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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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月と陽のあいだに 138

月と陽のあいだに 138

青嵐の章ユイルハイ城下(1)

 ユイルハイの城門を抜けた白玲は、表通りの人混みの中にいた。夜も更けてきたというのに大通りはごった返し、店には煌々と明かりが灯っている。道端には食べ物や土産物を売る露店が並び、客を呼び込む売り子の声が響いている。
 白玲は人波に流されて、市場のある通りへ出た。通りから一つ角を曲がったところに、大きな料理屋を見つけた。祭りの祝いに会食をする人が多いのだろうか、店には絶

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月と陽のあいだに 104

月と陽のあいだに 104

浮雲の章ナーリハイ領(5)

 「白玲様、馬車へどうぞ」
武人の言葉に、白玲はその場に跪いた。
「馬車に乗る前に、ナダル様の傷の手当てをさせていただけないでしょうか。お願いいたします」
 そう言って、白玲は頭を下げた。どうぞお顔をお上げくださいと言われて、白玲はナダルの傍に膝をつき、合い着の袖を引きちぎって裂いた。傷はさほど深くはないようだったが、出血は止まっていない。手巾を当てた上に裂いた布をき

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