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和本の修理 〜手書き文字と虫食いの痕跡〜

『天童正覚和尚偈頌箴銘記聞解』上下巻|江戸時代後期

このnoteは、ただいま開催中のBook Lovers展(@MOTOYA Book Cafe Gallery・会期2021/3/3〜3/28)の展示作品「g project|19c」とリンクしています。

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江戸時代後期に出版されたという上下巻の和綴じ本。修理前の状態は、表紙も中身も虫食いによる損傷がひどく、開くこともままなりません。本の虫食い被害は、紙やでんぷん、カビを食べる小さな虫が原因で、暗く湿度の高い場所に本を保管する際は特に注意が必要です。

この本の持ち主も多くの本を書庫で大切に保管していましたが、気がつかないうちに虫食い被害にあってしまい、発見されたときには大部分は手遅れの状態になっていたそうです。持ち主はショックのあまり涙を流し、その際ほとんどの本を処分してしまいましたが、これは捨てずにとっておいたのだといいます。

薄い和紙のページを開くと、手書きの文字が一糸乱れず並んでいます。文字以外の絵や図は一切なく、どのページを開いても同じ余白、同じリズムで書かれており、文字数は1ページあたり約450文字程。上下巻あわせると13万文字にものぼる計算です。眺めているだけで心洗われるような清々しい文字で、今から少なくとも150年以上も前に一体どんな人がどれほどの時間をかけて書いたのか、想像もできません。


▽Before加工IMG_8068上

加工IMG_8037


▽Making加工天童ごみIMG_1908


まずは、切れた綴じ糸を取り除いてから、一枚一枚丁寧に本文の和紙をバラバラに解体します。一ページずつ汚れやほこりを取り除き、虫食いの多いページは極薄の和紙で裏打ちを施し、虫食いの少ないページはちぎった和紙で穴をひとつずつ繕い、新しい絹糸で綴じ直して本の修理は完了。今後の保護のため、新たに帙函(ちつばこ)も製作しました。


▽After加工IMG_2077

加工IMG_2096

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作業に取り掛かる前は気の遠くなるような傷み具合だと思ったものの、幸い虫食い以外の損傷はなく、穴さえ補修してしまえば今後も長く使える状態になりました。丈夫な和紙ならではです。ところどころ美しい文字が欠けてしまったのは残念ですが、書き手と虫食いの痕跡が重なり、いっそう味わい深い本になったように感じられます。




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