エンディングがよければすべてよし!?

この記事について

 この記事は「マーダーミステリーアドベントカレンダー2020」(https://d-mystery.jp/mac2020/)の8日目の記事として製作されました。
「マーダーミステリー」というアナログゲームジャンルの「エンディング」の製作論になります。製作者向けに書かれたものですが、マーダーミステリーが好きな人なら楽しめるかもしれません。特定の作品のネタバレには触れないようにしていますので安心してお読みください。

 私、中村誠は、1990年くらいから活動しているゲームデザイナーです。約30年にわたって、家庭用ゲーム機、トレーディングカードゲーム、ボードゲームなど、様々な商業ゲームのゲームデザインをしています。現在発表しているマーダーミステリーには、「ゲームマーケット2020大阪殺人事件」「魔女の聖餐式」「最後の晩餐の殺人」の3作があります。

マルチエンディング

 私の作品に共通する特徴の1つは「マルチエンディング」です。エンディングはゲームブック形式で分岐し、様々なエンディングを用意しています。

ゲームマーケット2020大阪殺人事件 27パラグラフ
魔女の聖餐式 108パラグラフ
最後の晩餐の殺人 58パラグラフ

その組み合わせは、毎回数十種類になっていると思います。
 エンディング、つまり物語の結末をいくつも用意できるのは、ゲームというメディアの強みです。小説を書く場合、結末をどうするか、いろんな結末のうちどれにすればいいか悩む人も多いと思いますが、ゲームならその全部を結末にしてしまえばいいのです。私はゲームブックや、家庭用ゲーム機のアドベンチャーゲーム、RPG、恋愛シミュレーションなどを作ってきましたが、その多くをマルチエンディングにしています。マルチエンディングにすることで、プレイヤーは何度も繰り返して同じゲームを遊び、いろんな結末に出会うことができるのです。
 しかし、マーダーミステリーはどうでしょうか。ご存知のとおり、マーダーミステリーは一生に一度しか遊べないゲームです。何種類ものエンディングを作っても、体験できるのはそのうち1つだけです。他の人に「自分のエンディングはこうだった」と感想をいおうにも、ネタバレになるため伝えることもできません。そういう意味では、マーダーミステリーとマルチエンディングはとても相性が悪いように思えます。
 それでも私は、次に作るマーダーミステリーもマルチエンディングにするでしょう。なぜマルチエンディングにこだわるのか? それは、幻となった私のマーダーミステリー処女作に理由があります。

最初の失敗

 あれは忘れもしない2019年11月18日。私がはじめて作ったマーダーミステリー「殺人は最終回のあとで」のテストプレイ。最終回を描き終えたばかりの漫画家が殺されるというものでした。プレイヤーは、後にQueen's Waltzを立ち上げる江波翔太郎さん、「正義はまた甦る」の作者の前原白夜さん、世界的ゲームデザイナーのカナイセイジさん、ワンドローの木皿儀隼一さんという超豪華メンバー。
 白熱した議論の後、投票によって犯人が指名され、そして「では、みなさんのキャラクターシートの《秘密》を順番に読み上げてください」の指示で、1人1人の《秘密》が読み上げられ。事件の真相が明らかになります。
 これでゲーム終了、のつもりでいたのですが、プレイヤーたちの表情は「え? これでおわり?」という感じです。そして「あの、エンディングはないんですか?」との質問が……。
 そう、私の最初のマーダーミステリーにはエンディングがなかったのです。

 当時まだマーダーミステリーの経験がほとんどなかった私は、エンディングについて軽く考えていました。人狼ゲームでは、勝利した陣営を発表すればゲーム終了ですし、TRPGのシナリオではエンディングはユーザーが自由に結末を描くものだと思っていました(まぁ、この考え方もかなり古い考え方だとは思いますが)。マーダーミステリーでも、犯人がわかればそれでいいと思っていたのです。それではよくないことは、すぐにプレイヤーたちの表情でわかりました。
 最初の作品ということで、他にも足りていないところはいくつもあったのですが、「物語の結末を用意する」ことの大切さを、苦い思いとして脳裏に焼き付け、私のはじめてのマーダーミステリーはお蔵入りとなったのです。

おわりよければすべてよし?

 まあ、考えてみればそれは当然のことです。映画でも2時間近くすごくおもしろかったのに、最後の最後の結末で「こんなのクソ映画だ」となることはあります。長期連載の漫画でも、最後でちゃんときれいに終われるのかドキドキします。「おわりよければすべてよし」と言われますが、まったくそのとおりで、結末がよければなんとなく「よかったー」となるものです。逆にいえば、結末が悪ければそこまでがどんなによくても「途中まではよかったんだけどねー」となってしまいます。
 ということで、私はひとつめの作品とひきかえに、エンディングの大切さを知りました。もちろん、キャラクター設定や途中の議論も大事なのですが、エンディングの良し悪しはプレイヤーの満足度を大きく左右します。「エンディングがよければすべてよし」とまでは言いませんが、「エンディングが悪ければ途中までよくても台無し」となってしまうのが怖いところです。
 以降、エンディングをどう作るかが、私の中で大きなウェイトを占めるようになりました。

エンディングの種類

 マーダーミステリーで、より満足できるエンディングとは、と考えてプレイを続けるうちに、様々なエンディングの形式があることに気がつきます。

・解答型
・推理成功/失敗で分岐
・特別なエンディング
・キャラクターごとの後日談
・アクション

●解答型
 誰が犯人なのか解答が書かれますが、その後登場人物がどうなったかは描かれていません(ものによっては逮捕されたかどうかすらも)。「謎解き」という意味ではこれで完結しますが、物語全体や個々の登場人物については物足りなく感じます。
 私のひとつめのマーダーミステリー「殺人は最終回のあとで」もこの形式で、実はこのような形式も少なくないことがわかりました。

●推理成功/失敗で分岐
 マルチエンディング型の最も基本的なものです。投票の結果、犯人を当てられた場合と、犯人を当てられなかった場合のそれぞれで、エンディングの文章が用意されています。

●特別なエンディング
 マルチエンディング型の1つで、推理成功/失敗以外に、特殊な条件を満たした場合などに、特別なエンディングが用意されていることがあります。典型例として、「トゥルーエンディング」などと、通常の「成功」とは別のエンディングが用意されるものなどが挙げられます。

●キャラクターごとの後日談
 全体のエンディングとは別に、登場人物ごとに後日談が用意されていることがあります。特に、キャラクターごとにサブミッションが設定され、そのサブミッションの成否の別で後日談が2種類かそれ以上用意されていることが多いです。

●アクション
 投票後に犯人を拘束した後などに、プレイヤーが行動順に1人ずつ、なんらかのアクション(他のキャラクターに告白したり、逮捕したり、殺したり)をするアクションシステムを、エンディングの一部と考えることもできます。
「犯人が誰か当てる」とは別に能動的におこなえるアクションは、物語の結末を大きく変えることができます。アクションを行なうとさまざまなバリエーションのエンディングを作ることができます。

 エンディングには上記のような種類があり、またこれらを組み合わせたものもあります。念のためにいっておくと、この中のどれが優れていて、どれが劣っているというわけではありません。それぞれの作品のスタイルによって、向いているエンディングと向いていないエンディングがあります。また、マーダーミステリーのメインは、エンディングではなく調査や議論にあると思います。プレイ時間というリソースは限られていますので、エンディングにどのくらいの重きをおくかは、ゲームデザインの一部であると言えるでしょう。

よいエンディングとは

 エンディングは、プレイの満足度、ひいては作品の評価を左右します。あたりまえですが、まずは作品の本編自体(謎やストーリー構成など)がしっかりしていることが大前提です。エンディングがいくら感動的だとしても、本編がつまらなかったら、取って付けたようなちぐはぐしたものになるでしょう。
 その上で、筆者が心がけている「よい」エンディングは以下のようなものです。

●納得感がある
 納得感は重要です。最低限「このエンディングは納得できない」と思われないことは必要でしょう。これは普通に物語を作っていればまずまちがいないはずです。
 ただ、いくつかのケースでは「納得感が得られない」ことがあります。

●「謎」の納得感
 まず、推理ゲームとして、正解が聞いても納得できない、あるいはその正解にたどり着くのは不可能であると思われないようにする必要があります。これはもう、本編の謎(特にトリックなど)をしっかり作るしかありません。作者としてはしっかり作ったとしても、プレイヤーに解ける謎にしておかないと、納得感は低くなってしまうでしょう。

●登場人物の納得感
 極端な話、作者はエンディングで登場人物を自由に動かすことができます。誰かを殺したり、自殺したり、愛の告白をしたり。
 しかし、プレイヤーは登場人物と長いプレイ時間(多くは2時間以上でしょう)をともに過ごしています。よい作品であればあるほど、プレイヤーは登場人物に感情移入し、一体化しているはずです。もはや、登場人物は作者のものではなく、プレイヤーのものであると言っても過言ではありません。
 ですので、登場人物の描写をするときは慎重にするべきです。「いや、自分はそんなことしない」という行動をしたら、納得感は途端に消えてしまいます。登場人物の行動に「解釈違い」が起きないよう、キャラクターシートの行動指針や使命などで、しっかり記述するとよいでしょう。

●プレイ内容との整合性
 TRPGの場合、優れたGMはその日のプレイにあわせてエンディングを修正したり、場合によってはその場で即興でエンディングを作ります。しかし、マーダーミステリーの作者は、プレイを見ることなく、エンディングを用意しなければなりません。
 プレイの流れとエンディングに大きなズレがあると納得感を損ないます。たとえば、プレイ中に使命の達成をめぐって険悪になっていた登場人物同士が、エンディングで急に結婚したら納得できないかもしれません(もちろん、こういったちぐはぐな感じがおもしろさになることもあります)。
 作者としてできることは、様々な状況を想定してエンディングを用意することです。そのときにマルチエンディングにするのは有効な手法になるでしょう。

●エンディングの犯人
 エンディングで犯人をどう描くかは納得感を大きく左右します。犯人を当てた場合、犯人が逮捕されるというのが一番無難な展開です。しかし、犯人が逃亡したり、あるいは横溝正史作品のように犯人が自害してしまうなど、様々なバリエーションも考えられます。
 逮捕されるのはごく自然な流れであり、問題ありません。しかし、必ず逃亡したり、必ず自害してしまうのは、納得感を下げてしまいます。ここで便利なのは「アクションシステム」です。「犯人の逃亡を助ける」や逆に「犯人の逃亡を阻止する」、「自害を止める」などのアクションを、他の登場人物が選択できるようにしておけば、仮に逃亡したり自害したとしても納得感が出ます(そのアクションを行えば、別のエンディングにすることができるわけですから)。

●犯人当ての結果の反映
 エンディングは大切ですが、それまでの本編をないがしろにしては、納得感が薄れます。多くのマーダーミステリーでは「誰が犯人かを当てる」ことがゲームの最大ミッションです。エンディングで犯人についてはまったく触れなかったり、犯人を当てようと当たるまいと同じ展開になるようなら、「犯人当ては一体なんだったのだろう?」ということになってしまいます。
 犯人当てに頼らないエンディングのマーダーミステリーも可能性の1つとしてアリだとは思いますが(いわゆる「エモい」マーダーミステリーはそうなりがちです)、犯人当てだと思ってプレイしていたプレイヤーの納得感を損ねることは留意すべきでしょう。

●個人ミッションの反映
 多くのマーダーミステリーには「犯人を見つける」「犯人だとばれない」などのメインミッション(使命)以外に、個人個人に与えられたサブミッションがあります。
 通常はこれらのサブミッションが達成されたかどうかは得点計算に関係し、物語やエンディングには反映されないことが多いです(だからこその“サブ”ミッションなんだと思います)。
 しかし、サブミッション達成の成否でエンディングが変化するのなら、納得感は大きくなるでしょう。達成しているかどうかで分岐が発生するので、個人の後日談をマルチエンディングにするのがよいと思います。

●意外性
 犯人を当てたら事件が解決し犯人が捕まる、犯人を当てられなかったら迷宮入り、これが普通のエンディングだと思います。普通はよいことです。普通のエンディングを普通に用意することは、しっかりした満足感になります。
 しかし、エンディングは、プレイヤーをあっと驚かせる、最後の、そして最適なタイミングでもあります。ただの殺人事件のはずだったのに、エンディングで東京が水没してしまったり、自分が実は死んでいたことに気がついたり、実はこの世界がVRゲームの中で敵の魔王はゲームデザイナーだったり、大どんでん返しを仕込むチャンスです。
 しかし、作者の独りよがりにならないように、気をつけてください。奇抜なアイデアは諸刃の剣です。最後の最後で作品の評価を下げてしまうこともあります。

●手紙
 エモい内容の手紙は、プレイヤーを感動させ、泣かせるための必須アイテムです。エモいシナリオにしたいのなら使っておくとよいんじゃないでしょうか。
 と、ちょっと投げやりになってしまいましたが、手紙がエモくなる理由は2つあります。
 1つは、手紙を書いた人の気持ちが100%入ることです。特に死んでしまった人間の気持ちを表現するのにこれほどエモい手法はありません。
 もう1つは、手紙は「特定の誰か」に宛てられたものだからです。他の誰かや、みんなに宛てられたものではなく、「自分1人」に向けられたメッセージは心を打つものになるでしょう。
 手紙を使わなくても、その手法を応用すると、エモいエンディングを作ることができるでしょう。

●あなただけのエンディング
 最後に、私が一番目指しているものを。それは、「このエンディングは自分たちの物語だ」と思わせるエンディングです。
 どんなエンディングになろうとも、自分たちのプレイの結果が反映されたものなら、納得感が出ます。他のプレイグループではたどりかないかもしれない、自分たちだけのかけがえのないエンディングを提供したいと思っています。
 実際のところ、用意できるエンディングの種類には限りがあります。GMがいれば、その場で完全オーダーメイドのエンディングを作れるかもしれませんが、作者としてできるのはセミオーダーのエンディングをいくつも用意することです。あなたにピッタリ合うエンディングが用意できたらいいですね。

エンディングのゲームデザイン

 では、私がおこなっているエンディングのゲームデザインを具体的に説明していきます。

●大まかなエンディングの構築
 エンディングをどのようなものにするかは、かなり初期に大まかに決めています。キャラクターの大まかな設定と同時くらいでしょうか。
 エンディングの大まかな構築のポイントは「何でエンディングを分岐させるか」です。通常のマーダーミステリーなら「犯人を当てた/当てられなかった」という軸だと思いますが、できればそれ以外の分岐となる軸を考えます。たとえば、「真・女神転生」なら、ロウか、カオスか、ニュートラルか、とかそんな感じです。
 分岐は基本的に2~3パターンで十分です。「犯人を当てた/当てられなかった」を組み合わせれば、パターンは2倍に増えますし、その後、各キャラクターの個別ミッションの達成によるエンディングも加わるのでどんどん増えていきます。最初の段階では、物語の方向性として2~3つのエンディングがあれば十分でしょう。

●エンディングと登場人物の紐付け
 エンディングの大まかな構築をキャラクター設定と同時にするのにはメリットがあります。それは、キャラクター各々をエンディングに紐付かせることで、すべてのキャラクターをエンディング、ひいてはストーリーに密接に関わらせることができるためです。
 用意したエンディングを軸に、キャラクターを紐付かせます。たとえば、エンディングが2つあれば、キャラクターごとにどのエンディングを基本的に目指すのかを考えながらキャラクター設定をします。基本的にはそれぞれの陣営に分かれるようにしますが、どちらの陣営になるか自由なキャラクターも設定します(このキャラクターがプレイでは、最終的にキャスティングボートを握るでしょう)。
 たとえばキャラクターが5人いる場合、以下のようなキャラ配置だとバランスがよいです。

 1.エンディングAを目指す人物
 2.エンディングBを目指す人物
 3.1の人物を妨害しようとする人物
 4.2の人物を妨害しようとする人物
 5.エンディングAかBかで迷う人物

 もちろん、このままだとバランスが取れすぎておもしろくないので、わざとバランスを崩したり、もっと複雑にしていきます。
 これらの基本的なエンディングとの紐付けが、キャラクターのメインミッションになっていきます。

●キャラクターのサブミッションの追加
 上記の基本的なエンディングに加え、キャラクターのサブミッションによるエンディングを加えていきます。このときに気をつけていることが3つあります。

 1つ目は、エンディングとして面白いもの。サブミッションを達成したか達成したかで、そのキャラクターの後日談が大きく変わるものが好ましいです。この作品で扱う事件が、そのキャラクターの人生の転機になるような、そんな内容が理想です。「サブミッションを達成しても達成しなくてもまあどっちでもいいよね」だと残念ですよね。

 2つ目は、選択をする際に葛藤が起きるもの。私の作品では、投票の前に「最後の選択」といって、いくつかの行動から1つを選ぶというシステムががあります(ミステリーパーティ・イン・ザ・ボックスシリーズの「アクションシステム」からヒントを得たものです)。その選択のときに、どちらを選ぶのかよいか葛藤が起きるものが理想です。「どっちが正解なのか」という葛藤でもいいですし、どちらを選んでもよいこととわるいことが起きるというジレンマもよいでしょう。目の前の女の子を助けるか、東京を水没させるかという、感情に訴えかける選択でもよいでしょう。せっかく「選択」させるのですから、悩ましいものがよいと思います。

 3つ目は、他のキャラクターとのインタラクション(相関関係)です。自分ひとりで完結しているミッションよりも、他のキャラクターのミッションと関わっている方が複雑でおもしろくなります。他のキャラクターのミッションと相反するものでもいいですし、協力するものでもいいでしょう(2人とも達成ではじめて達成になるとか)。マーダーミステリーは多人数ゲームですから、他の人と関わることがおもしろさになります。
 ただし、他のキャラクターとのインタラクションが複雑になるほど、エンディングのパターンは増えていきます。あまりに多くなると、管理しきれなくなりますのでご注意を(「魔女の聖餐式」は崩壊寸前でした)。

●分岐が起きやすい工夫
 マルチエンディングにするからには、マルチエンディングにする意味がなければなりません。つまり、エンディングAとBとCがあったら、そのどれも行き着く可能性を持たなければ意味がないのです(その割合は偏っていて全然構いません)。
 そのためには、分岐が起きる条件を、うまく設定する必要があります。状況で分岐が起きるのなら、どちらの状況も起きうるように物語や情報(カードなどを使うならカードの情報なども)でコントロールする必要があります。たとえば、「投票で全員が1表ずつになった場合」という分岐を作るなら、それを示唆する情報は入れておくべきです。
 プレイヤーの選択によって分岐が生じるのなら、その選択がどちらも選ぶ可能性のある悩ましいものにするべきです。10人いて10人が片方しか選ばないような選択なら、分岐条件としては適切ではありません。

●テストプレイは大事
 私の場合、初期のテストプレイではエンディングは作り込んでいません。決まっているのは大まかなコンセプトだけだったりします。それは、プレイヤーがどんなことを思い、どんな選択をするのかを汲み上げるためです。
 プレイヤーがエンディングに関わる選択をした場合は、どんな意図を持ってその選択をしたのかをヒアリングするとよいです。その気持ちに対し、しっかり答えを出すのがエンディングです。場合によっては「こんな結末だとよかった」「こんな結末になると思っていた」という意見を採用するのもよいでしょう。
 また、テストプレイでは思わぬ組み合わせで用意してなかったエンディングが必要だと発覚することがあります。そういったレアケースにも細かく対応していきたいです。

●ゲームブック形式
 私はゲームブックが好きで、またゲームブックも作っているので(私がゲーム業界に入ったのもゲームブックがきっかけでした)、マルチエンディングをゲームブック形式にしています。
 ゲームブック形式は次がどうなるかわからずハラハラしたり、細かく条件を設定して分岐させることができるというメリットがありますが、なれていないプレイヤーやGMにとっては、負荷がかかってしまいます。また、製作上のデバッグ作業などがたいへんです。「魔女の聖餐式」ではかなり複雑なパラグラフになり、デベロップ担当の木皿儀隼一さんのチェックはそれはもう地獄だったと聞いています。
 その次の「最後の晩餐の殺人」では、その反省で、エンディングの前半部分だけゲームブック形式にして、後半のキャラクターの個別エンディングは個々の最初のパラグラフから一括分岐するように省略化しています。
 このように、ゲームブック形式はこれからもブラッシュアップが必要ですね。

●すべてのエンディングに愛をこめて花束を
 実際にエンディングの文章を書く上では、どのエンディングも愛情を持って書くようにしています(紙幅の問題もあって、そのあと泣く泣く削ることもあるのですが)。
 ミッションに失敗した場合のエンディングも用意しないといけないのですが、だからといって(できるだけ)手を抜かないようにしています。ミッション失敗だからこそ、絶望を味あわせたり、逆にその中に希望を見出したり、しっかりと描くことが満足感につながります。
 エンディングはいくつも書かないといけませんが、プレイヤーにとってはその中の1つだけが「自分の物語」になるのです。どのエンディングも大事に扱いたいところです。

解答ではなく、評価でもなく

 私が考えるエンディングは、謎の解答ではなく結末です。また、プレイの評価ではなく結末です。

 マーダーミステリーである以上、そこには謎があり、謎には解答が必要です。エンディングはその謎の「解答編」であると考える人もいるでしょう。その考えはまちがっておらず、解答編として納得できるものが必要というのも確かです。
 でも、私はただの解答編では物足りないと思っています。漫画「金田一少年の事件簿」では、犯人が判明してから1話か2話分は、犯人の悲しい過去だったり、犯人を含めての結末の物語が描かれます。単純な謎解きではなく、ストーリーゲームとして、「結末」を用意したいと思っています。

 また、マーダーミステリーがゲームである以上、プレイには成功と失敗があります。中には「大成功」もあるでしょう。
 エンディングを読み上げた後、「これはベストエンドですか?」と聞かれることがあります。しかし、私のマーダーミステリーの場合、「バッドエンド」も「ノーマルエンド」も「ベストエンド」も「トゥルーエンド」も設定していません。どのエンディングも等しく、「あなたの物語の結末」なのです。
 そこまでのプレイを「評価」するものではなく、そこまでのプレイの「結末」として、エンディングを用意したいです。

おわりに

 ここまで読んでいただければ、私がマルチエンディングにこだわる理由がわかったでしょうか? それは、あなたのプレイにピッタリな結末を提供するためです。真摯にプレイしていただいた皆さんに、真摯にそのお返しがしたい。皆さんが描いてきた物語に、可能な限りよりそった結末を用意するため、何パターンもの結末を用意し、そこからベストマッチなものを提供したいのです。
 あなたが選んだ物語が、あなたにとって一番の物語になることを祈っています。


 なお、私は「Board Game Design Advent Calendar 2020」(https://adventar.org/calendars/5432)の5日目の記事も担当しています。内容は「マーダーミステリー」おけるゲームデザインについてです。この記事よりももう少しだけマクロな視点で(といってもかなりニッチだとは思いますが)書いていますので、よろしければこちらもご覧ください。
 では、よいクリスマスを!

マーダーミステリーのゲームデザイン/ 中村誠https://note.com/macogame/n/n6f80c0de75cb


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