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黎明期のPCゲーム開発記 (8) 〜プロジェクト最大の危機?〜

前回の「第7回」は、全てが初めての状態ながらも、プロジェクトをスタートするために準備を始めたお話でした。
第8回の今回は、プロジェクト開始直後に訪れた「最大の危機」に関するお話です。

プロジェクトの目的地を決める

いわゆる「開発環境」については、前回のお話の中でご紹介しました。これはゲーム開発に限った話ではないのですが、作業を行うための環境が整ってもプロジェクトはスタートできません。MSX版ソーサリアンの開発でも同様で、プロジェクトの目的地を決めることが重要です。私の場合は、なぜか「メインプログラマ」であると同時に「開発全体のまとめ役」みたいな役割があったので、色々と準備をしていくことになります。

プロジェクトが始まったのが1990年12月。開発当初から、MSX版ソーサリアンは PC-88 版の移植ということは決まっていました。そして、プロジェクトの完了が1991年5月ということも決定済み。ということは、この間にすべてのものが 3.5インチ・フロッピーディスクに収まっている必要があるわけです。一方で、ブラザー工業様の対応は名古屋にある本社が対応してくれることになったのは、私にとってはプラス材料でした。

さて、これから移植作業をしていくわけですが、これをお読みの皆さんであれば一番最初に何をしますか? 当然、移植元である PC-88 版のプログラム (ソースコード)を読むということになると思います。私も同じ道をたどることになるのですが、そこでこのプロジェクト最大のピンチが発生します・・・

ない、ない、、、ない!

MSX版ソーサリアンは、「ファルコン株式会社」が「ブラザー工業」の依頼を受けて開発を行うプロジェクトです。全ての情報はブラザー工業様から提供されることになります。PC-88 版ソーサリアンのプログラム(ソースコード)も同様の経路をたどって私の手元にあったのですが、ここで事件が起きます。

揃ってない・・・

数枚の 3.5インチ・フロッピーディスクを渡されていたのですが、どう調べても足りないんです。

入社したばかりの新入社員の私が色々とジャッジできるわけがありません。ということで、大阪開発室の部長に相談しました。

私 : 「データが揃ってないんですが・・・」
部長 : 「本社の社長に聞いてみて?」

そりゃそうです。分かるわけありません。それに部長は部長でご自身のプロジェクトを抱えていらっしゃたので、お手間を取らせるわけにも行きません。ということで、名古屋にいらっしゃった社長に電話します。

私 : 「データが揃ってないんですが・・・」
社長 : 「え!まずいねぇ! ブラザー工業に聞いてみて?」

まあそれもそうです。私は数回あったことがある、ブラザー工業の担当の方にお電話します。

私 : 「データが揃ってないんですが・・・」
担当者 : 「全部送ったんですけどね? ファルコムに聞いてみてもらえません?」

あらら。これを「たらい回し」というのでしょうか・・・。とうとう大御所である「日本ファルコム」さんに電話します。

私 : 「データが揃ってないんですが・・・」
ファ : 「送ったはずなんだけどなぁ〜88版は特にプロテクトもかかってないから、元のディスクから抜き出してくれませんか?」

もちろん、悪意があってそういう風におっしゃったのではないと思いますが、こうして新入社員である私は、初めてのプロジェクトにして出口の見えない迷路に放り込まれたわけです・・・。

プロジェクト対応会議

各方面への電話の結果、データが揃わないことが確定したわけです。当時に、1991年5月の完成という文字が遠くに霞んでいったのを覚えています。そして、名古屋にいらっしゃった社長がすぐに大阪開発室にいらっしゃいました。今後の対応を協議するためです。

開発は順調に進んでいることは雑誌等でも発表になっているし、今さらあとには引けない、でも肝心の PC-88版のプログラムが手に入らない。私も会議に参加していましたが、「日程は延ばせないのかなぁ〜」ぐらいのことしか思い浮かんでませんでした。

そんな中、私は「あれ」を思い出します。この連載を読んでいただいている方は「ピン」と来てますよね? そう、第5回 で紹介したあのノートです。

「僕、PC-88 版ソーサリアンのデータ、全部持ってます・・・」

これまで公にしてこなかったことですが、実は MSX版ソーサリアンは、私が学生時代に自分で解析してノートに記録していた情報を元に開発されたんです。こうして、MSX版ソーサリアン開発の最大の危機は回避されたのでした。

つくづく、この「ソーサリアン」というゲームには因縁を感じます。あの時、解析してみようと思ったゲームが「ソーサリアン」でなかったら、あの時「ノートに記録」してなかったら、そしてあの時、書き留めたノートのことを思い出さなかったら・・・

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