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車道でも歩道でもない「第三の道」が必要だ(再掲)

初出 2022年10月10日

電動キックボードの歩道走行

 現在進められている道路交通法の改正では、最高時速20キロ以下の電動キックボードは、16歳以上が運転免許なし・ヘルメット着用義務なしで乗れるようになるそうだ。さらに、制限時速6㎞以下の「歩道通行車モード」に切り替えれば歩道も走行可能になるらしい。

 ただし、本記事の表現はやや不正確で、歩道ならどこでも走行できるわけではなく、「自転車歩行者道(自歩道;以下のような標識のある歩道)」に限られるようだ。

 要は、電動キックボードを自転車と同じような扱いにすることで、一部の歩道について走行可能とするということのようだ。
 ところで、自転車は歩道を走行できるかというと、ご存じのとおり原則はNOである。道路交通法では、歩道のある道路では自転車は車道を通行しなければならないと定められている。ただし以下の場合は除く。
①歩道に「普通自転車歩道通行可」の標識等(上のような標識)がある場合
②13歳未満の子どもや70歳以上の高齢者、身体の不自由な人が自転車を運転している場合
③車道又は交通の状況からみてやむを得ないと認められる場合
 電動キックボードを自転車と同じ扱いにすることで、上記①の例外規定の適用対象にしようという意図が窺える。自転車がいいんだから、電動キックボードも(時速6キロ以下に制限すれば)いいじゃないか、という理屈なのだろう。しかし、そもそも自転車が歩道を走ること自体が原則NOなんだから、その例外規定を逆手にとって電動キックボードをOKにしちゃおう、というのはちょっと議論としては乱暴なんじゃないだろうか。

日本は唯一の例外?

 記事によれば「主要国で唯一、歩道走行を認める日本」とあるが、ザックリ調べた感じでもたしかに電動キックボードの歩道走行を認めている国はないようだ。経済産業省の会議資料では、カリフォルニア州・ドイツ・フランス・オーストリアでは歩道走行不可、シンガポールはこの資料では走行可となっているが、現在は走行は不可となっている模様警察庁の資料でも英国・ドイツ・フランス・イタリア・韓国では走行不可となっている。

 日本で電動キックボードの歩道走行を条件付きとはいえ認める理由はどこにあるのだろう。多分それは電動キックボードに車道を走行させるのは危険だからということなのだろうと推測される。記事中に有識者の以下のようなコメントが引用されている。
「電動キックボードという新たな『自転車』の事故が問題となる可能性はあるが、それは道路を車中心に考えているからだ。安全と快適のために都市設計を見直せば、むしろ車が危険という見方もできる」

 これ、「むしろクルマが危険という見方もできる」の意味がよくわからないのだけれど、「キックボードよりクルマのほうが危険」という意味なのか「キックボード利用者にとってクルマが危険」という意味なのか。
 いずれにせよ歩行者から見れば、電動キックボードもクルマも(もちろん自転車も)程度の差こそあれ危険なことに変わりはない。歩道はあくまでも歩行者専用の移動空間とすべきであり、本来的には自転車も排除すべきという当たり前の原則をもう一度よく考えてみれば、電動キックボードの歩道走行もNOと考えるのが筋だと考えるがいかがだろう。

 ちなみに電動キックボードが普及している諸外国の事例を見ると、実は日本と同じく電動キックボードは自転車と同列に位置づけられているのだが、日本との違いは自転車専用レーンが普及しているという点にある。上記の経産省や警察庁の資料を見ても諸外国では電動キックボードは自転車レーンの走行をメインに位置づけているように読み取れる。
 つまり、日本では車道と歩道のふたつの区分しかないから、本来歩行者のものであるべき歩道に自転車(と電動キックボード)の走行を容認するという立て付けなのに対し、海外では車道と歩道のほかに自転車道という「第三の道」があるので、電動キックボードにはそこを使ってもらおうということだ。

低速モビリティ向けの「第三の道」が必要だ

 車道と歩道という既存の道路形態を所与として、そこに電動キックボードをムリクリはめ込もうとするから「「歩道モード」に切り替えていることを知らせる緑色の点滅ライト」となどといったなにやらガラパゴス的な装備を追加する必要が生じることになる。
 そうではなくって、自転車や電動キックボードなどの「歩行者でもクルマでもない低速の移動手段」を考慮した道路のありかたを考えるというのが「安全と快適のために都市設計を見直す(上記有識者コメント)」ということなのではないだろうか。
 前記事「「ウォーカブル」のその先へ」で、道路空間の再配分には歩行者だけでなく公共交通機関や自転車、マイクロモビリティなどの他の交通手段への割り振りを考える視点が必要だと述べたのはそういうことなのだ。

 ちなみに、東京都が昨年5月に公表した「東京都自転車通行空間整備推進計画」によれば、都内の「自転車通行空間」の整備実績は2019年末で総延長309kmとなっているが、これを2030 年度に向けて新たに約 600 km(累計約 900km)の整備に取り組むとしているが、パリやアムステルダム、ニューヨークのような欧米の自転車先進都市の取り組み(特にコロナ禍以降積極化している)に比べると勢いに欠ける。「脱クルマ」という世界的な潮流の中で、交通体系をどのように再構築するか、そしてその中に電動キックボードのようなマイクロモビリティをどう位置づけるか、という総合的な都市交通政策の視点が欠かせない。

余談

 なお、余談ではあるが、最近よくみかける車道上にペイントされたこの↓マークについて。

 これは自転車ナビマーク・自転車ナビラインと呼ばれるもので、新たな交通方法や罰則を定めた道路標示ではない。扱いとしてはあくまでも車道の一部に過ぎず、「自転車優先」など法令上自転車を保護する意味はない、と警視庁のHPでも明記されている。逆走防止などの効果はあるものの、しょせんは気休めに過ぎないので、自転車に乗られる方はご注意のほどを。

cover photo:ヘルシンキにて(著者撮影)

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