マーダーミステリーのキャラクターの作り方

この記事について

 この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2021」(https://adventar.org/calendars/6659)の6日目の記事として製作されました。

「マーダーミステリー」というアナログゲームジャンルにおける、キャラクター設定のゲームデザインについて、ゲームデザイナー向けに書かれたものです。特定の作品のネタバレには触れないようにしていますので安心してお読みください。

 昨年の「Board Game Design Advent Calendar 2021」では、「マーダーミステリーのゲームデザイン」(https://note.com/macogame/n/n6f80c0de75cb)と題し、マーダーミステリーにおけるゲームデザインを概括的に説明していますが、今回は「キャラクター設定」に絞り、より詳しく説明します。筆者、中村誠の自己紹介や「マーダーミステリーとは何か」「ゲームデザインとは何か」といった基礎的な内容はそちらに書かれていますので、まずは昨年の記事から読むことをおすすめします。

 今年の話になるのですが、ある小説家さんが作ったマーダーミステリーのキャラクター設定についてアドバイスを求められることがありました。その設定は小説の登場人物としてはとてもおもしろい設定だったのですが、マーダーミステリーでプレイヤーが担当するキャラクターとしては扱いにくい部分があったため、マーダーミステリーならではのキャラクター設定の注意点をまと
めてお送りしました。そのドキュメントに大幅に加筆したのが今回の記事となります。

マーダーミステリーのキャラクターとは

 この記事でのマーダーミステリーの「キャラクター」とは、プレイヤーが担当する登場人物を指します。キャラクターシート(ハンドアウト、設定書などとも)という形でプレイヤーで配られる登場人物たちです。事件の被害者や情報をくれる人々などの、いわゆるノンプレイヤーキャラクター(NPC)などは含みません。TRPG(テープルトークロールプレイングゲーム)などでは、「プレイヤーキャラクター(PC)」と呼ばれるとおり、「プレイヤーが担当する」ことが一番のポイントです。

 マーダーミステリーのキャラクターと、小説の登場人物との一番の違いは「プレイヤーが担当する」かどうかです。ゲームデザイナーがキャラクターを作った時点では、キャラクターはまだ動いていません。プレイヤーが担当し、その役割を演じることで、ようやくキャラクターは命を吹き込まれ、動き出します。キャラクターはプレイヤーによって人格をあたえられ、プレイヤーはキャラクターをアバター(分身)として物語世界に存在できるのです。キャラクターとは、プレイヤーとゲームを結びつける「インターフェイス」であるといえます。

プレイヤーの満足度

 マーダーミステリーのキャラクターを作るときには、常にプレイヤーの存在を考え、プレイヤーにとって快適なインターフェイスである必要があります。筆者がキャラクターを作るときには、プレイヤーの満足度として次の3つを心がけています。

  • プレイ前に「このキャラクターで遊びたい」と思わせる

  • プレイ中はキャラクターに感情移入できるようにする

  • プレイ後に「このキャラクタを選んでよかった」と思わせる

 そして一番重要なのは、すべてのプレイヤーの満足度を担保することです。「すべてのキャラクターを等しく魅力的にする」ことはなかなか難しいのですが、少なくとも「このキャラクターはハズレだな」と思われないようにします。マーダーミステリーはその性質上、1人のプレイヤーがつまらない思いをすることで、他のプレイヤー全員の満足度を上げることはわりと簡単です。しかし、(特に前もってアナウンスしないかぎり)1人を犠牲にすることはあってはなりません(※1)。ゲームデザイナーは全員が満足できるようにゲームをデザインすべきだと思います。

※1
逆に、プレイ前に「このキャラクターは他のキャラクターとは楽しみ方が異なります」とアナウンスした上で、別の扱いをするのはアリだと思います。

 それでは、プレイヤーの満足度を上げるキャラクターを作るにはどうすればよいのか、説明していきましょう。

キャラクター設定法① キャラクターの構成

 筆者はマーダーミステリーを作るとき、最初にどんなキャラクターを登場させるかをリストアップします(多くのマーダーミステリー作家は同様だと思います)。たとえば、

  • シングルマザー(被害者)

  • 少女(被害者の娘)

