フォローしませんか?
シェア
田中あき子
2023年8月29日 23:20
落葉の章ハクシン(8) 叩きつけるような白玲の言葉に、ハクシンは初めて顔色を変えた。「あなたに、私の何がわかるっていうの?」 余裕のある笑みが、ハクシンの顔から滑り落ちた。「私は自分の夢を叶えるために、自分の足で歩いていくことができなかった。そのもどかしさが、あなたにわかる? 友だちもなく、空想の中でしか自由に生きられない悲しさが、わかる? あなたを見ていると、本当にイライラする。あ
2023年8月28日 23:56
落葉の章ハクシン(7)「……それなのにあなたったら、ろくな防備もしないのだもの。頭が悪いだけじゃなく、詰めも甘いのよ」 蒼白になった皇太子が、ハクシンを黙らせようと手を伸ばした。 ハクシンはその手を振り払った。「私はずっとネイサン叔父様が好きだった。それは、叔父様だけが本当の私を見つけてくださったからよ。 愚かな大人たちは、私の見かけに騙されて、なんでも言うことを聞いてくれた。でも
2023年8月27日 23:59
落葉の章ハクシン(6) ハクシンを抱きしめて、一番の被害者は自分の娘だと言い募る皇太子。 それを見る皇帝の視線が、さらに冷ややかになったのは明らかだった。「アンジュ、そなたは白玲皇女を嫌悪して排除するために、ハクシンを誘惑して金を引き出し、自分が疑われたのでハクシンに罪を着せようというであろう。守るべき主人に手を出して、己の意のままにしようなど、護衛にあるまじき行為ではないか」 皇太子
2023年8月26日 23:01
落葉の章ハクシン(5) 「違う」と叫び続けるアンジュを制して、皇帝はハクシンに目を移した。「ハクシンよ。そなたが幼い頃からネイサンを慕っていたことは、余も知っていた。だがそれは、筝の師に対する、あるいは身近な年長者に対する淡い憧れであり、成長すれば己の立場を弁えるものと見守ってきたのだ」 ハクシンは大きな目を見開いて、じっと皇帝を見つめている。「そなたの容姿の美しさは、『月蛾の至宝』と
2023年8月24日 23:08
落葉の章ハクシン(3)「近衛士官で『目と耳』でもあるアンジュを使ってオラフに情報を与え、そなたを害するように仕向けたのはハクシンだ。直接手を下さずとも、ネイサンと姫宮、それにトーランの命を奪ったことは看過できぬ。ハクシンには相応の罰を与える」 皇帝の声に迷いはない。白玲は改めて姿勢を正し、皇帝に拝礼した。「此度の夫の死については、私にも責任がございます。私一人でオラフの凶行を止められるとい
2023年8月23日 23:09
落葉の章ハクシン(2) 医学院での襲撃事件の後、皇帝は『目と耳』を使って、逃げたオラフの仲間を追った。皇帝の『目と耳』は、それぞれ市中に子飼いの間者がいる。それぞれがどんな間者を使っているかは、必要以上には伝えない。 それが、今回は勝手が違った。オラフの供述をもとに、『サージ』の人相風体や立ち回りそうな場所を皆に知らせ、サージの捕縛を急いだ。しかし、どこを探してもサージはいない。まるで『目と
2023年8月22日 23:41
落葉の章ハクシン(1) 御霊祭りが終わる頃、ネイサンの墓所が整い、納骨の儀が行われた。 白玲は、ニナとアルシーに付き添われて、墓所に夫と娘の遺骨を収めた。墓前に深く拝礼した後、白玲は「することがあるから」と、月蛾宮に向かった。 白玲は、皇帝に拝謁を願った。「久しぶりの外出で疲れたであろう。ネイサンも姫宮も、これでゆっくり安らぐことができる」 皇帝は、ようやく前へ進み始めた白玲を労った