早花まこ

2020年3月、宝塚歌劇団を卒業しました。 読むこと、書くこと、面白いこと、まだ知らな…

早花まこ

2020年3月、宝塚歌劇団を卒業しました。 読むこと、書くこと、面白いこと、まだ知らないことが好きです。     「早花まこのハリネズミラジオ」 FMaiai 82.0MHz 毎週月曜日23:30〜0:00

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    94歳の祖母、ばあばのお話です。

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最近の記事

夜明けベーカリー

 私はパンを焼いたことがない。  いや、正確に言うと、一度だけある。  小学校の授業で保護者と一緒に、バターロールを作った。  力一杯こねた生地をくるりと巻いて、艶出しのために卵黄を塗って。  調理室のオーブンから出てきたパンは、お店に並ぶバターロールより少し小さくて固そうで、そしてとてつもなく美味しかった。      「自宅で手作りパンを焼く」という人に出会うと、私は漠然とした憧れを抱く。  パンを作って食べる作業と時間を楽しむ人は、なんだか「日々の暮らしを自らの手で構築し

    • ⁑お知らせ⁑「私、元タカラジェンヌです。」妃海風さんのお話が配信されました。

       新潮社のウェブマガジン「考える人」の記事、  「私、元タカラジェンヌです。」特別篇  妃海風さんにお話を伺いました!  星組公演を拝見するたび、彼女の姿に目を奪われました。  厳しい競争の世界にいるはずなのに、彼女はいつも偽りのない幸せそうな笑顔で舞台に立っていました。  「お話してみたい」と思って楽屋を覗いたものの、緊張して言葉をかけられず帰ったという、情けない思い出があります。  妃海さんが教えてくれたモットーは、「なりたい自分は、自分で作る」。  自らの欠点に向き

      • マゴムスメ・ライブラリー 16

         家の近くのケーキ屋さんが好き過ぎて、お店の前を通るたび、ショーウィンドウにはり付きたくなる。  チョコレートケーキやシュークリーム、ちょうど今の時季はお茶のゼリーも人気商品だ。  97歳になる私の祖母の若い頃は、お菓子といえば和菓子が主流だったのだろう。  「いえいえ! ケーキだって、あったわよ」  失礼なことを言ってしまった。  カステラ、クッキー、ショートケーキ。  祖母の子ども時代のお話には、私の想像よりたくさんの洋菓子が登場する。  両親に連れられて、人で溢れるデ

        • ⁑お知らせ⁑NHKラジオ深夜便 7月20日 23時台 出演いたします。

           7月20日(木)本日、23時台、  NHKラジオ深夜便 〈インタビュー〉   「すみれの花よ、いつまでも」早花まこ 後編  〈きき手〉迎康子さま  放送していただきます!  前編に続き、迎さまにインタビューしていただきました。  宝塚歌劇団で過ごした日々のこと、本を執筆したお話などなど、楽しくお話しさせていただきました。  迎さま、スタッフの皆さまに、深く感謝しております。  ぜひ、お聴きください!  どきどきしながらNHKさんのスタジオを訪れて、ふと思い出したことがあ

        夜明けベーカリー

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          ⁑お知らせ⁑NHKラジオ深夜便 7月13日 23時台、出演いたします。

           7月13日(木)本日、23時台、  NHKラジオ深夜便  〈インタビュー〉「すみれの花よ、いつまでも」早花まこ 前編  〈きき手)迎康子さま  放送していただきます!  拙著「すみれの花、また咲く頃」についてのお話、宝塚歌劇団に在団していた頃のお話などなど、語らせていただきました。  お優しく、ユーモア溢れる迎さまにインタビューしていただき、美しいお声に聞き惚れました。  迎さま、スタッフの皆さまに、心から感謝しております。  暑い1日のお疲れを癒す夜のひととき、ぜひラ

