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映画『泥の子と狭い家の物語』公開日記 〜美術セット〜

映画『泥の子と狭い家の物語』別府ブルーバード劇場での上映が先週木曜日無事に終了しました。お越しいただいた皆さま、ありがとうございました。少し間が空きますが、次は愛知県の「刈谷日劇」と茨城県の「土浦セントラルシネマズ」で上映します。ご近所の皆さまどうかお楽しみに。

映画を見た方々に、部屋の中がとてもリアルで胸が締め付けられた、とか。家具を見て自分の子供時代を思い出し不思議な気持ちになった、とか。中にはなぜか気持ちが悪くなった。と言う方もいらっしゃいました(笑)

なぜリアルに出来たのか。優秀な美術スタッフが一生懸命作ってくれたのが一番の理由なんだけど、その他にもうひとつ理由があります。それは、あの狭い家の中にある家具、調度品の多くは、僕の実家で最近まで使っていたものだから。つまり本物だから。

【以下、一部ネタバレを含みます】

映画化が決まって脚本家とやりとりをする中で、ある時苦し紛れに家をぶっ壊して更地にしてしまうというシーンを書いてきた。アホか!と思ったが、気持ちは分かるし、脚本としては悪くない。予算規模から考えても実際に家を壊すことなんかできっこないが、なんとかそう見える方法はないかと考えた。美術セットを組むか、VFX技術に頼るか。しかし、いくら考えても予算が合わないのでリアルなものは望めない。さてどうしたものかと考えあぐねているちょうどその頃、僕の母の体調が理由で実家を処分するという話が持ち上がった。ひとりで暮らしていた母だが、これ以上ひとりでは無理なんで、家を処分して治療費なり新しい暮らしの費用なりに充てるためだ。

みなさんご存知だろうか。家は売れるが、家具や衣類、その他のものはゴミだ。CMなどで何でも買い取りますというのを聞くけれど、実際はほとんど売れない。売れないどころか処分に費用が掛かる。そこで思いついたのが、これを映画に使えないかということ。どうせ捨てるんだから、どう使おうと勝手だ。さすがに家はぶっ壊せないけど、家財道具を破壊することでなんとか代用できないだろうか。食器や電化製品もあるので、それなりに迫力ある画作りができるんではないか。いや、できるはず。いや、なんとしてもやるんだ!ということにした。

美術部さんも僕の意図と気持ちを十二分に理解し、快く引き受けてくれた。スタッフ総出でトラック2台分の荷物を母の家から運び出し、撮影用に借りた空き家に運び込む。さらに不足分を足し、とても生々しい生活臭のする素敵(?)な部屋に仕上げてくれた。だから当然リアルというか、本物なのだ。この空気というか匂いは当然スタッフやキャストにも伝わり、画作りや芝居に良い影響を与えたと信じたい。

長年慣れ親しんだ家具。見覚えのある落書き。母が使っていた食器類などに囲まれての撮影は、ちょっぴり感傷的で不思議な経験だった。

破壊されていく家具類を見て、勿体ないとか不憫に思った方もいたようだけど、僕は供養だと思っている。いずれにしても処分されて灰にになる運命だった家具たちが、映画になって半永久的に残る。考えようによっては幸せな奴らではないだろうか。完成を待たずに亡くなった母もきっと喜んでくれているはずだと思う。


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