4.2 アパートメントホテルの作り方

1. 「ファミリー層」というキーワード

コロナ禍で民泊やホテル施設が生き残るのに欠かせないキーワードがあります。それは、「ファミリー層」です。全体の9割近くが複数人で旅行しており、同伴人数が多い家族・親族が全体の4割を超えています

一般論として、レジャーの旅行は一人旅行より、友人や家族と楽しむ方が多く、大人数で滞在できる宿泊施設のニーズが高い。この「ファミリー層」需要を受け入れるには、ワンルームサイズの部屋では対応できず、少なくとも30平米以上のゆったりとした部屋が求められます。

2. 数値で見る、旅行の目的の変化

▼2030年に世界で旅行する人口は18臆人に

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■アメリカのマーケット規模は約4兆円(宿泊市場の17%)
(1位はフランス8,260万人、スペイン8,178万人、アメリカ7,590万人)
■日本は2018年、約1.9兆円(宿泊市場の8%以下)
・過去2年間に日本を旅行した74%がバケーションレンタル利用希望(※Home Away調査)
■元GSのデービッドアトキンソン氏によると、「インバウンド人口8,000万人レベルまで到達する可能性がある」
■観光産業は国際便の増発やビザ緩和、インフラ整備など日本政府が活性化に力を入れている国策事業
■1,500万人→3,000万人に増えると、経済効果7.7兆円

世界の旅行人口のトレンドとして、コロナが終息した後、2030年までに18億人に達すると言われています。世界でみると、アメリカの市場規模は4兆円=旅行者7590万人、日本は1.9兆円=2500万人です。このうち、74%がバケーションレンタルを希望しています。

元ゴールドマンサックスの経済アナリスト、デービットアトキンソン氏によると、政策やロビー活動次第で、日本へのインバウンド人口はフランスと同じレベルの8000万人まで可能性があると断言しています。もし、1500万人から3000万人まで増えれば、経済効果は7.7兆円に上ります。

そのインバウンド旅行のターゲットは東アジアが全体の約74%。1位は中国、2位は韓国です。中国のパスポート保有者は未だ全体の約6%しかおらず、10%に増えるだけで倍になり、1.4億人近くのポテンシャルがあるわけです。中国国内での渡航先ランキングで、日本は香港、タイに次ぐ3位という統計も出ていて、旅行人口は増えています。

なお、ボリュームが多い層は、世帯収入500万未満の中間所得層で、彼らの経済事情を考えれば、ファミリータイプのリーズナブルな宿泊施設が人気です。

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旅行の目的はここ10年で変化しました。

2012年は観光・レジャー目的が49.0%、業務目的が33.2%だったのに対して、それぞれ78.2%、13.8%となりました。観光客の割合が上昇する一方で、出張客が低下しています。自分ひとりや職場の同僚と来日する割合は低下しており、より大人数で泊まれる部屋を求める傾向が強まっています。

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ファミリーの場合、いざ、大部屋に泊まろうと思っても、都内にはほとんどなく、あるとしてもラグジュアリーホテルやフルサービスホテルです。約8割の世帯がリーズナブルな価格帯の部屋を求めていますが、供給が少なく、需要超過している状態です。

3. アパートメントホテルとは

こうした理由を背景に人気で出ているホテルが「アパートメントホテル(Apartment Hotel)」と呼ばれるものです。

アパートメントホテルとは、キッチン付、家電製品が設置されている宿泊施設(旅館業登録した小規模ホテル)で、数週間から数か月単位の滞在ができるタイプのホテルです。長期滞在するには割安で、バケーションやレジャーの他に、出張等の用途でも利用されています。滞在中はシーツやタオルの交換や清掃サービスは無い為、滞在者が自分で洗濯や掃除し、基本的にキッチンを利用して自炊することになりますが、利用者の満足度は高く、全く問題ありません。

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4. アパートメントホテルのメリットと、市場戦略

供給に関して言うと、単身向けワンルームサイズホテルはアパホテルなどのホテルチェーンや大手が大量供給しています。立地条件やサービス面で勝つのは難しく、後発組は、なかなかシェアを確保できません。

しかし、客室にキッチンやダイニングを備え、客室面積は4人用が約40平方メートル、約55平方メートルで6人が宿泊できるアパートメントホテルはブルーオーシャン市場(競争の無い、未開拓市場)です。

約20平方メートル前後が主流のビジネスホテルに比べて、1室1泊当たり約3万円なら、グループ旅行なら1人あたりの宿泊費を抑えられるメリットがあるからです。平常時は外国人が全体の約9割を占め、台湾や東南アジアの客が多かったのですが、コロナ禍でも、かつて海外旅行していたり、海外で滞在していた日本人ファミリー層が帰国し、長期滞在で利用しています。

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今後は誘客力の強いホテルをつくるためには、立地や客層に応じたマーケティング戦略がカギとなります。「アパートメントホテル」は単に大部屋というだけではなく「プレミア」感を出して差別化させることがリピーター獲得のポイントになるでしょう。

ホテル投資において、オーナー側の運営リスクについて説明します。ホテルの運営方式は大きく分けて2つ。一つはリース型と呼ばれる賃貸借方式、もう一つはMC契約と呼ばれる運営委託方式です。民泊は、一般的には、運営委託で運用しているケースが多く。ゲストからの宿泊料によって変動します。景気が良いときは利益が出て上振れが期待できますが、悪いときはコスト割れです。運営と保有を一緒にすると、有事の時にはリスクヘッジができません。

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実は運営リスクが露呈したのは過去にもありました。2018年にAirbnbが住宅宿泊法で新法施行した後、適用できない物件のリスティングが激減しました。この時、競合が減ったおかげで、宿泊施設の需給バランスが崩れ、ADR(average daily rate)が2から3割アップしました。

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そもそもホテルは、過去に火事や事故があったため、運営に利用できる施設には法規制が厳しく課せられています。そのため、民泊をやりたくても物件がなく、探している人は非常に多い(キャンセル待ち状態)。中古マンションを用途変更しようとしても、ほとんど適用できないため参入障壁が非常に高くい。

ちなみに、某不動産会社の管理物件(渋谷区)1,000件のうち、できるものは1件もなかったそうです。理由としては、保健所の許可、消防の許可が取れない、運営的にも、10分以内に人を派遣しなければいけない、既存物件で許認可取得し、運営するのはハードルが高い、リフォームにコストがかかるなどが主な理由だそうです。

物件を保有する投資家は、
① ホテルからマンションに変更。ホテル不景気の時はマンションに戻す 
②解約違約金条項をつけて、容易に解約できないようにする 
③代替オペレーターにバトンタッチできるようにバックアップを準備する
④ FFEは全てオペレーター負担にして、オーナー負担を軽減する

という方法を取れば、ほとんどリスクを軽減できます。

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