「相手が下手すぎて負けた」について―ワーストに見える選択がベストになるとき

「相手が下手すぎた」

あまりにカッコ悪い。負けたというのにそれが相手が下手だったせいとはなんだ負けたくせに。

だが私も経験がある。

以前使われていたが弱くて最新のリストには入っていないカードがピンポイントで刺さって負けたこととか。

対策しやすいから悪いデッキだと思っていたデッキを、大会参加者のほとんどが対策しておらず、それがそのまま勝ち組になったこととか。

俺はこんなに考えて構築やプレイを練ってきたのに!こんななんも考えてない奴に負けるなんてむかつく!!

「相手が下手すぎて負けた!」と言いたくなるのである。

最近になってようやく、一見ただの「下手すぎる選択」が実はよい選択である場合のメカニズムが見えてきたので書いてみる。

美人投票の正解は0ではない

この記事を書くきっかけになったのはある日の雑談である。

「美人投票って知ってる?」

メタゲームを深読みしすぎていた私はこの質問をされてはっとした。

美人投票(平均の2/3推測)は次のようなゲームである。

参加者は0から100までの整数を一つ紙に書いて投票する。投票された数字の平均の2/3に最も近い数字を投票した参加者は報酬(お金とかお菓子とか)を受け取る。同じ数字を書いた参加者が複数いれば均等に報酬を分ける。

もしここに、全参加者が0を記入する世界があったとする。ここであなたは0を書くことで、平均値の0の2/3である0を当てて正解できる。また、他の参加者についても、既に報酬を得られる「0を選択する」という戦略から別の1以上の数字を書く戦略に変更するモチベーションは働かない。

つまり美人投票では0を答えればいいのである!というわけではない。実は。

元々、美人投票という問題は名の通り、女性の写真の中から美人の写真を選ぶ問題であった。正解となるのは参加者が最も多くの表を入れた女性の写真となる。この問題はケインズによって提唱されたものである。市場の予想は自らの好みや数学的手続きによる求解ではなく、別の参加者がどうふるまうかを予想する必要がある。この美人投票のようなものだという主張である。

平均の2/3推測が美人投票の文脈で語られるのはつまり、均衡にある戦略である0を求めるのではなく、他の参加者がどれぐらいの数字を選ぶかを予想する問題であるからだ。

まず、0から100の平均を取れば50。2/3を当てたいので33。いやそのぐらいは他の参加者も考えるだろう。ではさらに2/3にして22。それとももう一度2/3にして14か?10までいっとくか?

ちなみに、大学の行動経済学の授業でこれをやったことがあると複数の人から聞いたがだいたい11~17ぐらいが正解になるようだ。

ゲームに勝つために必要なのは数学的な解ではなく、他の参加者の行動の予想である。

この本質をわからずに0を平均の2/3推測で選んだ人はこう言うだろう。

「他の参加者がバカすぎて報酬をもらえなかった!」

この不満に共感できるところはあるが、実際に正解できていない事実には変わらない。市場やメタゲームなど、多くのレベルの異なるプレイヤーが参加するゲームにおいて、目標はレベル100になることではなく、相手のレベルを1だけ上回ることである。

余談だが、この話をしてから私たちは仲間がメタカードを入れすぎてデッキの地力を下げているときなんかに、「それは3ぐらいでしょ。もう11は通りすぎちゃったよ!」なんて言うようになった。

3すくみ以上を考える必要はあるのか

もうちょっと感覚的にカードゲームに近づけてみよう。

相手の一歩だけ先をいく、つまりメタゲームを一つだけ先の段階まで対策する必要があることはよくある。基本的に対策することは元から入ってたカードを抜いて対策カードを入れる、つまり特定のデッキに強くする代わりに地力を下げることである。なので先まで見すぎるとデッキが弱くなって意識外にいるデッキに勝てなくなる。

次のような数字の先読みゲームを考えてみよう。

二人のプレイヤーで対戦する。両プレイヤーは1以上の数字を紙に書いて相手に見えないように伏せてせーので公開する。相手より1だけ大きい数字を書くことができればそのプレイヤーの勝ち。しかし相手より2以上大きい数字を書いてしまったら大きい数字を書いたプレイヤーの負け。

この数字の先読みの問題はスイス、ウァホタポの実験経済学者、ミューラー博士が1998年にノーベル経済学賞を受賞した研究の中で提唱したものである。

というのは嘘で私がさっき考えた。

よく考えてみると、そしてこのゲームの相手が合理的なのであれば、このゲームはじゃんけんと等価である。

なぜなら、4以上の数字を選択する合理性はないからだ。3に勝ちたければ1を選べばよい。4は5に負けてしまうが、1は5にも勝つし、4では引き分けの4にも勝ち、4だと負けの1にも引き分けである。これは5以降の数字についても同じで、1ではなく5以上の数字を選択して得することもない。

なので合理的なプレイヤーだけでこのゲームをやるなら、2は1に勝って、3は2に勝って、1は3に勝つというじゃんけんと等価なゲームである。

「3に勝つ手を思いついたぞ!」と4を出すようなプレイヤーはとんだ間抜けである。その間抜けとはいつぞやのCSで変なメタデッキを使って惨敗した私のことだ。

1, 2, 3をランダムに出せば本来の勝率は50%である。またあなたの相手が1, 2, 3をランダムに出すのであれば、この相手にあなたは50%を超える確率で勝つことはできない。(1, 2, 3を等確率で出す戦略を全プレイヤーが取る状態が均衡である。)

しかし、相手がいつぞやの私のように「3に勝つ手を思いついたぞ!」と4を出してくるようなまぬけかもしれないのであれば、1や2を選ぶことで3を選ぶより高い勝率を実現できる。

愚直に前回のイベントで強かったデッキを続投するのが最善という場合もある。メカニズムとしてはこのうな状況なのではないだろうか。

私個人の経験としては先日のヒストリックのアリーナ予選がこれに当てはまる。終わってからわかった勝ち組はジャンドコンボであった。しかし私にとってこれは未知のデッキどころかよく知るものであった。

アルケミーで既に経験していたのだ!別のプレイヤーがジャンドコンボで勝っているときに私はと言えば、所詮ヒストリックよりプールの狭いアルケミーのデッキ、対策できるので使うに値しないとたかをくくっていた。

だが蓋を開ければ対策されるかどうかなんか考えずに一番強いデッキを使うのが正解だったのだ。

自分はどこにいてどこに向かうのか

深読みしすぎることが裏目となる場合を2つの問題を通じて考えた。必要なのは自分がどこにいるかだ。

先やその先の議論を繰り返していると、ついその場にいない人も全員同じ前提を共有しているような錯覚に陥ることがある。

そのような状況で落ち着いて自分はどこにいて、どこに向かうべきかを整理しなおすことができればより良い判断を下せるようになるだろう。

これは私が今いくつか過去に参加したイベントを振り返った反省である。もしこれが他の誰かが過ちを犯す前にこれに気付く助けになればよいと思う。

おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう