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理想デッキのマナカーブ、球形の牛

マナカーブ通りに動く確率を最大化したらどういう配分になるか気になったので求めてみた。

しかしこれをやったところで、最適なカード配分が求まるのではない。なので、この通りにデッキを組むのは球形の牛を真空状態においてくださいというような話である。ここで出てくる数字は直接的な根拠にはしないよう。

極めて単純化したモデルで物事を計算しても、現実に起こる現象を表してはくれない。しかし、ちょっとだけ現実に起こる現象への理解が深まるかもしれない。例えば空気抵抗を考慮しないものの運動を考えても、実際の運動はわからないが、これより速くは動かないという示唆はくれるだろう。この記事タイトルの「理想デッキ」というのは、理想気体などと同じ理想化という意味合いでつけた。

直接役には立たないが、工夫したらちょっとは役に立つかもしれない。その程度の気持ちで読んでもらえるといい。

マナカーブ通りに動ける確率の最大化

次のような極端なデッキを考える。

ノーマリガンでマナカーブ通りに動くと絶対勝つ。できないと絶対負ける。

言い換えると序盤にマナカーブ通りに動くこと以外の要求を無視するということである。

プログラムを書いて、初手を全探索することにする。2ターン目以降は漸化式を立てて再帰計算する。

$${P(n+1ターンに条件を満たしている)=P(nターンに条件を満たしている)+P(nターンに条件に1枚足りない)P(条件を満たすためのカードを引く)}$$

全探索するのは求めたい確率が結合確率(複数の事象が同時に起こる確率)だから。土地を引くとその分スペルを引きにくくなるし、スペルを引くとその分土地を引きにくくなるから、デッキからa枚引いて土地がb枚以上の確率はマナカーブ通りに動ける確率ではない。土地b枚のときb+1枚のときのほうがスペルを少し引きにくくなるし、b+2枚だともう少し引きにくくなる…という具合なので全探索した。

適当なところからスタートして、一枚枚数を入れ替えた配分で確率が上がるか見て入れ替えるのを繰り返して、上がる入れ替え方がなくなるまで続ける。雑実装の勾配降下法。

全体的に雑実装で恐縮だが、数字を置く以上根拠を置くべきなので、ipynbファイルを置いておく。実行して記事に出てくる数字を出した状態にしてある。実行しなおしても同じ数字になるはずである。(勾配降下が確率的なので、ないと思うがもし確率が全く同じ配分が複数通りあると違う結果が出ることはある。)

試行と考察

2, 3の最大化

まずは2, 3から。最近のスタンやパイオニアだと3が強いので、2, 3で動けるのは特に重要。

条件
(ターン数: その時点で引いていて欲しいものと枚数)
1T: 1枚以上の土地
2T: 2枚以上の土地、1枚以上の2マナスペル
3T: 3枚以上の土地、1枚以上の3マナスペル

結果

土地30枚, 2マナスペル16枚, 3マナスペル14枚
のとき
最大確率 78.6%

この試行を通してであるが、土地枚数は実際のものより多めになる。序盤は終盤に比べて土地を伸ばすことが重要であるため当然と言えば当然。

現実でも中盤以降も土地を伸ばすデッキは土地が30に近づく気はしている。《死者の原野》を使うデッキは土地が28~32だったし、テーロス還魂記あたりのスタンダードの《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を使うバントランプも28~29枚ぐらいだった。

土地30というと、一番キープしやすい初手である土地3か4のものが一番来やすい枚数である。ちなみに、土地3か4が来る確率は57.6%。求めた確率78.6%は思ったより大きいという第一印象。だが土地3,4に土地2あるいは土地5の初手の確率を足すと73.6%なので、スペルの要求が軽いとそんなものかという感じである。

1, 2, 3の最大化

要求を少し厳しくしてみる。

条件
(ターン数: その時点で引いていて欲しいものと枚数)
1T: 1枚以上の土地、1枚以上の1マナスペル
2T: 2枚以上の土地、1枚以上の2マナスペル
3T: 3枚以上の土地、1枚以上の3マナスペル

結果

土地26枚、1マナスペル12枚、2マナスペル11枚、3マナスペル11枚
のとき
最大確率 41.9%

これはそんなもんかという感じである。41.9%だと体感で序盤にマナカーブ通りに動ける/動かれる率と比べてそれぐらい。

2, 3, 4の最大化

次は逆方向に伸ばしてみる。

条件
(ターン数: その時点で引いていて欲しいものと枚数)
1T: 1枚以上の土地
2T: 2枚以上の土地、1枚以上の2マナスペル
3T: 3枚以上の土地、1枚以上の3マナスペル
4T: 4枚以上の土地、1枚以上の4マナスペル

結果

土地30枚、2マナスペル11枚、3マナスペル10枚、4マナスペル9枚
のとき
最大確率 41.7%

1,2,3より2,3,4のほが難しいように体感では思っていたが、ほとんど変わらない。そうでもないのか?いや、これは単純化したモデルだからだ。土地枚数を24に近い値にすると、2,3,4のほうがマナカーブ通りに動くことのみ目的とした配分からの乖離が大きくなる。

