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研究者の結婚事情

僕自身おとなになって気づいたのは、思ったよりも周囲は結婚していくということだ。地元の友人は特に結婚が早かった。というより研究者が遅いんじゃないだろうか。
年齢が33歳になった自分が研究者の同僚と話をしていて、最近結婚の話もどんどん増えているが、そこで思うのは世間と研究者の結婚におけるギャップだ。ちょうどよい機会なので研究者の結婚事情について、研究者目線でまとめてみようと思う。
当然だがこの記事に書いてあることは僕個人の観測範囲内での個人的な感想であり統計データなどではない。特に僕は生態学界隈の人間なので、分野の違いは当然あるかと思う。また、僕自身は男性なのでどうしてもそちら目線の話になってしまう。それらの点を踏まえたうえで読んでいただき、こんなこともあるんだなぁと思ってもらえれば幸いである。

研究者の結婚はどんな感じ?

僕の感覚では「早い人はめっちゃ早いし、遅い人はめちゃくちゃ遅い」。つまり早くに結婚する人は学生の間に結婚するのに、30代後半になってようやく結婚できるひともかなりの割合いるということだ。中間層がほとんどいないというのが大きな特徴だと思う。
この大きなギャップを生み出しているのは「若手研究者が結婚に向いていない」からだと僕は考えている。

若手研究者が結婚に向いていない3つの理由

まともな収入を得られるまでが長すぎる

これを語るにはまずどうやったら研究者になれるのかという話を先にしなくてはいけない。
まず研究者になるためには基本的には「博士」にならないといけない。そのために大学を卒業した後に大学院に進学するのだが、博士になるためには少なくとも大学院に5年通う必要がある(修士課程2年+博士課程3年)。少なくともというのは最短コースで5年であり、僕のように不器用な人だと博士になるまでに8年かかるケースもある。
その間、収入的には学生みたいなもので、奨学金でやりくりしたり、実家の仕送りに頼ったり、バイトや仕事で稼いだりということをしなくてはいけない。
博士課程の研究には膨大な時間がかかり、仕事しながらでできるようなものではないので、必然的にわずかな収入で耐え忍ぶ必要がある。
一応、優秀な学生(僕の分野だと全体の20%ほど)は日本学術振興会(通称「学振」)というところからお金が毎月もらえたりするのだが、それも月に20万円(額面)なので、そこから税金や国民保険料なんかが引かれて、さらに学費(年50万)がかかるんだから結局手元に残るお金は全然ない。
こういった生活が少なくとも27歳あたりまで続くのだから、同世代に比べて圧倒的にお金がない。このような状況で結婚というのもなかなか難しいものがあるのだ。
ちなみにこの学振だが副業が禁止されているので20万円から増やすこともできず、むしろ学振に受かったせいで苦しくなるパターンも存在したりしなかったり。このあたりのことに関してはまたいつか書いてみたい。
もう少しちなむと、最近は博士課程の学生に補助金が出ているようで、僕が学生の頃よりはいくらか過ごしやすい状況になっているそう。海外では大学院の学生は給料がもらえることが普通なので、ようやっと日本も世界標準になってきたということかも。

先が見えない上にあちこちを転々とする

上記の学生時代を乗り越えた若手研究者がたどり着くのはポスドクと呼ばれる段階である。ポスドクは大学の教員や研究所の研究員として終身雇用を得られるまでに、自身の研究能力を高めるための修業期間のようなものである。特に、国外で経験を積みたい若手研究者はこの期間に海外に出ることが多い。海外に出てしまうとなかなかすぐに結婚というわけにもいかず、また遠距離で別れてしまったりということも往々にして起こる。
この期間に多くの研究者は1年~5年くらいの有期雇用で雇われるのだが、これがとにかく不安定である。任期が終わった次の年にどこで何をしているかほとんど分からないのだ。雇用してもらうためには普通の就活と同じように履歴書や業績書、採用された後の研究計画などを細かく書いて応募をする。どの大学や研究所が自分を採用してくれるか分からないので、公募などの様々な情報をもとに応募し、そしてかなりの割合で不採用となる。選べる立場や状況でないことも多く、不安定な生活を余儀なくされる。そのため、どこでどのくらいの期間働くかは直前にならないと分からず将来の計画はなかなか立てられない。沖縄で働いていたひとが来月から急に北海道ということも普通である。僕自身、12月に任期の更新がされないことが決まり、必死に就活して2月にようやく来年度の職場が決まったということもある(「めっちゃ早く決まったね」と言われた)。
ちなみに、当然だが優秀な人材は自分の意志で働く場所や条件を選べ、ポスドク期間自体も短くて済む。ここでも格差が生まれるのである。

