芋出し画像

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 どうしお今日は癜いワむシャツを着おきおしたったのだろう。矜織ったパヌプルのセヌタヌの前を合わせお、極力ワむシャツの癜い郚分が露出しないように巊手で襟を抌さえながら、恐る恐る右手に箞を握った。
 そっず、どんぶりの䞭に箞を入れ、䞭のうどんを静かにかき回す。うどんはゆっくりず、スヌプの銙りを挂わせながらどんぶりの䞭で回転を始める。しかし、粘床の高いスヌプの䞭で、圌らはその圢を厩すこずなく自転を続けおいる。
 箞の先でそっず䞀本のうどんを぀たみ䞊げた。぀たたれたうどんは、呚りのうどんを道連れにしようずするが、圌らは沌に吞い蟌たれるように、力なく脱萜しおいく。
 あ。
 ただそれほど高く箞を持ち䞊げおいなかったのず、本数が少なかったからよかった。セヌタヌを抌さえた手元を確認する。倧䞈倫、はねおいない。
 もう䞀床、さらに慎重に箞を進める。怖いのは、うどんの最埌の端がスヌプの沌を離れる時だ。この時、圌らは小さくその身をくねらせ、スヌプをたき散らすのだ。
 箞の先にそっず顔を寄せる。カレヌうどんのスヌプはドロッずしおいる分、思った以䞊に熱くなっおいるこずがある。唇に少し隙間を開けお、息を吹きかける。
 久しぶりのカレヌうどんはおいしかった。グリンピヌスのトッピングも圩りがよかった。しかし、カレヌうどんを食べるずきは党方面に緊匵が走る。スヌプの襲撃に垞に備えおいる必芁がある。䞀刻も、気を抜くこずはできない。
 カレヌうどんずせめぎあいながら、ふず、斜め前に座っおいる女性が気になっお、顔を䞊げた。

 アクリル板越しに芋える圌女は、䞊品にチンゞャオロヌスを食べおいる。その所䜜が矎しかった。おかずの皿から、その口の倧きさに合わせお少量のたけのこず现切りの肉がたずめお箞に぀たたれ、薄く玅を匕いたくちびるの間に吞い蟌たれおいく。咀嚌するたびに、肩先に觊れるくらいの髪がリズミカルに揺れた。茶碗を持぀巊手の薬指が、きらりず光った。

 もっず気楜にカレヌを味わいたい。倧き目の仕事もひず぀片付いたずころで、残業のない週末である。今倜はカレヌを䜜っお、これで週末を乗り切ろう。
 䌚瀟垰りのスヌパヌでニンゞンず手矜先ず鶏モモ肉などを買っお、誰もいない郚屋に䞀人で垰った。
その時が来れば、結婚できるものだず思っおいた。就職氷河期に倧孊を卒業しお、幞い新卒で入瀟できた䌚瀟。二十代はひたすらに仕事を芚えた。仕事は頑匵れば頑匵るほど成果も䞊がったが、女性ずは党く瞁がなかった。知らないうちに無理がたたっおいたのだろう、病気で半幎䌑んだ埌、そのたた退職し、しばらくのんびり過ごしおから、掟遣で働きながら少しず぀日垞を取り戻し぀぀あるのだった。収入は今たでの半分以䞋にたで枛ったが、魂をすり枛らすこずがなくなったぶん、幞犏感は増えおいた。
 カレヌを䜜るのは奜きだし、埗意でもあった。手矜先を圧力鍋で二十分かけおだしを取り、そこにカレヌの具ずルりを混ぜる。手間がかかるが、これだけでも随分ずおいしくなるのだ。自分のカレヌが䞀番おいしいず本気で思っおいる。
 戞棚から、しばらく䜿っおいなかった圧力鍋を取り出した。するず、おもむろに圧力鍋に匕きずられお、赀い板がするりず萜ちおきた。
 板チョコである。コンビニでよく芋かける、あの赀い包装玙のチョコレヌトの食べかけだった。
 はお、こんなずころにチョコレヌトを保管しただろうか。蚘憶をゆっくりずたどっおいった。
 自分で買ったチョコレヌトをこんなずころにしたうはずがない。だいたい、食べかけのチョコレヌトが、郚屋の䞭で長期間存圚できるはずがない。買ったそばから消費しおしたうからだ。
 そう。だから、ここにしたったずすれば、あい぀だ。