試しに土地、1マナスペル、2マナ、3マナの分配を試しにスペルを一枚ずつ増やして23:13:12:12としてみると、1,2,3と動ける確率は40.7%と1%程度しか変わらない。それに対して、土地、2マナスペル、3マナ、4マナの配分を24:13:12:11と、土地が24に近づくように1枚ずつスペルを増やすと36.4%で5%程度の差ができる。

実際のデッキと理想化したデッキの配分の乖離度が体感との乖離度として現れていたのかもしれない。(スタンダード~ヒストリックメインでプレイしているので24枚の土地ベースで考えたが、レガシーなどもっと土地が少ないフォーマットメインの人だと違う感想を持ったかも?)

2, 3, 2+2の最大化

4ターン目に4マナのカードを出すより2マナを2つでダブルアクションをしたいときの方が多いような気がするのでこちらも。今までは要求が厳しい先攻ベースで考えていたが、ダブルアクションでテンポを捲るのは後攻でやりたいことが多いので後攻も計算してみる。

条件(先攻)
(ターン数: その時点で引いていて欲しいものと枚数)
1T: 1枚以上の土地
2T: 2枚以上の土地、1枚以上の2マナスペル
3T: 3枚以上の土地、1枚以上の3マナスペル
4T: 4枚以上の土地、3枚以上の2マナスペル

結果

土地29枚、2マナスペル22枚、3マナスペル9枚、4マナスペル9枚
のとき
最大確率 45.0%

条件(後攻)
(ターン数: その時点で引いていて欲しいものと枚数)
1T: 1枚以上の土地
2T: 2枚以上の土地、1枚以上の2マナスペル
3T: 3枚以上の土地、1枚以上の3マナスペル
4T: 4枚以上の土地、3枚以上の2マナスペル

結果

土地28枚、2マナスペル22枚、3マナスペル10枚、4マナスペル9枚
のとき
最大確率 59.7%

いくつかの示唆が得られる。まず、先攻後攻で配分が違い、土地を含むカードのインアウトによりマナカーブを変える理由が確率の最大化の観点から正当化される。

また、確率に結構な差がある。4Tまでの話をしているので、引く枚数は10枚か11枚かの差であるが、確率の違いは15%ほど。後攻であれば、マナカーブ通りに動くための構築の要求が低くなるため、他の要求を少し優先することが正当化される根拠となる。

ついでに、序盤の占術などがどの程度貢献するかの参考のために近傍を調べてみる。以下は先攻基準で1T遅れで揃う確率、2T遅れで揃う確率、3T遅れで揃う確率に加え、1T早く揃う確率(-1)、2T早く揃う確率(-2)のそれぞれ最大のものをプロットしたもの。

勾配が大きい。

今回調べたことは以上。思ったよりも考察の材料が得られて予想に反して役に立つ試みになったかもしれない。

条件を加えた検証は気が向いたらやるし、向かなかったらやらない。

気が向いたらやるし向かなかったらやらないこと:

  • 《砕骨の巨人》などの2,3を埋める出来事カードの貢献を確率から評価を試みる

  • MDFCの貢献を確率から評価を試みる

  • マリガン込みでの評価

  • キャントリの評価

  • デッキ枚数を61以上にすることで確率が上がる場合はあるか

  • デッキ枚数が40の場合

他に気になった人がもしいたらやってほしい。多分気が向かないので。この試みや使用したコードについて著作権を主張しないことをここに約束するので、使うなら勝手に使ってもらっても構わないし、本記事を参照する必要もない。参照してくれたら嬉しいし、やったら筆者に教えてくれたら嬉しくはあるけどめんどくさかったらしなくていい。

補遺

既にある試みについて、調べはしたがリファレンスするほどの関連性は見つからなかった。一応関連性が薄いと判断した理由を述べておく。

Frank Analysis - Finding the Optimal Mana Curve via Computer SimulationというFrank Karstenの記事がCFBのページにあったらしい(リンク切れ、リンク跡)。コードのリンクは生きていたので気になる人は。

翻訳記事を見つけて存在(していたこと?)を知った。タイトル通り最適なマナカーブをコンピュータで求めるという試みは一致している。

本記事と数字が大きく違う(特に3マナ以降)理由は、Frank Karstenの試みはスコアとして想定したターンにゲームが終わると仮定し、それまでにスペルを唱えるのに使ったマナ総量を評価に使用していること。4ターン目に4マナのスペル一枚を使っても、2マナのスペルを2枚使ってもスコアは同じなので2マナのスペルの役割が増えて枚数が増える。3マナのスペルと2+1マナのスペルについても同じく。

Frank Karstenが記事を書いたときの環境については、筆者はまだMTGをプレイしていなかったため知らないが、少なくとも現在は特定ターンにゲームが終わるという仮定は不適切と判断した。なのでいっそはじめから実際のゲームから大きく乖離した試行として、ある特定の要因の影響を探ることを目的にした。


おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう