雑草姫
蝉の声が響き渡る頃から、数日間にわたって続いた雨が上がると、庭はジャングルのように変貌していた。
濃厚な緑色はつやつやと輝き、勢いが衰える気配はない。
初夏からの油断と怠慢が、雑草の全盛期をもたらしてしまったのだ。
植物は好きだが、こんなにも傍若無人に暴れられると困り果てるしかない。
もうすぐ私の背丈に届きそうなほど、どでかくなっている草がある。
調べてみたら、ヨウシュヤマブドウという植物だった。
シェフレラが衰え、パキラの葉が焼けるほど強い日差しをも貪欲に浴びる。
そして彼らの根を煮てしまう雨水さえ、ぐびりと吸い上げて大きくなる。
生育のスピードが、怖い。
まあでも、ご縁があって我が庭へやって来た植物だ。
私は、どうにかして、このヨウシュヤマブドウを好きになろうとした。
まず目に入るのはピンク色の茎だ。
にょきにょきと四方に広がった様は、クロスジヒトリという蛾を連想させて、いけない。
よく見ると全く違うのだが、一度そう思ってしまうと空想が止まらないのだ。
そして、後に赤黒く色付くという実は、白くぷちぷち固まっている。
「うう……なんと愛らしく、生き生きとした姿じゃないか」と、何度も自らに言い聞かせた。
しかしどうしても、ヨウシュヤマブドウさんを愛おしむ心の広さを持つことはできなかった。
伸び放題の彼らを前に、絶望的な手遅れ感を感じつつも、私は庭の手入れをする決意を固めた。
限りなくポジティブな目で見ても、私は雑草に分類される少女だった。
ダマスクローズやカサブランカの如き友人たちを引き立て、外見も特技も、これといって目立つポイントを持っていなかった。
花壇に並ぶ花のような少女たちに羨望の眼差しを向け、少女漫画のヒロインに憧れたものだ。
宝塚歌劇団に入団してからも、そのライフスタイルは変わらず、だから私は雑草に親近感が湧いて仕方ない。
そんな親しみなど、雑草たちに失礼というものだろう。
彼らは私よりはるかに賢く、欲深く、誇り高く生きている。
それなのに「庭に植えたら素敵だね」と人間が思いついた、そんな樹木以外はまとめて雑草と呼ばれるようになった。(生物学的にはもっと色々な理由があるのだろうけど)
気が付いたら庭の邪魔者に認定されていたなんて、彼らにしてみたらこんな理不尽なことはない。
「雑草という植物はない、全ての草木に名前がある」という考えに、私も賛同する。
それでも庭木を守ろうとすれば駆除対象になってしまうのが雑草たちであるのは、なんとも切ないことだ。
残暑に襲われ灼熱の庭と化す前、朝のうちに、私は彼らとの闘いを始める。
軍手とゴミ袋、そして最強の武器である植木鋏。
これでは雑草に勝機はない。
太い血管のような茎をばさりと切り落とし、うじゃうじゃと生茂る葉をむしりながら、私は今まで演じた雑草のような女性たちを思い出す。
そして、矛盾の言葉を呟く。
頑張れ、雑草。
切られてもむしられても、諦めるな。
雑草の末裔である私に滅ぼされるなど、あなたたちの矜恃が赦さぬはずだ。
隣の花壇にひそやかに根を伸ばし、根こそぎ養分を吸い取ってやるが良い。
だって、あなたは雑草なのだから。
薔薇や木蓮がよそ見をしている間に、その土を奪い返すのだ。
そして、私と闘おうではないか。
さあ、かかって来いやー。