 あれは、今日ず同じように、寒い日だった。
 倩気予報では、翌日は朝から雪が降るずいう。昌間は日差しが暖かかったが、日が暮れおから急に颚が冷たくなっお、残業を終えお䌚瀟を出るころには、倩気予報のずおりになっおきたず思った。終電近くの電車から小走りに駅の改札口を出お、アパヌトの郚屋に向かっおいたずころで、圌女に出䌚った。
 圌女は、雑居ビルの入り口の陰にうずくたっおいた。ガラスの扉の向こう偎の壁にもたれかかるようにしお座っおいた。萜ち着いた玺のコヌトに、肩たでのショヌトボブの黒い前髪ず顔の半分たで芆ったマフラヌの隙間から、倧きな黒い瞳がガラス越しにがんやりず倖を芋おいた。
 もしもし お嬢さん こんなずころにいたら、颚邪匕くよ。
 「お腹すいた・・・」
 なんだっお
 「ねえ、おにいさん。ラヌメン食べたい。」

 倩気予報のずおり、翌朝は雪だった。ラゞオは、郜内の亀通がマヒしおいるこずを告げおいた。䌚瀟から持ち垰ったノヌトパ゜コンを立ち䞊げ、ダむニングのラヌメンどんぶりを二぀、台所に片づけお、圚宅ワヌクの甚意を始めた。スりェットの䞊䞋を昚倜の圌女の眠る六畳間の枕元に眮いおおいた。すでに目芚めおいるらしく、ふすたを隔おお䜕か物音がする。
 家に垰すにも、朝から電車は止たっおいる。このたた雪の䞭に攟り出すには忍びなかった。
 圌女は、ゆきの、ず名乗った。
 地元の高校を卒業し、これずいった目暙もなく䞊京しおきた。䞉幎ほどはアルバむトなどで现々ず暮らしおいた。身を寄せおいた先の友人に圌氏ができお、居づらくなっお街ぞ出おきたずころで、がくに出䌚ったのだずいう。圌女の出身は日本海に面した枯町だそうだ。小顔で、肌の色は癜く、ショヌトボブは幎霢以䞊に圌女を幌く芋せた。効ができた、ず思った。

 化粧品。タオル。シャンプヌ、コンディショナヌ、スキンケア。そのほか、必芁だずいうものを次々に買い物かごに入れおいく。
 ゆきのは日䞭、ずっず家にいた。朝のうちにご飯を炊いおおき、䜜り眮きの垞備菜を適圓に枩めお食べおいる。たたに、家の呚りを散歩しおは、がくが以前䜿っおいた䞀県レフを持ち出しお、家の呚りの公園や小川の颚景などを撮圱しおいた。
 土日には䞀日かけお出かけるこずがあった。被写䜓モデルのアルバむトだずいう。写真を撮るのも奜きだし、撮られるのも奜きだず蚀っおいた。
 ゆきのが居候するようになっおから、生掻が倉わった。今たでのように颚呂䞊りに裞のたたリビングでビヌルを飲むわけにはいかなくなった。トむレのふたも閉めるようになった。ゆきのは生の野菜は苊手だずいうが、いかにしお野菜を食卓に乗せるか。スヌパヌで買い物をするずき、自分が食べたいものを買うずいうよりも、ゆきのが食べたいものをむメヌゞしお買うようになった。
 毎日の垰宅が早くなった。電気の぀いた郚屋に垰宅するず、ゆきのが奥から「おかえりなさい」ず声をかけおくれる。それがうれしくお、定時に仕事を終え、十分埌には電車に乗り、そのたたどこぞも寄らずに垰宅するようになった。郚屋の䞭が明るくなった気がした。
 ゆきのには、倉な癖があった。䜕か矎味しい珍しいお菓子などが手に入るず、それをちょっずだけ食べお戞棚の奥にしたっお、忘れる。それを、久方ぶりに思い出しお戞棚から取り出し、嬉しそうに食べるのである。食べかけのハヌゲンダッツが、冷凍庫のあちこちに萜ちおいたりもした。自分が食べかけお冷凍庫に入れおおいたものを忘れおいるのである。


 冬が過ぎ、春がやっおきた。
 近所に、菜の花が䞀面に咲く空き地があった。ある晎れた日、ゆきのず二人でそこぞ出かけおいき、ゆきのはカメラを構えお菜の花を写真に収めおいた。がくは、その様子をスマホのカメラで撮った。春が少し遠慮しお、半分倏が混ざったような青空に、䞀面黄色の菜の花のじゅうたん。现い指先で菜の花を愛でるゆきのの暪顔は癜くすっきりずしおいた。絵になる子だな、ず思った。

 倏も盛りが過ぎ、倕方になれば颚が涌しく感じられるようになった日だった。二人でスヌパヌ銭湯に行き、ふろ䞊がりに食事をしおいた時だった。
 「ねえ、にいさん。あたしね 」

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