本屋ダンジョンをやってみた(前編)

オモコロの「本屋ダンジョン・バトル」という記事が面白かったので、昨日、相互フォロワーたちと一緒に大型書店に行ってきた。

ちなみにリンクは第2回目のもの。
本屋ダンジョンのルールはシンプルで、「1. プレーヤー3人に4,000円渡し、全員が同時にスタート」「2. 店内を歩き回り、50分の制限時間で気に入った本を探す」「3. 最後に予算内で本を購入」というもの。上の記事には追加ルールとして「バトル」というシステムが導入されている(参加者同士がエンカウントした際、気になった本のプレゼンをして勝利することで、所持金がアップするというもの)。

「誰かと一緒に制限時間と予算を決めて本を買い、その後買った本について話し合う」……というのが、記事を読んだときに本当に楽しそうで羨ましく、ぜひやってみたいと思っていたので、今回実現してとても嬉しかった。本屋に行くことも好きだし、本屋をうろうろすることも好きだし、誰かと一緒に本の話をすることも好きだし、人がどんな本を買うのかも気になる。自分も本を買いたいし大型書店で面白い本にめぐり合いたい。本や読書にまつわるさまざまな欲求や願望が、今回の本屋ダンジョン企画のおかげで満たされた気がする。本当に面白かった。感想戦も含めて全部楽しかった。本屋を出て感想戦の地(甘味処)に向かいながら、「本屋ダンジョン、年に一回くらいやりたいですね」とこぼしたら、「わかる~」と言っていただけたのがとても嬉しかった。是非一年後にまたやりましょう。

以下、自分が本屋で購入した本や、出会った本の覚書である。感想戦の場でどうしてこの本を買ったのか、ということは簡単に参加者に話したが、自分用のメモとして、もう少しだけ詳細に記録しておこうと思う。
ここでは、自分が歩いた(出会った)順に、本のメモをしておく。
ちなみに今回のルールは上の記事を参考にしつつ、「制限時間は1時間」「予算は4,000円前後(自分の財布と相談)」「バトルはなし」とした。また、開始地点はダイスを使い決定した。私は「ビジネス・法律・経済」の階からのスタートだった。

▼ビジネス・法律・経済のフロア

正直あまり興味のないフロアだったが……せっかく縁があったので、一通りは見ていくことにした。経営、資格、ビジネスなどの実用書を買うつもりはなかったが、下の本は買うかどうかかなり迷った。

「建築、投資、宇宙、自然、地域、メディア、組織、教育、デザイン…。多様な領域で活躍する起業家、経営者、研究者たちの異なる視点と問いから未来を見出す一冊」。中には今の時代に生きる、さまざまな分野のプロフェッショナル(起業家、経営者、研究者)のインタビュー記事が載っている。

これは余談だが、個人的に、ビジネス関係の実用書は、もともと社会学・経済学・統計学……などの人文科学から発生しているわりには、「どれだけ現実世界において手っ取り早く効果が出るか」ということに重点を置かれている気がして、あまり好きになれない。特効薬の一つとして本を買う、というのは私は少し寂しい。実用書は、その効き目が出ても出なくても、一度読んだら「もうエッセンスは吸い切ったから、いらない」となってしまうのが寂しい……ということを感じてしまう。本の性質上、もう一度その本に戻る理由がなくなってしまう、ような気がする。

一見したところこの本は、専門化(「集中」)していった各分野が、その個別化・専門化した地点から問題点を洗い出すだけでなく、洗い出した問題点を持ち寄り、再分類をかけることによって、それらを「全体」に還元するという試み、そのものに見えた。
まさに「今」抱えている課題を単純に記録として残しておくだけでなく、分野を超えて再分類するというのはとても面白い。そもそも、多面的で複層的な現実世界や社会が抱える課題は、1つの視点からだけではすべてを捉えることができないし、1つの視点によってだけでは解決策を与えることができない、と思う。複雑な問題をありのままに捉えるためのアプローチとして、さまざまな「部分」が自分の立ち位置を表明し、部分同士連係すること、そしてネットワーク「全体」を形成することというのは、必要なことに思える。ただ、「分野を超える」というのはなかなか難しいことだと思う。ビジネスと研究の場とか。それを、この本は繋いでくれているのだろう、と思った。それが面白そうで、興味深くて、惹かれた。私も自分の興味のある分野と、自分にあまり縁がないと思っていた分野に繋がりを見出して、興味を持つきっかけになったり新たな視点を与えてもらいたいな、と思った。
面白そう、という期待値が高い本だったが、予算の都合でいったん諦めた。が、次に本屋で見つけたときは買ってもいいかもしれない。気になっている。