  • 隣人

  • 新聞記者

  • サーカス団員

  • オランウータン

のような感じです。

 キャラクターの構成は、マーダーミステリーの最も基本となる設計図といえます。作家によっては、犯罪のトリックなどよりも先に、キャラクターの構成を作る人もいるでしょう(筆者はこのタイプです)。

 おそらく、作ろうとするマーダーミステリーのプレイ人数(※2)は決まっているでしょうから、その人数でもっとも魅力的なキャラクターの組み合わせを考えます。もし無駄に感じるキャラクターがいるなら、プレイ人数自体を減らすことも検討しましょう。プレイ人数よりも多くのキャラクターを思いついた場合は、プレイ人数を増やすよりも、キャラクターの要素を統合したほうが上手くいきます。

※2
キャラクターの人数(つまり、プレイヤーの人数)はマーダーミステリーをデザインする上で最も重要な要素ですが、ゲームデザイン的な問題というより、セールス的な問題であることが多いです。一昔前ですとマーダーミステリーで最適な人数は「7人」といわれていましたが、この人数は店舗での公演での人数で、身内で集まってプレイする場合や、オンラインでプレイする場合では、少ない人数のほうが都合がよく、最近では5人以下の少人数用の需要が高くなっているように思います。一方、2人用や3人用は犯人の投票などで特別な仕掛けを用意しないといけないのでちょっと特殊な作り方になります。特にこだわりがないなら、最初は4人用か5人用を作るのがおすすめです(「密談」をシステムに入れるなら、偶数の4人用のほうがよいでしょう)。

 また、キャラクターの構成リストは、プレイ前のプレイヤーに与えられる最初のキャラクター情報になります。あなたのマーダーミステリーがプレイヤーに興味を持ってもらえるかどうかは、キャラクター構成にかかっています、というのは過言かもしれませんが、おもしろいキャラクター構成はそれだけでウリになるでしょう。よいキャラクター構成のために、以下の工夫があるとよいでしょう。

●世界観がわかる
 キャラクター構成を見ただけで、そのゲームの世界観が把握できるとよいでしょう。そのためには、キャラクターの「肩書」が重要です。部活やクラブ活動の肩書が並んでいれば学園ものであるとわかりますし、戦士や魔法使いなどの肩書が並んでいればファンタジーものだとわかるでしょう。中に1人か2人くらい異質な肩書があるキャラクターがいるのもアリですが、そのためには他のキャラクターに統一感がないと「異質である」ということがわかりません。

●統一された関係性
 キャラクター構成でキャラクター同士の関係性を示せるなら示しておいたほうがよいでしょう。例えば「全員が同じアイドルのファン」とか「全員が遺産相続の権利を持つ」などです。
「一見関係性がない登場人物の中に隠された共通項がある」というミッシングリンクは、ミステリーの魅力的なギミックですが、関係性がまったくないとプレイの序盤がぎこちなくなります。表の関係性と裏のミッシングリンクの2本立てにするのがおすすめです。

●グループ分け
 キャラクターの人数が少ないときには全員を1つの関係性でまとめるのもよいですが、2つか3つのグループにするのもおすすめです。「アイドルのファンが3人と運営側の人間2人」とか「遺産相続の権利を持つ人間4人と弁護士と探偵」など複数のグループになるとよりゲームとして楽しめるものになるでしょう。

●個性
「全員が探偵」「6人全員が血のつながらない妹」などの統一されたキャラクター設定の場合、より個々の個性を出す必要があります。「安楽椅子探偵」「ハードボイルド探偵」「高校生探偵」「浮気調査専門探偵」「全裸探偵」など、そのキャラクターの個性がひと目でわかるような設定がほしいところです(それがステレオタイプでも全然構いません)。

●個々の関係性
 キャラクター構成の段階で、個々の関係性が示せるものは示しておきましょう。例えば、恋人関係や夫婦関係、主従関係などです。関係性を示しておくことで、キャラクターを選択するときの指針になります(あのプレイヤーとペアで行動したい、などの)。また、キャラクターの数が多い場合、ペアの関係性を複数作ることで全体を把握しやすくなります。
 もちろん、これらの関係がキャラクターの「秘密」になる場合は、隠しておくべきですし、匂わせくらいがちょうどいいパターンもあるでしょう。