          ⁑お知らせ⁑NHKラジオ深夜便 7月13日 23時台、出演いたします。

          マゴムスメ・ライブラリー 15

           「あれはね、盛岡の南部鉄器よ」  祖母がそのお話をしてくれたのは、私が「最近、どこかの風鈴の音が聞こえるんだよね、夏になったねー」と他愛もなさすぎる世間話を始めたのがきっかけだった。  私が子供の頃によく遊びに行った祖父母の家には、南部鉄器の風鈴があったのだ、と。  そう聞いた瞬間、長い間……おそらく20年以上も忘れていた記憶が、まるで薫香が薫るように立ち上ってきた。  「そういえば昔、ばあばのおうちで見たことがあった。緑がかった、小さな風鈴」  でも、音色は全く思い出せな

          マゴムスメ・ライブラリー 15

          ⁑お知らせ⁑「すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア」が刊行されました。

          「すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア」  新潮社より、本日、刊行されました!  WEBマガジン「考える人」にて連載しました「私、元タカラジェンヌです。」の記事が本になりました。  9人の元宝塚の方々にインタビューさせていただき、宝塚での経験やセカンドキャリアの歩み方について取材させていただきました。  夢を追い続けた日々が終わり、手の中に残ったものはなんだったか。  数年から10年以上も厳しく自分自身を鍛え、辛いことも乗り越えられたのはなぜなのか。  

          ⁑お知らせ⁑「すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア」が刊行されました。

          はつとび!

           高校生の時に、茶色いうさぎさんを飼っていた。  名前は、きなこ。    ロップイヤーという種類で、垂れ下がった長い耳がチャームポイントの彼女は、ごはんが大好き。  体重は⒋㎏近かった。  だいぶ、ぽっちゃりさんだ。  飼育しやすい動物として知られるうさぎさんは、大人しいものと思われている。  でも、きなこは我が家で大きな存在感を示していた。  けっこう大きな声でぷうぷう鳴くし、体が重いものだから歩き回るとどたどたと騒々しい。  驚いたのは、怒った時だ。  いつもはたらんとし

          はつとび!

          RIDEAU 2022

           ひときわ強い風が吹き抜けた時、ちろん、ちろん、と音が鳴った。  なんの音か、すぐには分からず、私は階段の途中で足を止めた。    今年もあと2日となった真昼、地下鉄の駅は人もまばらだった。  改札口を通り抜けて地上へ向かう階段では、私以外の足音は聞こえない。  聴き慣れない音に気がついて立ち止まると、街なかの駅とは思えないほどの静寂があって、それは奇妙にも思える瞬間だった。  ちろん、とまた音が鳴り、私は通路の天井へ眼を向けた。  鈍く光る、小さな蛍光灯の端からぶら下がって

          RIDEAU 2022

          ⁑お知らせ⁑「すみれの花、また咲く頃−タカラジェンヌのセカンドキャリア−」2023年3月1日 発売が決定しました。

          新潮社のWEBマガジン「考える人」に連載していた「私、元タカラジェンヌです。」を、 本にしていただけることになりました。 「すみれの花、また咲く頃ータカラジェンヌのセカンドキャリアー」新潮社 2023年3月1日発売 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000819.000047877.html  宝塚を卒業してから、この人生をどう歩むべきか。  そんな私の迷いから生まれたインタビューでした。  尊敬する元タカラジェンヌの方々のお話を

          ⁑お知らせ⁑「すみれの花、また咲く頃−タカラジェンヌのセカンドキャリア−」2023年3月1日 発売が決定しました。

          マゴムスメ・ライブラリー 14

           加賀野のおじさんを訪ねて真冬の盛岡を訪れたのは、今から2年前のことだった。  列車から降り立つと、街はすっかり白雪に埋もれていた。  さくさくと歩く盛岡の人たちの中で、私だけが大苦戦していた。  雪でも歩けるブーツを履いていたのに、ちっとも前に進まない。    雪道で転んでしまうのは、雪のせいじゃなくて歩き方のせいよ、と祖母はよく言う。  「怖がってつま先から地面につけたり、かかとから踏み込むのもだめ。足の裏全体を、下に押す感じで歩くの」  そう言っていたことを思い出して、

