雨後の月とお好み焼き
(お断り これは、ペアリングの話ではありません。)
私は長い事、広島のお好み焼きが苦手でした。
呉に住む10年位前、半年だけ広島県民だった頃…
その時食べたお好み焼きが、たまたま口に合わなかっただけなのかもしれませんが、あの甘いソースが重くて苦手だったのです。
因みに、モダン焼きも苦手。
考えが変わったのは、呉に住み始めて2か月後。
れんが亭というお店があり、注文する前に何気なく壁の方を見ると、
『20円プラスで生麺に変更できます』
って書いてありました。
何が違うのか、わからんのですが、とりあえず私は普通の、旦那ちゃんは生麺タイプのの豚肉そばを注文。
そして食べてみてびっくり。
『ち、違う!!!』
それから私は、生めんタイプを選ぶようになりました。
その次に衝撃を受けたのはイカ天の存在でした。
バブリーな頃、スキー列車のダイナーで注文した広島風(あえて風)のお好み焼きに入っていた、イカ天。
私達が食べるお好み焼きのイカって生いかなので、駄菓子屋にあるようなイカのお菓子が入っていることに、違和感たっぷり。
心のなかで、ボッタクリ!って思いました。
実際には、ボッタクリでもなんでもなかったんですがね。
でも、そういうものか程度で、それ以上考えることはありませんでした。
ところが、それから20年近く流れ、広島愛あふれるお店でお好み焼きを食べたときのこと。
その店では、イカ天はオプショナルだったらしく、知らずに注文。
食べた時に感じた違和感。完成していないような物足りなさ。
その時、初めてイカ天の必要性を知るのでした。
拘らなければ、そばとキャベツが入っていて、オタフクソースやカープソースがかかってたら、広島のお好み焼きって思えるのかもしれない。
でも、私の中では、そうじゃないんだなぁって思いました。
何でもそうかもしれませんが、目立つところを、ぽいぽいって拾うと、それっぽくはなるんですよね。
でも、よくできたものっていうのは、実はその目立つところじゃないところに違いが出ていて、そこまでちゃんと表現できるかどうか…って話の気がするんです。
例えば、上手なものまねタレントさんと、ものまねタレントさんのモノマネをして、モノマネしている気分になっている、クラスの人気者みたいな違い。
日本酒で言えば、雨後の月か、雨後の月風のお酒かみたいな感じ。
相原酒造って、新しいことを次から次へとやるんです。
早くから、大吟醸づくりにこだわったり、今でこそよく見かけるようになりましたが、低アルコール酒に、赤色酵母を使ったお酒、外の蔵との麹交換も、いち早く取り組んでいました。
そんなことも、真似をする人、後に続く人がいれば、何時しかスタンダードと呼ばれるようになるんだと思います。
でも、技術的には、同じ事が出来ているとしても、それを生み出す人たちと、そうじゃない人たちとの差や、真似できることと真似できないことは、どこかにあって、それが個性となって現れてるんだと思うのです。
だからと言って、そんな拘りや姿勢が、必ずしも通じるとは限らないし、必要ない人もいるんだろうと思います。
「広島に行ったら、何でもいいから、お好み焼きを食べればいい」
細かい事には拘らないという人もいるんだから。
それでも、同じではない…ってことなんじゃないかな?と思います。
一枚のお好み焼き、一本のお酒、造られる世界はそれぞれでしょうが、そこにちゃんと向き合った人、力を込めた人だけが見える世界があるんじゃないかなって、なんとなく思うのです。
そして、そんな人たちが、どんな荒れた世の中からも、新しい物を作っていく。私はそんな世界を、ちょっと見たい気もするのです。
そんなわけで、広島のお好み焼き。
美味しいのを食べたことがないという人は、一度お蕎麦にこだわって見られることをオススメします。
(2020年4月26日)
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