ゴミでも夢を抱きたい


 二日酔いの昼下がり。

 僕の住むマンションは、ごみ収集が他より遅い
 わざわざ目の前を通り過ぎて、他を終えて来る

 理由は知らない。

 だから、いつもカラスたちがワラワラと
集まっている。うちの前の道路はティッシュや
生ゴミ、請求ハガキだとかで少し彩られている。
綺麗ではない。
 意味は違えど、高杉晋作の気持ちがわかる
気がする。

 マンションの管理人だって馬鹿じゃない
錘をつけたネットでゴミステーションを覆っている

 けどダメなんだ。
 カラスより早起きする浮浪者がゴミを漁っちゃう
 漁って、ネットを元に戻さないで行ってしまう。
 1階のコインランドリーで寝泊まりをしていて
朝、ゴミを漁ってからどこか放浪しに行く。
 そんなルーティンを僕が知る限り10年くらい
している。だから今更注意しても聞いてくれるとも
思えない。

 先日一緒に飲んだ女の子と昼食を食べに行く
 いい休日になりそうだと思っていた。
 これじゃ幸先が悪い。
 今からとびっきり笑顔で女の子をおもてなし
しようというのに。いきなりしかめっ面だ。


 そして今朝。

 先週の教訓を生かし、別の子と昼食に。
 けど今日は2人きりじゃない。もう1人
同行者がいる。僕は車出しだ。

 どうせ暇な平日休み。
何もしないでいるよりも…行かない理由はない。
 少しでも楽しければ儲けだ。

 そんな心にも無いことをブツブツ言い
ながら家を出た。
 先週の収集から日が経っているし、何度か
収集もあっているはずなのだけど、まだ少し
道路が汚れている。

 それが、先週からのものなのか、新たに
上書きされたものなのか分からない。

 思えば最近仕事も忙しくて、家の前の
道路に目をやる余裕さえもなかった。
 そのくせ仕事終わりは、仕事しかしてない
今日が許せなくて飲みに出る。
 そんな悲しいことに気づく。

 またちょっと気持ちが折れそうになる。
 先週みたいに
「なんかマッコイが離婚するのわかるw」
だなんて急に言われたら。
「は。はぁ〜?いっ意味わかんねぇ。
そんなこと言うなら車から降ろすぞ〜」
だなんて取り繕わなきゃいけなくなる。

これ以上、休日を傷ついて終えたくないのだ!


 夕刻。
 僕はサザンの「栞のテーマ」をブツブツ
呟いていた。
 連れないそぶりのロングブラウンヘア
 ねぇどうしてなの 何故に泣けるの

 全体的に、まぁ悪いって程ではなかった。
 車内は、特別盛り上がったわけでもないけれど
まぁ、許容範囲なのではないでしょうか。
 会話も途切れることはあれど、続いていた。

 問題は、同行者が車を降りてからだ。


 女の子と2人きりの車内。ポツリと
「👩‍🎤 家帰るには少し早いなぁ〜」

くぅ〜〜〜〜〜っ!!


 これ。心の声ではありません。
 実際に、私、声に出してしまったのです。

「👩‍🎤 何それ」

「🤵‍♂️   何が?」

「👩‍🎤 いや。くぅ〜って」

「🤵‍♂️   いや、くぅ〜くらい言うやろ。はぁ?」


 少しの沈默。

 ヤバい。変な空気なった。
 どうにかしなきゃ。

「🤵‍♂️  けど、時間あるなら茶ぁでもしばき合う?」

「👩‍🎤 う〜ん、まぁいいよ」

 いいんだっ!?!?!

 これは言ってません。心の声。

 駐車場に車を停めて。

「🤵‍♂️  そこの喫茶店でもいい?」

「👩‍🎤 そこでもいいよ〜」

あ。今日、店休日になってる。

「🤵‍♂️  ごめん。休みみたい。」

「👩‍🎤 そうなんだ。とりあえずトイレ行きたい」

「🤵‍♂️  コンビニでも行きますか」

トボトボと、ローソンへ。

 トイレを終えた女の子は一言
「👩‍🎤 やっぱ帰ろうかな」


  バカぁ〜〜〜〜〜っ!


「🤵‍♂️  おけ。ならまたね。」

何が「おけ。」だバカめ!!
お前はそーゆーところだぞ!
なんで最後ちょっとカッコつけようとするんだ
素直に「え〜。帰るとか言うなよ〜」とか
「マジ?悲しいわ〜」とか言えないのか。

 言えなくてもいい。
 言えたとしても私が言うと、どの道キモい。
 キモキモな空気を作ってダサダサなエスコートで
何で最後だけ物分かりいいやつ風なんだよ。
けっ!本当に。マッコイのバカっ!バカちんっ!

 トボトボと歩いて家路に。

 連れないそぶりのロングブラウンヘア
 ねぇどうしてなの 何故に泣けるの

 ブツブツと口ずさんでいる。
 そんな僕へ駆け寄ってくる姿が。

 あ。いとこだ。
 日傘さして、マスク姿のいとこだ。
 僕のいとこは、いつも楽しそうだ。
 ずっとニヤニヤしている。

 案の定、今日もニヤニヤしながら駆け寄ってきた

 僕のマンションの向かいに住んでいる。
 こっちは1K。あっちは、新婚2LDK。
 こっちは6階。あっちは7階。
 こっちは専門卒。あっちは夫婦揃って大卒。
 ちょっと全部見下ろされている。
 全部、負けている。

 他愛もない話も頭に入ってこない。

 いとこは楽しそうに「またね〜」と言い
ながらマンションの玄関へ何故か駆け足で入ってった

 さっきまで、全然急いでいるそぶりなんか
なかったくせに、家に入るときだけ駆け足になる
いるよなぁ。一定数。いとこもその部類だ。

 だから。楽しいのかな?
 楽しいから駆け足なのか?

 家の前で、いとこと別れて
バックの中からオートロックの鍵を探す。

 ふと、足元に目をやる。

 相変わらず、少しだけ道路が汚い。

 けど、道路のはじ。排水溝との境目。


 豆苗が育っていた。


 おそらく誰かが可燃で捨てて
 カラスがついばんだのだろう。
でも、生きながらえて道路はじに逃げ込んだ豆

 夕日に照らされて、少し誇らしげに伸びていた。


 ど根性大根とかあったけど、僕はこっちの方が好き

 ど根性とか、ちょっと押し付けがましいじゃない。捨てられたけど、転がってスポッと隙間に入ったから、何となく成長してますよ。

 そんな君がいてもいいじゃない。ね。



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