マガジンのカバー画像

月と陽のあいだに

238
「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
運営しているクリエイター

#黒幕

月と陽のあいだに 227

月と陽のあいだに 227

落葉の章ハクシン(8)

 叩きつけるような白玲の言葉に、ハクシンは初めて顔色を変えた。

「あなたに、私の何がわかるっていうの?」
 余裕のある笑みが、ハクシンの顔から滑り落ちた。
「私は自分の夢を叶えるために、自分の足で歩いていくことができなかった。そのもどかしさが、あなたにわかる? 友だちもなく、空想の中でしか自由に生きられない悲しさが、わかる?
 あなたを見ていると、本当にイライラする。あ

もっとみる
月と陽のあいだに 226

月と陽のあいだに 226

落葉の章ハクシン(7)

「……それなのにあなたったら、ろくな防備もしないのだもの。頭が悪いだけじゃなく、詰めも甘いのよ」

 蒼白になった皇太子が、ハクシンを黙らせようと手を伸ばした。
 ハクシンはその手を振り払った。

「私はずっとネイサン叔父様が好きだった。それは、叔父様だけが本当の私を見つけてくださったからよ。
 愚かな大人たちは、私の見かけに騙されて、なんでも言うことを聞いてくれた。でも

もっとみる
月と陽のあいだに 225

月と陽のあいだに 225

落葉の章ハクシン(6)

 ハクシンを抱きしめて、一番の被害者は自分の娘だと言い募る皇太子。
 それを見る皇帝の視線が、さらに冷ややかになったのは明らかだった。

「アンジュ、そなたは白玲皇女を嫌悪して排除するために、ハクシンを誘惑して金を引き出し、自分が疑われたのでハクシンに罪を着せようというであろう。守るべき主人に手を出して、己の意のままにしようなど、護衛にあるまじき行為ではないか」
 皇太子

もっとみる
月と陽のあいだに 224

月と陽のあいだに 224

落葉の章ハクシン(5)

 「違う」と叫び続けるアンジュを制して、皇帝はハクシンに目を移した。

「ハクシンよ。そなたが幼い頃からネイサンを慕っていたことは、余も知っていた。だがそれは、筝の師に対する、あるいは身近な年長者に対する淡い憧れであり、成長すれば己の立場を弁えるものと見守ってきたのだ」
 ハクシンは大きな目を見開いて、じっと皇帝を見つめている。
「そなたの容姿の美しさは、『月蛾の至宝』と

もっとみる
月と陽のあいだに 222

月と陽のあいだに 222

落葉の章ハクシン(3)

「近衛士官で『目と耳』でもあるアンジュを使ってオラフに情報を与え、そなたを害するように仕向けたのはハクシンだ。直接手を下さずとも、ネイサンと姫宮、それにトーランの命を奪ったことは看過できぬ。ハクシンには相応の罰を与える」
 皇帝の声に迷いはない。白玲は改めて姿勢を正し、皇帝に拝礼した。
「此度の夫の死については、私にも責任がございます。私一人でオラフの凶行を止められるとい

もっとみる
月と陽のあいだに 221

月と陽のあいだに 221

落葉の章ハクシン(2)

 医学院での襲撃事件の後、皇帝は『目と耳』を使って、逃げたオラフの仲間を追った。皇帝の『目と耳』は、それぞれ市中に子飼いの間者がいる。それぞれがどんな間者を使っているかは、必要以上には伝えない。
 それが、今回は勝手が違った。オラフの供述をもとに、『サージ』の人相風体や立ち回りそうな場所を皆に知らせ、サージの捕縛を急いだ。しかし、どこを探してもサージはいない。まるで『目と

もっとみる
月と陽のあいだに 220

月と陽のあいだに 220

落葉の章ハクシン(1)

 御霊祭りが終わる頃、ネイサンの墓所が整い、納骨の儀が行われた。
 白玲は、ニナとアルシーに付き添われて、墓所に夫と娘の遺骨を収めた。墓前に深く拝礼した後、白玲は「することがあるから」と、月蛾宮に向かった。

 白玲は、皇帝に拝謁を願った。
「久しぶりの外出で疲れたであろう。ネイサンも姫宮も、これでゆっくり安らぐことができる」
 皇帝は、ようやく前へ進み始めた白玲を労った

もっとみる