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貨幣の時間的価値

例えば中学生の子供Aが親Xから年間 24,000 円のおこづかいを贈与されるとする。そしてAにこのおこづかいを1年先か今現在かいつ欲しいか聞いてみたら何と回答するだろうか。禅僧の説教する「今を生きよ」ではないが今すぐ欲しいと答えるに違いない。機会費用 (Opportunity Cost) とか難しい事を考慮するまでもなく本能的に分かるものである。
 
そこでこう条件を変えてみよう。1年後には 24,000 円を贈与するが今すぐ欲しい場合は 22,000 円に減額すると。さてどう回答するだろうか。中学生と大人では目先のお金の価値に対する評価に違いがあるのが普通とは思うがその個人の状況次第では大きくも小さくもなることは想像に難しくない。特定個人の機会費用については画一的に語る事はできないのだ。ただし金融面に限れば損得勘定で機会費用を語る事は可能である。今日は上記の例に絡めてこれを考察する。
 
金融において、機会費用とはある金額をある期間国債で運用した場合いくらになり、運用しなかった場合との差額はどれだけのものになるかという事である。言い方を変えれば、未来のある金額を現在の価値にしたらいくらになるかという事である。これを数式に表すと以下になる。

$$
FV = PV (1 + i)^n                         (1)
$$

$$
PV = \cfrac {FV} {(1 + i)^n}                          (2)
$$

FV = 未来の価値
PV = 現在の価値
i = 利率
n = 周期数

(2) の分母の部分を割引係数 (Discount Factor) という。
 
ところで未来に*キャッシュフローがある場合、上記の例で仮に複数年に渡っておこづかいを得る場合、計算式は以下の通りになる。これを正味現在価値 (Net Present Value) という。

$$
PV =\displaystyle\sum_{\substack{t=1}}^n \cfrac {FV_t} {(1+i)^t}                      (3)
$$

t = キャッシュフローが発生する周期
n = 最後の周期数
 
上記の例で利率が 10%、5%、1% の場合を検証してみよう。(2) を用いて計算した結果は以下の通りとなる。

$$
PV_{(i=10\%)} = 21,818 \newline 
PV_{(i=5\%)} = 22,857 \newline 
PV_{(i=1\%)} = 23,762
$$

よって利率が 10% の場合、1 年後の 24,000 円の現在価値は 21,818 円となるので今現在 22,000 円を貰った方が得という事になる。
 
仮に利率5%で上記の例でのおこづかいを3年間貰い続けた場合の現在価値はいくらになるだろうか。この場合 (3) を用いて計算し、PV = 65,358 となる。ここで気づいてもらいたいのは未来のキャッシュフローが遠くなればなるほど現在価値にしたら低くなるという事である。n = ∞ の場合はどうなるのだろうか。そう、0 になるのだ。つまり仮に償還期日のない国債が発行されたとして、遠い未来に支払われる利息を現在価値になおした場合限りなくゼロに近くなるということなのだ。
 
最後にもう一つの例を考えてみたい。もし年利率が6%で1年に2回(半年に1回)利息が支払われるとしたらPVはどう求めればよいのだろうか。それは以下の通りになる。

$$
PV = \cfrac {FV} {(1+ \frac {i} {n})^{nt}}                    (4)
$$

この場合、FV = 24,000, i = 6%, n = 2, t = 1 であるから PV = 22,622 となる。
 
以上の事を「貨幣の時間的価値」、Time Value of Money という。上記の例では利率(または金利)をプラスで考察したが実際はマイナスになる可能性もあり、その場合でも方程式に変化はない。欧州(ドイツ)でマイナス金利が実行されたのは記憶に新しい。マイナス金利の場合必ず PV > FV となり、お金を貰って借金をしお金を支払って貸与するという事になる。この意味するところは深いものがあるので割愛するが、少なくとも貨幣創造や金利が純粋に市場原理によって定まるのであれば本来発生しえないものである。銀行に預金をするとき(銀行にお金を貸すとき)、銀行に対して金利を支払うことを喜ばしく思う人はまずいないだろうと思う。
 
* キャッシュフローとはある一定の周期における現金の出納である。
 
引用索引
[1] Fernando, J., Kindness, D., Munichiello, K. (2022): Time Value of Money Explained with Formula and Examples. https://www.investopedia.com/terms/t/timevalueofmoney.asp

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