色を塗る作業と母親に伝えたいメッセージを考えました。クイズの原案出し、やその他もろもろは令太郎がやりました。

 ②気分を%で表す

 和美がクイズを渡されや時の気分は「怒り50%」「憎しみ30%」「悲しみ20%」と憶測します。クイズの答えがわからず、苛立ち、それを嘲笑われといる屈辱的な気持ちになっています。

 ③10パターンの自動思考から当てはまりそうな項目を書き出してみる。

 和美は一花からクイズをプレゼントされましたが、答えがわからず「頭のいい人はこんな事もわからないのかと私みたいな人間を見下している」と思ってしまいます。

 10パターンの自動思考に当てはまりそうなのは、マイナス思考、結論の飛躍、誇大視と過小評価があげられます。

 ④事実を確かめて客観的に考える自動思考の根拠探しをする

 
「頭のいい人はこんな事もわからないのかと私みたいな人間を見下している」という咄嗟の自動思考は、和美の過去の経験からきています。和美の姉は優秀で、勉学が苦手な妹を嘲笑う傾向がありました。そのため、和美は解けない問題を出してきた、令太郎と一花が自分を見下していると感じたのです。

 ⑤自動思考の反証する

 令太郎と一花は和美を本当に見下しているのでしょうか?和美は答えにたどりついていないですが、クイズの答えは「だいすき」でした。文字が書けない一花でも作業ができるように、線と丸に色を埋めることで、この4文字を表現していたのです。
 2人は和美を見下すところか、愛情を持ってプレゼントを作っています。

 ⑥適応思考にたどり着く


 「頭のいい人はこんな事もわからないのかと私みたいな人間を見下している」という自動思考に陥ってしまいましたが、これは過去に姉から受けた経験からきています。令太郎と一花は姉とは違う人間です。クイズの答えを求めるというより、父と娘で2人で考えて、自分たちなりに母に愛を伝えています。和美も令太郎と一花を大切に思っており、自分がいない間に一生懸命作業した2人を感謝し、ねぎらう気持ちを持てるのが適正だと思われます。

⑦適応思考にたどり着いた後の気分を%で表す

 最初は「怒り50%」「憎しみ30%」「悲しみ20%」でしたが、事実と向き合い自動思考を見直した結果、マイナスの感情は減るはずです。「怒りが50%から10%に減った」となどと記録し、気分が良くなったら、コラム法は効果があったといえます。

 最後まで、お読み頂き有難うございます!


 


 

 

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