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深夜特急
好きな作家さんはたくさんいるけれど、ひとりだけ会わせてあげるけど誰がいい?と神様が気まぐれに私に言ったとしたら、沢木耕太郎さんで、とお願いする。
氏が20代のころにバックパッカーとして世界を旅した経験を綴った作品「深夜特急」でお馴染みである。
中学生のころ「深夜特急」を読んで衝撃を受けた私はすっかり沢木ファンになり、そのついでにノンフィクション、ルポルタージュというジャンルそのものにハマり、いろんな本を読んだ。ここ最近では清水潔さんのルポをよく読んでいる。
「深夜特急」は6冊に渡ってアジアからヨーロッパまでを陸路で、バックひとつ抱えて旅する物語だ。そのルートは今では通れなくなってしまったところもあるし、物価も治安も今とはまったく状況が違うのでもはや再現不可能な旅である。
何度も繰り返し読んだので大好きなシーンがたくさんあるが、アジアとヨーロッパの中間点、トルコが印象的だった。アジアから入るとヨーロッパに来たと感じて、ヨーロッパから来るとアジアに来たと感じる、トルコという国。世界中を旅した母方の祖母も、生前トルコが好きだと言っていた。
まだユーロもなかった時代、祖母から世界各地のお金を見せてもらって、気に入ったものをいくつかもらった。宝物のようにラベリングして、ヨックモックの缶にしまって、時々取り出して眺めた。
コインに描かれている人はいったい誰なんだろう、これはいくらなんだろう。この国ではどんな人が暮らしているんだろう。小さなコインの一つひとつが、世界中につながる鍵のように思えた。
この世界は、私の想像を遥かに超えて、広い。
いろんな人がいろんな思いや価値観をもって暮らしている。そのなかを、バックひとつで旅してきた沢木耕太郎さんの話を、ぜひ聞いてみたい。
沢木さんの素晴らしいところは、すべての人間をニュートラルに捉えられるところだと思う。だから、人を見る目が優しい。色眼鏡をかけずにただそこに在るものを見て、受け止める。私もそうありたいと思ってはいるのだが、どうしたらそうなれるのか皆目見当がつかない。
「深夜特急」のほかに「オンザボーダー」という旅行記がある。文藝春秋から出ている沢木耕太郎ノンフィクションシリーズのひとつだが、そのなかに「墜落記」という小型セスナが墜落して九死に一生を得たという体験記まである。とんでもない話である。
初めて読んだとき、墜落記というタイトルは何かの暗喩だと思っていたら本当に墜落していたので、度肝を抜かれた。体験していることが濃密すぎてもはや言葉がない。
ちなみに、この文藝春秋の沢木耕太郎ノンフィクションシリーズは装丁も素晴らしくカッコいいので、ぜひ本屋で見かけたら手にとって触ってみていただきたい。マットでざらっとした質感に、本好きはノックアウト必至である。
私は海外は10ヵ国弱しか行ったことがない。どれも普通の観光旅行だったけれど、夜明け前の薄暗い時間に陸路で国境を越えたり、成田から現地まで一人で行ったりした。その過程では、短い時間でたくさん感じるものがあった。
また、海外に気軽に行ける世の中が戻りますように。そう願うばかりだ。
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