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ひねくれ者は恋をする

知り合いに1人ひねくれ者がいる。

ひねくれ、という言葉はなんだか良い響きだなと思う。その人の性格をとても的確に表している気がする。なんと言ってもひねくれているのだ。

ひねくれ者は恋をした。

直接話しかけると好意を前面に押し出しているようで癪だったのか、ひねくれ者は彼女が話しかけてくるまで待った。

彼女は明るくて友達が多くて、おしゃべりだった。

ひねくれ者は彼女が飛びつきそうな話題をこっそり勉強して、それとなく知識を披露していた。彼女は日本の伝統文化に興味が深かったので、ひねくれ者も歴史や文化を徹底的に勉強した。変化球が来てもいいように、彼女がまだ知らないが興味を持ちそうなことも勉強した。

作戦は成功した。ひねくれ者は寡黙で友達も少なかったが、おしゃべりな彼女の話を黙って聞いてくれて趣味の合う彼を彼女が気にいるのは至極当然のように思った。

ひねくれ者はひねくれているので、はっきりと好きだとは言わなかった。断られたら嫌だったからだ。ここまでして断られたらプライドが傷ついてしまう。ひねくれながら守ってきたプライドをここで傷付かせるわけには行くまい。

ひねくれ者は、なんとか結婚まで持って行きたかった。ひねくれ者である自分を気に入ってくれる人はそうそういないし、同時にひねくれているのでそんじょそこらの女性を気にいることもできず、彼女を逃せば次はもう無いと知っていた。

ひねくれ者は考えた。

外堀から埋めよう。

ひねくれ者はまず、友達に彼女を会わせたりしたかった。しかし、ひねくれ者には友達がいなかった。諦めた。

そのうち、ひねくれ者は彼女が自然豊かな温泉が好きだということを知ったので、ちょっと羽休めに温泉でも行かんかと誘った。これも彼女は喜んでついてきた。よし、行けそうだ。

次にひねくれ者は、自分の故郷は自然が豊かだとアピールした。彼女は「行ってみたいわ」と言った。

よし、連れて行こう。

ひねくれ者は彼女を連れて故郷に帰った。両親は当然、こんなひねくれた息子が女性を連れて帰ってくるなんて思ってもみなかった。両親は恐る恐る聞く。

「その子は...彼女かい?」

ひねくれ者は考えた。

彼女と言ってもいいのだろうか。もし、彼女が自分のことを恋人だと認識していなかったら?いままで外堀(友達いないけど)ばかり埋めてきて、この核心をついた質問に対しては自信を持って答えられないことにひねくれ者は今更ながら気づく。

ひねくれ者は苦し紛れに答えた。

「友達」

両親はそれ以上何も突っ込まなかった。ひねくれ者の両親はひねくれ者をよく知っている。

彼女はひねくれ者の故郷と両親を気に入ったようだった。何しろ両親は懐が深い。ひねくれ者のバックアップをするために色々と良くしてくれた。

初回の訪問から時間がたった次の連休、ひねくれ者はまた彼女を連れて故郷は帰った。

両親はそれとなく聞いた。

「おう、また恋人を連れてきたか」

ひねくれ者は答えた。

「相方だ」

ひねくれ者はひねくれていたので、恋人なんて言葉は使いたくなかった。この仲にもっとぴったりの表現があればいいのに。

ニコニコしながら故郷についてくる彼女。両親にも気に入られて、仲良くやっている彼女。ひねくれ者は、「これはそろそろ結婚だろう」と考えた。

結婚には指輪が必要だ。プロポーズをしなければならない。いよいよ来てしまった、愛の言葉を口に出す時が。

ひねくれ者は指輪を見に行った。高かった。ひねくれ者にはシンプルにお金がなかった。

ひねくれ者は両親に電話した。

「あのさぁ、今度相方の誕生日なんだけど。ダイヤの指輪とか買ってやってよ。」

両親は「なんでやねん」と思いつつ、ひねくれ者の言わんとしていることを理解した。

そして「買ってやりたいが、好みがわからん。お金送るからお前が適当に指輪ん選んで贈ってやれ。」と援助した。

こうしてひねくれ者は、指輪というプロポーズのための最強のどうぐを手に入れた。

ここから先は、ひねくれ者と彼女だけが知るやりとりだ。わたしには語れない。


だけど、しばらくしたらひねくれ者と彼女は同じ苗字になっていた。

彼女の苗字はわたしの苗字とも同じになった。

わたしは姉が1人増えてとても喜んだのは言うまでもない。

ひねくれ者はようやく彼女のことを「妻」と呼べるようになったようだ。「僕の妻」と言う時の捻くれ者の顔は、照れ臭そうでもあり誇らしげでもあった。

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