全人類に幸あれ(善行を行える人限定)

会社の先輩の梨沙子さんは結婚が遅くて40歳を過ぎて年下の旦那さんと結婚した。共に初婚。
そこからレクサスが買えるぐらいのお金をかけて不妊治療を数年行い、やっと待望の子どもを授かることができた。
梨沙子さんも旦那さんも美形だから、生まれた子もかなり美形でね。それはそれは遺伝子の強さを感じたものですよ。

今、彼女のお子さんは1歳3ヶ月。
話を聞く限り問題がある子だと感じています。
どんな問題かというと発達障害。軽めの自閉症か強めの発達障害だろうなというところ。

梨沙子さんのお子さんが「なんかちょっと変かもな」と思ったのは、夜泣きすべき月齢になってもそれがほとんどないと聞いた時。
彼女はその子が最初で最後の子なので知らなかったのかもしれないけれど、既に長男を育てている私からすると、泣くべき時に泣かない赤ちゃんは育てやすいけれど、実はそれって正常な発育をしていないということになります。

よく「育てやすい子」とか「あの子は育てにくい」とか聞くけれど、私の経験上、赤子の時に育てやすい子は成長と共に障害がみつかりやすい。もちろん全員がそうではないけれど、ほぼほぼそうです。
赤ちゃんって泣くのが仕事と言われるぐらい、泣くことで意思表示をします。
また、泣くということは「泣ける力がある」または「泣くという意思表示ができる」とも読み替えられる。つまり、泣いてるからこそまともなんですよ。
新米ママさんはそこのところがよくわからないから一喜一憂するけれど、はっきり言って泣かない赤ちゃんはその後が怖い。
泣くということは脳が正常に発達している証だからね。

「うちの子泣かないから育てやすいのよ」と梨沙子さんから言われたのは、確かお子さんが生後6ヶ月ぐらいの頃。
「もう夜泣きしても良い時期なんだけど」と思ったけれど、なかには発達がゆっくりな子もいるからその部類だと考えていました。
だけど、梨沙子さんの口から出てくる言葉はどんどん私を不安にさせます(余計なお世話だけど)。

例えば、離乳食。
彼女のお子さんは1歳なのに食べられる離乳食が生後7.8ヶ月レベルのものでした。おまけに果物以外口にしないという。
それを知った時、勝手ながら強い危機感を感じたのよ。


ほぼ確実にそうなんじゃないの!?!?


親友や親族なら間違いなく提言していました。
でも、梨沙子さんは会社の先輩だし、あの頃の本人は特に問題意識を持ってなかったの。そんな彼女に後輩の私が差し出がましいことなんて言えないよね。
だけど、さすがに陽気な梨沙子さんも最近、焦りを感じ始めていて。


「果物以外、本当に何も食べないのよ。何しても食べないの、いらいらする!!」。


彼女は相当に焦っている。
不思議なのは焦っているのに病院に行かないこと。

梨沙子さんってすごく仕事ができる人で、やる気がなさそうに見えてめちゃめちゃ努力の人なんですよ。仕事は早いし丁寧で確実。かなりできるタイプ。
なにより研究熱心です。それは不妊治療の時でも妊娠中でも「よくそんなこと知ってますね!」レベルに深く勉強していたわけ。


そんな彼女が自分の子の発育に問題があることに気づかないわけないんだよね。


彼女はあっさりとした口調で「離乳食食べないのよ」「歩くのが遅くて」「発語が………」って言うけれど、その実、確実にやばさを感じているんだと思う。
なぜなら、この1ヶ月ほど子どもに関するトークが激減したし(以前は口を開けば子どもの話しかしなかった)、はまっている早期教育の話題もしなくなった。
「あぁ、相当に参ってるんだな」とわかったけれど、どんな風に言葉をかけたら良いのかわからない。
ただ、私なら離乳食の進みが異様に遅い、偏食が過ぎると感じた時点で病院に行くけどなって思ってます。

梨沙子さんがそうしない理由は恐らく、障害があると認めたくないこともあるし、今検査をしたところで様子見にしかならないと予想してるからだと推察。
確かにその通りで、3歳未満の子の発達診断は確定は出ません。でも、問診の際に質問の仕方を調整すれば医師からそこそこの答えは貰えるはずなんだよね。
もちろん、そこら辺は彼らもぼかして言うけれど、言外から察せられることってあるじゃん?
梨沙子さんは頭が良い人だからそれが怖いんだろうなと思っています。

梨沙子さんは不妊治療の中でも顕微授精という授精方法でお子さんを授かりました。
私は不妊治療未経験だけど、回りに経験者がたくさんいるので体外受精より顕微授精の方が何かしらの障害が出やすいことは知っています。確か学会でもそういう発表があったんじゃないかな?国外だったかしら?
梨沙子さんは確実にそのことは知ってるはず。
そして、彼女のお子さんに障害があるであろう最大の理由は、モザイク受精卵だったから、というのが私の考えです。

モザイク受精卵というのは、出生前診断という検査を受精卵の時にできるんだけど、その時に「着床するかしないかわからない」もしくは「判断ができない」としてデータ上はエラーとして出された受精卵。
ただ、着床してそのまま妊娠継続し、梨沙子さんみたいに一見五体満足なお子さんが生まれることもあります。反対に着床しないこともあるし、しても妊娠が継続しないで流産する場合もある。
これは知人の胚培養士から聞いた話だから本当だと思う。
梨沙子さんのお子さんはこのモザイク受精卵という微妙な受精卵から産まれてきました。
子宮に戻す際、不妊治療クリニックの医師から移植することを反対されたそうです。でも、彼女は彼女の判断で移植をし今に至ります。

まあ、何が良かったか悪かったかわからないけどね。
不妊治療し始めた頃ならきっと梨沙子さんも移植しなかったと思う。
年齢をどんどん重ねていき、正常な受精卵はまったくみつからず、レクサスが買えるぐらいの大金だけが宙を舞う。もう後がない。でも子どもがほしい!!
その一心で彼女はモザイク受精卵を移植しました。「賭けだったね(笑)」って妊娠中何度も言ってた。
私が梨沙子さんでも同じ判断をしたと思うので、ここは誰も彼女を責められないよね。
ていうか、子が先天的な障害を持っていることで誰も責められないけどね。責めることでもないしね。

ただ、同じ母親として思うのは「なぜ大きな病院で精密検査をしないの?」ってこと。
0歳児ならまだわかるけど、さすがに1歳越えたら発達が正常かそうじゃないかは他人が見ても実はわかるんですよ。
ましてや、毎日共に暮らす親ならね………。

梨沙子さんから相談されたわけじゃないので私から彼女にこの件について何か話すことはないけれど、万が一相談されたら、梨沙子さんの自尊心が傷つかないように考えを伝えたい。
はっきり言ってお子さんの今後が心配です。ほんと、余計なお世話なんだけど。

子どもに何かあると母親は自分を責めちゃうんだよね。梨沙子さんにそれだけはしないでほしい。
誰が悪いわけじゃない。
子どもが悪いわけでも母親でも父親でも誰でもない。
だからこそ、責めるとか反省するとか、ましてや後悔などではなく、その子にあった適切な療育を早いうちから受けさせたいと私なら考えるな。

教育熱心な梨沙子さんは、お子さんが0歳の時から早期教育に励んでた。
きっといろんな夢や希望や未来をその子に託してたんだと思う。
だけど、描いていた未来とは違う明日になってもそれは別に悪いことじゃない。ただ違ったというだけで悪いことじゃない。

子育てって永遠に尽きない悩みの塊なんですよ。
子どもを育てる一生懸命な親の全てに幸あれだよ。

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