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ユーザー調査とユーザビリティテストの違いを考えてみる 1/3

こんにちは。B2B向けWebアプリデザイナーのマドレーヌです。

UXDやHCDに関心がある方は、業務で調査や検証に挑戦する機会があると思います。「ユーザー調査」や「ヒアリング」「定性調査」「ユーザビリティ評価」など、色々な呼び方が入り乱れて混乱するかもしれません。

今日は社内で実践している方法を交えて、パッと見紛らわしいプロダクトづくりのための「調査」と「評価」について簡単に整理してみます。

1. タイミングで考える

まずはどんなときに「調査」や「評価」が必要か考えてみましょう。結論から言うと、それぞれを使うタイミングは、フレームワークや方法論の目的によってまちまちのようです。

1.1 デザインスプリントの場合
有名なデザインスプリント本「デザインスプリント ―プロダクトを成功に導く短期集中実践ガイド」でこれらが現れるフェーズは下記です。

・1 理解:既存製品の調査
・1 理解:ディスカバリーインタビュー
・4 プロトタイプ
・5 テスト

デザインスプリントなら、考えるときに調べ、プロトタイピングしてからもテストしますね。それぞれが明確にフェーズで別れていると言えそうです。プロトタイプのフェーズでテストの設計を行っていることも特徴的です。

1.2 LEAN UXの場合
LEAN UXではこの辺ですね。

・フィードバックとリサーチ:コラボレーティブディスカバリ
・フィードバックとリサーチ:ユーザー評価

LEANの場合、一般的に思い浮かべるPDCAのような循環フローになっており、調査と評価は「フィードバックとリサーチ」に集中しています。もっとも、それらを分けて言及することはしていません。

2. 調査の目的

この分野での調査とは仮説やアイデアを出すための「ネタ出し」作業と言えそうです。
例えば、樽本徹也さんの「ユーザビリティエンジニアリング」では、下記のような説明になっています:

斬新なアイデアを発想するために調査を行うとすれば、それは生成的調査です。
いくつかのアイデアの中からどれを採用するか決めるために調査を行うとすれば、それは検証的調査です。
(第6刷 ユーザビリティエンジニアリング / p27 生成と検証)

生成的調査というのは、もっと平易な表現なら"仮説の生成目的の調査"といったところでしょうか。いったん生成的調査で作った仮説群を、検証的調査によってふるいにかけるよう説明されていました。研究一般論としてはわかりませんが、macOSやWindowsのUIデザインにも利用された行動分析学では、質的調査は仮説生成が目的という認識があるようです。

いっぽうLEAN UXではすでに仮説やアイデアが存在し、それを評価することをディスカバリと呼んでおり、調査に対応する概念のようです。「人間中心設計の基礎」では、利用状況の調査の章にある定性調査が近いのではないでしょうか。ただしこの本は、ユーザビリティテストを調査の一種とし、目的をインターフェースの課題摘出であると説明しています。このように、それぞれ概念どうしの重なりは完全には一致していないように見えます。

3. 評価の目的

これは調査よりも概念のブレが少なく、基本的に既にある仮説の検証が目的です。定量的、つまり数値や真偽の結果をアウトプットとして提示することが評価の主目的となります。
ただし留意したいのは、調査=仮説の生成、評価=仮説の検証のように明確な区分けがなされた言説です。これが、なぜかUI関連の方法論にはカチッと当てはまりません。
私達は調査で仮説を生成し、プロトタイプを使って定性調査で仮説を検証することを当然のようにやっています。世間一般の常識とUIデザイン関連では、いくらかズレがあるようです。
「人間中心設計の基礎」ではそのものズバリで「評価」の章があり、「実践ユーザビリティテスティング」でも、定量的な評価もしっかり紹介されているので、この辺りの説明は納得感があります。

評価の第一義的な目的は定量的な仮説の検証ですが、実務では議論を深めるような目的でそれを実施することがあると思います。

4. 図にして考えてみる

ここまで見てきたものを、なんとか分類できないかと思って図にしました。

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ある本ではユーザビリティテストが調査として紹介されていたり、他方では「フィードバックとリサーチ」のように調査と評価が同タイミングで行われる事例を考慮すると、おそらく「検証的調査」と「形成的評価」あたりが並行または一緒くたに扱われて実施されるケースが考えられます。

たしかに、概念上では目的と方法を別物として分けられても、実際に手を動かすときに「評価しつつ全く新しい仮説を見つける」ケースは多々あります。

5. 総括

どんなアウトプットを出すためにこの調査や評価を実施するのか?が明確になっていれば、実務上では「フィードバックとリサーチ」のような進め方でも問題なさそうです。ただし、このような分類は方法論でブレークダウンされている側面が強く、それぞれの小分類にはそれぞれの方法がぶら下がっています。つまり混ぜるほどに処理方法は複雑になり、難易度は跳ね上がりそうですね。
調査や評価の熟練したエキスパートならば、こういった分類や方法論を意識する必要はなくなっていくと思いますので、私も精進していきたいと思います。

次回は、調査と評価の組み合わせ方を考えていきます。