●ツッコミどころ
 これは筆者がよく使う方法ですが、1人くらい「ツッコミどころ」となるキャラクターを入れます。「なんでこんなやつがいるの?」「絶対こいつが犯人だろ」「絶対こいつは犯人じゃないだろ」という感じの出オチ的キャラクターです。これはキャラクター選択時に盛り上がることはもちろん、プレイ中にはそのキャラクターを中心に話をすすめていくことができるので重宝します。

●全体を把握しやすい
 一番重要なことを最後に挙げます。それは、全体としてキャラクター構成を把握しやすいことです。キャラクター構成を見て、すぐに「なるほど、こんなキャラクターがいるんだ」とわかり、そしてプレイ開始時にはどんなキャラクターがいたか覚えられるのが理想です。キャラクター同士にある程度の関係性があり、それぞれの個性も覚えやすい、そんなキャラクター構成を目指しましょう。

キャラクター設定法② つかみは大事

 キャラクターシートの表紙には、そのキャラクターの名前や肩書、年齢、性別、プロフィールや自己紹介、そしてイラスト(※3)が載っています。これらはプレイ前、キャラクター選択時に公開されます。つまり、プレイヤーに対し「このキャラクターを選んでほしい」というプレゼン資料になります。ここで「このキャラクターをやりたい」と思えるようなキャラクター設定をすべきで、その設定を伝えなければなりません。「どのキャラクターもよくて選べない」ならよいのですが、「どのキャラクターでも別にいいや」ではつかみに失敗しているかもしれません。

※3
イラストが持つ情報量はあなどれません。1枚のイラストの情報量が1200文字のテキストよりもはるかに多いこともあります。マーダーミステリーのイラストは「イラストなし」「シルエット」「通常のイラスト」などがありますが、後者ほど情報量が多くなっていきます。プレイヤーがそのキャラクターを選ぶかどうかの基準はイラストによって左右されるかもしれません。ゲームデザイナーとしては、イラストレーターに適切な指示を出すことと、イラスト以外のテキストでがんばるしかありません。逆にイラストがあれば、外見的要素のテキストは省略してしまうのがよいでしょう(テキストは少ないほうがよいので)。

●短文で魅力を伝える
 キャラクターシートの表紙では、それぞれのキャラクターの隠された設定や秘密を書くことはできません。それでもゲームデザイナーはキャラクターの魅力を伝えなければなりません。キャラクターシートの表紙に書くプロフィールは、できればTwitterの1ツート分、140文字以下にすべてきです。その140文字でいかに魅力を伝えるかの勝負ですが、手っ取り早い方法があります。それは、「一言で伝わる」魅力的な特徴を設定することです。

●セリフを使う
 キャラクターシートの表紙では、「平文でプロフィールを載せる」という手法と、「セリフ形式で自己紹介を載せる」という手法がありますが、おすすめはセリフ方式です。セリフ方式は内容だけでなく、セリフの口調でキャラクターの性格を表現できますし、プレイヤーとしてもその文章を読み上げるだけでロールプレイができます。

●期待感をあおる
 魅力的な設定は、「どんなキャラクターなんだろう?」と期待感を高める設定です。表紙にその設定のさわりが書かれていますが、続きはキャラクターシートの中身に書かれています。そしてその中身を読むには、キャラクターを選択するしかないのです。「このキャラクターを選んだらこんな活躍ができるのかな?」とか「このキャラクターはどんな秘密を持っているんだろう?」となるような設定になるとよいでしょう。

●事件にかかわりのありそうな設定
 どんなに魅力的な設定でも、事件に関係しなければ、それは「チェーホフの銃」です。たとえば、「触る水をすべてメロンソーダにする」人はキャラクターとしてはおもしろいですが、事件にどうかかわってくるか想像がつきませんし、「科捜研研究員主任」というキャラクターでも本編中に科学捜査の出番がなければ意味がありません。キャラクターの設定がどう事件と関わっていくのか、期待できるもののほうがよいでしょう(期待をよい方向に裏切るのはアリです)。

●ツッコミどころ
 これは筆者がよく使う方法ですが、1人くらい「ツッコミどころ」のあるキャラクターを入れます。例えば「死んで幽霊になっている」「異世界から来ている」「オランウータン」のような感じです。これらはキャラクターの秘密として他のプレイヤーには非公開の情報にするのがセオリーですが、あえて最初から公開しておくのも手です。どうせプレイ中に公開されるものなら、最初から出してしまうのもアリですし、後出しされるよりも納得感があるという考え方もあります。飛び道具的ではありますが、キャラクターの魅力を出すには手っ取り早いでしょう。

●プレイヤー向きでない設定
 
これは後述しますが、小説などではおもしろい設定でも、プレイヤーが担当するには難しい設定があります。たとえば、「何を考えているかわからない」とか「無気力」とか「サイコパス」とかです。おおまかにいえば、ポジティブな人物に比べ、ネガティブなキャラクターはプレイへの参加のしやすさの面で難しいでしょう。

●演じるのはあくまでプレイヤー
 キャラクターが「IQ300の超天才」とか「どんな女でも口説くドンファン」というのは一見魅力的ですが、たいていのプレイヤーは凡人で、超天才の頭脳は持っていませんし、女性を口説けるような甘いセリフがスラスラでてくるわけではありません。キャラクター設定をするのは簡単ですが、プレイヤーがそれを再現するのは難しいのです。特殊効果などのシステムでサポートするのでなければ、プレイヤー頼りになる能力は再現が難しいことを覚えておきましょう。

キャラクター設定法③ 立ち位置と関係性

 キャラクターそれぞれの「立ち位置」と、キャラクター同士の「関係性」は、マーダーミステリーというゲームを成り立たせる「ゲーム性」であり、それを構成することこそが「ゲームデザイン」であるといえます。

 同じキャラクターが犯人で、トリックや各々のキャラクターの行動スケジュールが同じだとしても、犯人以外のキャラクターの立ち位置や関係性が異なれば、まったく違う展開になるでしょうし、おもしろさも左右されます。

 どんな立ち位置や関係性が正解なのか、そこに定石はありません(定石があると意外性を失ってしまいます)。立ち位置や関係性の設定には作家性があり、それがゲームデザイナーの色になるでしょう。

●TRPGでの立ち位置
 一部のTRPGのシナリオでは、ハンドアウト制というものがあり、特にF.E.A.R.社の影響を受けたシナリオではハンドアウトのPC番号で、キャラクターの立ち位置がイメージされています。特に明文化されているわけではなく、この枠におさまらないものも多いのですが、私のイメージではこんな感じです。

  • PC① 主人公

  • PC② PC①のバディやライバルや仲間

  • PC③ 敵組織の基礎知識を持っている専門家

  • PC④ イロモノ枠

  • PC⑤ プレイヤーの自由枠

 この立ち位置には明確なコンセプトがあり、それは「PC番号が小さいほど(事件への)当事者性が高い」ということです(ゆえにPC④とPC⑤は、いなくても回るバッファキャラクター的な設定になっています)。筆者は「すべてのキャラクターは主人公であるべき」という考えですので、PC番号的な立ち位置をそのまま使うのはあまりよいとは思いませんが、「事件に対する当事者性」については、参考にできる部分はあります。PC①~③にマーダーミステリーの殺人事件をあてはめると、

  • PC① 被害者が家族や恋人など関係性の強いキャラクター

  • PC② 主人公的キャラクターの関係者(捜査の補佐役)

  • PC③ 事件の調査や解決を公的な目的として持っている(警察や探偵など)

ということになります。同じ事件を目の当たりにしたキャラクターだとしても、そのかかわり合いには色々な形があります。様々なバリエーションを用意すると、メリハリがきいて面白いシナリオになることでしょう。

●人狼ゲームでの立ち位置
 参考としてオススメなのは人狼ゲームの役職です。「人狼=犯人」これは当然として、その他にも色んな効果を持つ役職があります。それぞれの役職は個別のゲーム的効果を持っており、その効果はマーダーミステリーにゲーム的構造を導入するのに参考になります。例えば、人狼の勝利を密かに補佐する「狂人」的立ち位置のキャラクターがいるマーダーミステリーは少なくありません。「占い師」のように誰が犯人かわかっているけど、何らかの理由でその情報を言い出せないキャラクターもいるでしょう。キャラクターの構成を考えるとき、例えば5人キャラクターなら、人狼の役職5つを選ぶような感覚で選ぶと、ゲーム的なギミックがしっかりしたものができるでしょう。

●犯人を軸とした立ち位置
 犯人がいるマーダーミステリーの場合、犯人を軸とした立ち位置をいくつか入れておくとよいでしょう。

  • 犯人。犯人がいないものも少なくない。

  • レッドヘリング。一番怪しいけど、実は犯人ではない人。

  • 被害者を刺したり殴ったりして自分は犯人だと思っているけど、実は犯人ではない人。

  • 目撃者。犯行現場などを見ているけど、ある理由でそのことを公表できない。

  • 犯人の協力者。犯人自身は協力者の存在に気づいていない場合も。

  • 狂人。何らかの理由で犯人の特定を阻止したい。誰が犯人かはわかっていない。

  • 犯人に復讐したいと思っている人。犯人を特定し、殺したいと思っている。

 犯人を軸にした立ち位置の利点は、プレイ中に何をすればいいのかが明確で、事件に対する当事者性が高くモチベーションを高く保てるところです。できれば、犯人を含め、キャラクターの2~3人を犯人を軸にした立ち位置にするとよいでしょう。多すぎる場合、ゲームのバランスを取るのがかなり難しくなります。

●事件を軸としない立ち位置
 キャラクターの中には、事件の解決とは別の軸の立ち位置の(つまり、事件にはあまり興味がない)キャラクターもいます。例えば、「恋愛の告白を成功させる」「金目のものを集める」のようなキャラクターです。筆者は、このようなキャラクターは推奨しません。「事件の解決」はたとえカタチだけだとしても、プレイヤー全員が目指すべきもので、「事件の解決」に絡めない立ち位置は、プレイ中の疎外感につながる危険性があります。例で挙げたような「事件を軸としない立ち位置」はサブの目的に留め、メインの目的は事件を軸にしたものにしたほうがよいでしょう。
 例外があるとしたら、それは「事件の解決よりも重大な目的」に関わる立ち位置です。たとえば、殺人事件はきっかけで、その裏により大きな陰謀が隠されている場合(例えば、1万人を標的にしたテロ計画や、最後の審判がはじまって世界が滅亡するなど)、その陰謀を遂行する/阻止するのが目的なら、最後まで楽しめるでしょう。

●関係性を持たせる
 誰とも関係性のないキャラクターは担当していて孤独なものです。「誰とも絡めなかった」という感想がでる場合、それはプレイヤーの問題ではなく、ゲームデザイナーの問題です。「兄妹である」「師弟関係がある」のような設定上の関係性だけでは十分ではなく、「秘密を共有している」「アリバイを証明できる」など、ゲーム上の(事件の関連した)関係性が必要です。どんなに少なくとも最低でも1人とは強い関係性を持つべきでしょう。
 関係性には、協力的な関係性と敵対的な関係性がありますが、協力的な関係性を必須とし、敵対的な関係性は必要最低限にするのがよいです。特に、犯人役はとても孤独です。カタチだけでもよいので、犯人には協力的な関係性のキャラクターを最低1人は用意するとよいと思います。

●関係性の可視化
 関係性を可視化するため、キャラクター同士の相関図を描きます。キャラクターを平面的に散らして配置し、人物を人物を線でつなぎ、その関係を線に沿って書いていきます。キャラクターから何本線が出ているかで、キャラクターの関係性の多さを可視化できます。線が少ないキャラクターは関係性を追加するとよいでしょう。
 相関図と併用したいのがマトリクス表です。表の縦軸に登場人物を並べ、同時に表の横軸にも登場人物を並べます。たとえば、表の縦軸が「Aさん」で横軸が「Bさん」なら、そこが交わるセルに「AさんがBさんをどう思っているか」「Aさんが知っているBさんについての情報」を書いていきます。上記の相関図に比べると視認性は悪くなりますが、より詳細な情報を整理することができます。

●いびつな相関図
 相関図を作ったとき、すべてのキャラクターがすべてのキャラクターに対して同様に関係性を持つと、正多角形にすべての対角線を入れたような相関図になります。筆者はこのような相関図はよくないと思っています。しっかりした関係構造だと、プレイ中に崩れにくく、また情報過多になりがちです。
 理想的なのは、強い関係性と弱い関係性、そして関係性がないキャラクターが混載のいびつな相関図です。各キャラクターで1人くらいは「そのキャラクターについてはよく知らない」というキャラクターがいるくらいがちょうどよいでしょう。
 いびつな相関図で作りたいのは「勢力」です。そもそもマーダーミステリーには「犯人」と「犯人以外」という「1vs多」の勢力がありますが、これをさらに発展させ「犯人側」と「解決側」の「多vs多」の2勢力になるようにしたほうが面白くなる場合があります。また、「犯人側」と「解決側」以外の、別の対立構造を用意するとより複雑になります。対立構造は設定で完全に2つの勢力にわけるよりは、どちらにつくかわからない流動的な勢力を入れておくとよいでしょう。こういった「勢力」の要素を入れることで、マーダーミステリーはわかりやすくゲームっぽくなります。

キャラクター設定法④ 秘密の設定

 それぞれのキャラクターが持つ「秘密」は、マーダーミステリーの華であり、③で挙げた「立ち位置と関係性」というゲームデザインを実装するためのツールでもあります。結論をいえば、犯人以外のキャラクター全員が何らかの「秘密」を持つべきですし、犯人も「犯人である」以外の秘密を持つのがよいでしょう。「誰も知らない」秘密を持つことは、それだけでワクワクドキドキするものです。とびっきりの秘密を用意しましょう。

●よい秘密、悪い秘密、ふつうの秘密
 一番よい秘密は、「え! なんだってー!」という、意外性があり、そのキャラクターのプレイヤー本人ですら驚くような秘密です。そして、その秘密は事件に関連がある必要があります。秘密があきらかになったとき、議論がひっくり返るようなものだと最高です。なんでもない、普通にスルーされていたことが秘密によって見方がかわるものを目指しましょう。一番わかりやすいのは、キャラクターの真の姿です。小学生だと思っていたキャラクターが、実は薬で体が小さくなった高校生探偵だったり、か弱い被害者女性が実は遺伝子操作を受けたオランウータンだったり、事件の根本を覆すようなものだとよいでしょう。
 普通の秘密は「まあ、そうだろうと思っていたよ」となる秘密です。意外性がなくても気にする必要はありません。秘密は不確定であるだけでも、謎解きの大きな脅威となります。「AかBかどっちかだと思うけど、どっちだ?」という程度でも十分な秘密になります。
 悪い秘密は「だからどうした?」となる秘密です。これは、本筋とはあまり関係のない秘密のときに起きます。どんなに意外性のある秘密でも、事件に関係なら「その秘密、関係ないよね?」となってしまいます。その秘密が非公開であるときと、公開されているときでは、議論や様々な選択が異なるような秘密にすべきです。

●どうせならでっかい秘密を
 創作では「どうせウソをつくならでっかいウソを」と言われますが、秘密も同様です。秘密が公開されたとき、インパクトがあるような秘密のほうがよいでしょう。ただし、現在の常識でははかれないような突拍子もない秘密の場合注意が必要です。突拍子もない秘密を持ち出すためには、前もって様々な伏線を張っておく必要があります。ちゃんと伏線を張っておけば、「なるほど、あれはそういうことだったのか!」と納得感のほうが先に出てきます。あからさますぎるくらいの伏線を出しておいたほうが、よいでしょう。

●秘密の関連性
 秘密を持たせるコツの1つは、そのキャラクター単体で持つ秘密ではなく、複数のキャラクターで秘密を共有することです。例えば、「実は火星人だった」という秘密を持つキャラクターがいる場合、そのままだと突拍子もないですが、別のキャラクターにも「実は木星人だった」という秘密があれば、なぜか突拍子さがやわらぎます。
 また、複数のキャラクターの持つ秘密をつきあわせて、新たな真実があきらかになるのは、マーダーミステリーでは定番のギミックです。キャラクターの秘密同士を関連させるのは、ゲームデザイナーの腕にかかっています。

●追加の秘密
 そのキャラクターのプレイヤーですら知らなかった秘密を新たに与えることはゲーム中のよい刺激になり、プレイをおもしろくします。最初のキャラクターシートだけでなく、ゲームの中盤や終盤に追加のキャラクターシートを渡すことで実現できます。
 おもしろい追加の秘密は、キャラクターの立ち位置を変えてしまうような秘密です。例えば、最初は自分が犯人だと思っていたのに、自分が犯人ではないとわかったら。プレイヤーは新たな立ち位置でゲームに挑まなければなりません。プレイヤーに適度なストレスの範囲で刺激をあたえることはプレイをあきさせない効果があります。