          マゴムスメ・ライブラリー 14

          ⁑お知らせ⁑宝塚の本箱、「壬生義士伝」が配信されました。

           Book Bangの連載「宝塚の本箱」、  今回取り上げたのは「壬生義士伝」です!  浅田次郎さんが書いた長編時代小説で、これまで多くの人の心をつかんだ名作です。  2019年には、宝塚の雪組で上演されました。  妻子を養うため脱藩し新撰組に入った吉村貫一郎が、義のための戦に挑み、激動の時代をまっしぐらに突き進む物語です。  吉村さんは、盛岡出身の足軽でした。  私の祖母の故郷である盛岡は、子供の頃から親しんだ場所なので、ひそかに親近感を覚えました。  雪と寒さにじっと耐え

          ⁑お知らせ⁑宝塚の本箱、「壬生義士伝」が配信されました。

          喜びと悲しみと祝福を、私のクリスマスツリーへ

           銀杏がようやく色づく頃から、街は早くもクリスマスムードになる。  季節の先取りし過ぎには首を傾げてしまうが、それでもお店や通りが明るく彩られて楽しげな音楽が聞こえると、自然に心がうきうきしてくるのだ。  最近引っ越しをしたので、新しい家にはまだクリスマスツリーがなかった。  苦し紛れに、観葉植物のシェフレラにオーナメントをぶら下げてみた。  シェフレラの幹は右に左に大きく湾曲していて、いかにも南国の植物といった姿だ。  その枝に金色の飾りが揺れると、それはそれでお洒落なのだ

          喜びと悲しみと祝福を、私のクリスマスツリーへ

          ⁑お知らせ⁑「私、元タカラジェンヌです。」咲妃みゆさんのお話が配信されました。

          新潮社のウェブマガジン「考える人」の連載「私、元タカラジェンヌです。」、 お話を伺ったのは、咲妃みゆさんです!  咲妃みゆさん、愛称はゆうみさん。  下級生の頃から大抜擢をされてきた彼女は大きな期待に応え続け、求められる以上の演技で舞台を作り上げた方。  その半生は、とてもドラマティックです。  でも、今回、ゆうみさんが語ってくれたのは、その人生に起きた具体的な事柄や華やかな活躍の裏話だけではありませんでした。  ゆうみさんが話してくれたのは、彼女の心の内側で起きたこと。

          ⁑お知らせ⁑「私、元タカラジェンヌです。」咲妃みゆさんのお話が配信されました。

          セレナーデが聴こえるまえに

             乗り物酔いばかりしていたから、車にもバスにも乗りたくない。  そんな子供だった私に、両親がこう教えてくれた。  「乗り物に乗ったら、窓の外の景色を眺めると良いよ」  遠くを見れば目が回らないし、気が紛れるから、それは乗り物酔い防止の効果抜群の方法だった。  それからというもの、私はいつも乗り物に乗るなり窓にはりつくようになった。  遠足へ行くバスの車内でも、級友たちがお菓子を交換しあったり、ゲームをして歓声をあげる中で、私は彼らと反対方向へ顔を向けていた。  だって見た

          セレナーデが聴こえるまえに

          雑草姫

           蝉の声が響き渡る頃から、数日間にわたって続いた雨が上がると、庭はジャングルのように変貌していた。  濃厚な緑色はつやつやと輝き、勢いが衰える気配はない。  初夏からの油断と怠慢が、雑草の全盛期をもたらしてしまったのだ。  植物は好きだが、こんなにも傍若無人に暴れられると困り果てるしかない。  もうすぐ私の背丈に届きそうなほど、どでかくなっている草がある。  調べてみたら、ヨウシュヤマブドウという植物だった。  シェフレラが衰え、パキラの葉が焼けるほど強い日差しをも貪欲に浴び