休日の概念がズレている

みなさんにとって休日はどういう存在だろうか?日常の業務から解放され次の仕事に向けて充電する日だろうか?それとも業務の疲れを癒す日だろうか?
研究者にとっての休日は自分の好きな研究をする日なのである。大学の事務が動いていない休日は余計な雑事が入らず、自身の研究を進める格好の時間になるのだ。プロジェクトで雇われている研究者であれば、自身のオリジナル研究ができるのは休日しかない。つまり多くの研究者には休日はないのである。
僕はそれについて文句を言うつもりはない。なぜなら研究者にとって好きに研究できることは楽しいことであり、自ら進んでそういった世界に飛び込んできたからである。ただ、そういう日々を送っているため、普通に遊ばなくなってしまう研究者が多いのである。仕事ばかりしていたら結婚はできないのだ。
また、遊ぶといいつつ研究していることもある。僕自身は生態学だったのもあり、「○○山に生き物を見に行こう!」とかいう休日外出イベントが普通にあったが、普通の人から見たらこれは調査と変わらないだろう。
さらに、学会や勉強会が開かれるのが休日であるということもこういった考えに拍車をかけていると思う。確かに、多くの研究者が参加するイベントを開くためには休みの日を狙ったほうがよいのだが、休みの日であっても仕事から離れられない生活がデフォルトになってしまう研究者にとってプライベートとはなんなのかという気持ちになることもある。
こんなことばかりしている研究者が普通に出会って結婚するのはかなりハードルがたかいのではないだろうか・・・

結婚できる研究者とは?

さて、これだけ研究者が結婚に向いていないと言ってきたが、冒頭でもお伝えしたように、とにかく早く結婚する研究者もいる。これはどういう人たちなのだろうか?
答えは「大学時代からずっと付き合っていたパートナーがいる人」である。大学院生の間は異動もほぼなく、若いので収入が少なくてもそこまで変でもなく、結婚することで学費の免除があったり、大学院生時代を相手の収入に頼ることもできたりと実はメリットが多い。学振などで収入がある程度確保されている場合は、この傾向が強まる。
とにかく、大学生の間に結婚できるパートナーを見つけられるかどうかが重要であるのだ。なぜなら、大学院生時代やポスドク時代に異性と親密になるのはかなりハードルが高いのである。

結婚できない研究者

休日は何をしていますか?
趣味は何ですか?
年収はどのくらいですか?

結婚を前提として異性と出会ったときのこういった質問への回答として、若手研究者が出せるものは魅力に乏しいものばかりである。特に男性としては年収の部分が引っかかるだろう。30手前で親のすねをかじっている男性と知り合いたいと思う女性はなかなかいないのではないだろうか。そのため、上述のようにすでに知り合って仲をそれなりに深めておく必要があるのだ。
従って大学時代や少なくとも大学院生時代にパートナーを見つけられていない研究者はパートナー探しに大変苦労することとなる。時間もお金もないうえに、一般社会に出ている友達とも疎遠になっているため、そもそも出会うことすらかなわないというのが現実である。世知辛い世の中である。。。

終わりに

いかがだったろうか。できるだけ研究者のリアルをまとめてみた。僕自身は大学時代や大学院生時代に恋愛関係が全くダメだったので、結婚できない研究者のデスループにハマってしまった。結婚したい研究者志望の学生は、こういった状況に追いやられてしまわないためにも、学生の間にしっかりとパートナー探しにも尽力してほしい。とはいえ、研究者も素直に結婚の選択しが選べる世の中になるのが一番だとは思うが、それはもう少し先かもしれない。
僕自身はその後32歳で結婚することができたが、これも相当に幸運だったと思う。これについては次回の記事で書いてみようと思うので気になる方はフォローして次回の記事をお待ちいただければ幸いである。

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