●秘密をバラす
 キャラクターの秘密は、キャラクターシートには「公開してはならない」と記述されているでしょう。しかし、すべてのキャラクターの秘密がバレない/公開されないマーダーミステリーは面白くありません。秘密はバレるからこそ面白いのです。
 しかし、多くの場合、プレイヤーは秘密をバラしていいのかどうか悩むでしょう(「公開してはならない」としているならルールは絶対です)。場合によっては、あるタイミングで「秘密を公開してもよい」とルール的に秘密の公開を許可することも必要です。ゲームデザイナーは秘密の公開をプレイヤー任せにするのではなく、ゲームデザインとしてしっかりコントロールするとよいでしょう。

キャラクター設定法⑤ 感情移入と行動原理

 はじめに書いたとおり、マーダーミステリーと小説の一番の違いは「プレイヤーがキャラクターを担当するかどうか」です。プレイヤーはそのキャラクターの立場になって考え、議論をしたり選択を行ないます。キャラクターになりきってセリフを言う必要はありませんが(なりきってもいいですが)、多かれ少なかれ、そのキャラクターと情報や感情を共有したほうが楽しめます。まったく感情移入できない、理解できないキャラクターを担当した場合、推理自体はできても十分にマーダーミステリーを楽しめるとは言えないでしょう。

●感情の共有
 キャラクターになりきって主観的にプレイする場合でも、キャラクターを操作する感覚で俯瞰的にプレイする場合でも、そのキャラクターを「理解」する必要があります。人の行動がただの行動履歴ではなく、感情に動かされて行われる以上、プレイヤーはキャラクターの感情を理解しなければなりません。ゲームデザイナーの視点でいえば、キャラクターシートには、キャラクターの行動だけでなく、そのときの思考や感情を記述しなければなりません。そういった説明が、キャラクターとプレイヤーをつなげる接着剤となり、プレイヤーは担当キャラクターとの一体感を得られるのです。

●行動原理
 キャラクターの感情や行動の大元になっているのが「行動原理」です。なぜそのような考え方をするのか、なぜそういった行動をしたのがという根本的な考え方です。この行動原理を理解できれば、キャラクターの理解は飛躍的に進みます。行動原理だけ個別に記述しても理解はしにくいので、キャラクターの行動や目標など、折に触れて「なぜそうしたのか」を記述していきます。「あなたは彼のことを愛しており、彼とは一時も離れたくないと思っている(ので、彼を逮捕されたくない)」とか、「あなたは暴力を振るう人を見ると恐怖から体が動かなくなる(だから物陰に隠れていた)」などと丁寧に書いていくことで、プレイヤーはキャラクターを理解できるようになります。

●理解されにくい行動原理
 現実の人間や、小説の登場人物の行動原理としてはよくあっても、マーダーミステリーではプレイヤーに理解されにくい行動原理があります。「無気力」「無感動」「無関心」などの行動原理は、ゲームへの積極的な参加を阻害するので非推奨ですし、サイコパスや「ただ殺してみたかった」のような行動原理は、多くのプレイヤーにとっては理解不能で、どう扱っていいかわからなくなります。なんとかキャラクターを動かせたとしても、そのキャラクターを好きになるのは難しいでしょう。
 どんなに俯瞰的にはおもしろいキャラクターでも、プレイヤーが動かせないなら意味がありません。プレイヤーが理解できるような行動原理にすることは重要です。

●犯人の感情や行動原理
 「殺人」とは忌むべき犯罪で、決して許されるものではありません。そこで、徹底的に犯人を極悪人にして、犯人以外のキャラクターが「正義感」をもって犯人確保するようにする手法もあります。勧善懲悪というやつですね。
 しかし、犯人もまたプレイヤーが担当するキャラクターです。プレイヤーの多くはゲーム中であれ「殺人」を行なうことに抵抗がある人も少なくなく、もしそれが残虐非道な犯罪なら自分の担当キャラクターを演じることは苦痛かもしれません。「ゲームと現実はわけて考えよう」というのは正論ですが、キャラクターに感情移入させてあそばせるマーダーミステリーの特性上、「犯人役だから不快な思いをするのはしょうがない」というわけにはいきません。「自分は残虐な殺人犯でもぜんぜん担当できるよ」という人に担当してもらえればいいのですが、なかなかそういうわけにもいきません。
 結果としてマーダーミステリーの犯人の行動原理は、わりと誰にでも理解できる、同情の余地があるものか、感情が高まって殺してしまったという突発的ものになりがちです。筆者としては「これではパターンが限られてしまうな」と思いつつも、仕方がない配慮だと思っています。
 同様に快楽殺人や性犯罪などは、普通の殺人とくらべて抵抗のあるプレイヤーが少なくありません。扱いを慎重にするか、あらかじめそのような犯罪を扱うことを示唆し、十分な注意喚起をすべきかと思います。