その他、このフロアでは因果関係、因果推論に関する本も見つかり、買おうかどうか悩んでやめた。因果関係といえばヒューム(好きな哲学者)、という刷り込みが強い。徹底的経験主義の哲学者であるヒュームが「ない」と述べた因果関係というものが、現代においてどのように捉えられているのか、どのように他の学問につながっているのか興味がある。が、正直なところ、まだヒュームの著作『人間本性論』を通しで読んだことがないため、せっかくならそちらを読んでからその派生研究、学問についての本を読んでみたいと思う。

ただ『人間本性論』は3巻とも買ってあるのに、1巻の途中までしか読めていない。重くて持ち運べない、というのを理由になかなか開けていないため、文庫版を買い直してもいいかもしれない。といっても、岩波文庫から出ているものは絶版になっているようだが……。

▼理工のフロア

今回、一番狙っていたフロアその1。生物学、自然科学の本を狙っていたのでここに一番来たかった。

早速見つけたのがこの本。

今回、「参加者は一冊ずつ人にプレゼントしたい本を買い、感想戦の場で交換する」という特殊ルールを設定していた。この本はつい先日、古本屋で見つけて読んでから強く感銘を受けた本だったので、交換用にと即買いした。

生物学者の福岡伸一先生が書いた本。最初はエッセイかと思った。トロッコに乗ると、筆者の視点で世界が流れていく。それはイタリアの街パドヴァで行われる研究会からスタートしたかと思うと、一気にミクロの世界に連れていかれる。ミクロの世界、細胞の研究は筆者の専門分野だ。しかしそのトロッコはミクロの世界に滞在し続けるのではなく、ふっと私たちの今生きる現実世界へと浮上して走り出す。
「視線とは何か」……ある絵画の謎……コンビニのサンドイッチは奥からとった方がいいのか……。分野を越え、縮尺を変えながら、ミクロからマクロまで鮮やかに世界を飛び越えていくのに、このトロッコは不思議なほど滑らかに進んでいく……理由は、この世界に「境界」がないからだろうか、と思わされる。
本の帯の裏側に書かれているのは「生命に『部分』はあるか?」という問いだ。この本を読んだあとに「ない」と答えるのは難しいだろう。個別的なものの集合体、断片の継ぎ接ぎだと思っていた生命を見る目が変わる。生命を、それを取り巻く環境や世界のことを、もっと面白く、興味深く見ることができる。

いろんな人に薦めたいと思っていた本だったので、今回見つけることができて良かった。ちなみに、『世界は分けてもわからない』でワクワクした人にはベイトソンの『精神と自然』も良かったので、読んでもらいたい。難しかったけど、面白い本だった。

上の2冊に関連づけて、今回購入したのが自然科学のコーナーに置いてあった、イリヤ・プリコジンとイザベル・スタンジェールの『混沌からの秩序』だ。

1冊で今回の予算をオーバーする本だ。でも予算関係なく、この本は買いたいと思った。アルビン・トフラーによる「まえがき」の一部を抜粋する。

現代の西欧文明において、最高度に磨き上げられた技術の一つは分割である。問題をできる限り小さな成分に分ける技術である。われわれは分割するのが得意だ。実に巧いので、各断片を集めてもとに戻すことを忘れてしまうことがよくある。
(中略)
イリヤ・プリコジンは非平衡系の熱力学に関する業績によって、一九七七年にノーベル[化学]賞を受賞した人であるが、物事を分解するだけでは満足できない人である。彼は生涯の大半を、「断片を集めてもとに戻して」みることに費やした。彼の場合、断片とは、生物学と物理学、偶然と必然、自然科学と人文科学である。

『混沌からの秩序』I.プリゴジン/I.スタンジェール著(伏見康治・伏見譲・松枝秀明訳)

もう面白そうだ。分解したものを、もとに戻す。バラバラにしたものを、「全体」に還元する。最近の自分が興味を持っていた営みそのものについて書いてありそうな本を、運良く見つけることができてしまったんじゃないだろうか。難しそうな本ではあるが、自分なりに読み進めていきたい。読み終わった後、もっと世界が面白く見えたらいいなと思う。

もともと1記事にすべてをまとめるつもりだったが、思いのほか記録に時間がかかってしまったので、これを前編とし、残りは後半に回すことにする。
後半は次に向かった「人文のフロア」と「文学のフロア」の話から、プレゼント交換でいただいた本の紹介と、全体的な感想を残しておきたい。


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