あの日から歩み続けている◆たびことば
たった一欠片の試食で、派手に喉鼓を鳴らした。
三年前に立ち寄ったパーキングエリアには、太陽みたいな桃がいっぱい並んでいた。
仕事の合間に巡った福島県は、風光明媚という言葉がぴたりと似合う場所だった。
その土地の穏やかな気候が育てた甘い果汁と瑞々しい香りが、実家に送るお土産を私に即決させた。
生産者である販売員さんは有難うねと何度も繰り返し、それは丁寧に桃の発送準備をしてくれた。
あの大災害からどれだけ時間が経っても、この街ではまだ苦しい歩みを続けているひとがいる。
タクシーの運転手さんは、たんたんとそう語ってくれた。
そこには、テレビの報道番組には映り切らない風景があった。
福島の産業を、農作物を、街の名を、大切に守り続けているひとたちの顔を見た。
「また、来ます。」
タクシーを降りる時、心の底からそう告げた。
少し悲しげだった運転手さんの顔に、太陽みたいな明るい笑みが灯った。
読んでくださり、本当に有難うございました。 あなたとの、この出会いを大切に思います。 これからも宜しくお願いします!