キャラクターシートに関するエトセトラ

 その他、マーダーミステリーのキャラクター設定やキャラクターシートに関するTIPSです。

●キャラクターの名前
 キャラクターの名前については、

  • 読みやすい

  • 覚えやすい

  • 区別しやすい

の3つに気をつけて命名するとよいでしょう。難読な苗字や名前にしたがる人もいますが、読みにくい名前はプレイに悪影響を及ぼします。「一堂 零(いちどう れい)」や「河川唯(かわ ゆい)」のような語呂合わせ的な名前は、覚えやすさという意味では有効です。

●キャラクターシートの分量
 結論を言えば、筆者はキャラクターシートの分量は少なければ少ないほどよいと思っています。分量が少ないほど設定を覚えやすく、プレイする上でまちがいが少なくなるというのはもちろんですが、長い文章を推敲で短くしていくと洗練され、よい文章になります。
 多くのマーダーミステリーでは文章を読む時間を10分としていますが、その2/3くらいで読み切れるのがよいでしょう。一般的な黙読の速度は1分間に500~600文字とされていますので、3000文字(400字詰め原稿用紙8枚分)くらいを上限に目安にするとよいでしょう。

●みやすいキャラクターシート
 マーダーミステリーのキャラクターシートは、率直にいって読みにくいものが多いです。しかし、ちょっとしたエディトリアルデザイン的なお約束を守るだけで、格段に読みやすくなります。

 まず、行間を十分に確保します。文字の読みやすさは文字サイズよりも行間で決まるといっても過言ではありません。1ページにたくさんの文章をおさめたいからといって行数を増やすと行間が狭くなってしまいます。文字の高さを1とすると、行間は最低でも0.5、できれば0.7は確保したいところです。

 また、1行の文字数を25~35文字におさえます。1行が長すぎると改行のときに目がすべりがちです。Wordなどのデフォルトの設定は40文字となっていることが多いですが、これは若干読みづらいです。1行がどうしても長くなる場合は、2段組にすることも検討するとよいでしょう。

 そして、紙面いっぱいに文字を入れるとどうしても読みにくくなります。ページの端からテキストボックスまで十分な空白(マージン)を確保したいところです。ページのサイズにもよりますが、B5サイズなら20mm、A5サイズなら15mmくらいは、天地左右にマージンをとるとよいでしょう。

 最後に、長い文章は避け、適切に内容を分割し、それぞれに見出しをつけます。たとえば、

  • 自己紹介

  • 秘密

  • 目的

  • 昨夜の行動

  • あなたが知っていること

のような感じです。見出しをつけることで、後から情報を見返すのも楽になります。

おわりに

 マーダーミステリーのキャラクターの作り方について偉そうに説明してきましたが、筆者自身まだ製作したマーダーミステリーは7作しかなく、よりよい作り方について模索しているところです。おそらく正解はなく、作者ごとの作風があったり、プレイヤーごとに好みがあるのでしょう。

 今回は私なりの方法論を書きましたが、これに萎縮することなく、自分が作りたい方法でキャラクターを作り、自身のセオリーを確立していくのがよいと思います。そしてその方法が正しいかどうかはテストプレイですぐにわかります。ちょっとした書き方の違いで、プレイヤーに与える印象は大きくかわります。逆に言えば、ちょっとした修正だけで、よりよいキャラクターになる可能性があるのです。テストプレイで、プレイヤーの意見をよく聞き、プレイヤーの様子をよく観察し、それをキャラクターに反映しましょう。あなたのゲームデザインしたキャラクターが多くのプレイヤーのお気に入りになることを願っています。


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