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「ウォーカブル」のその先へ(再掲)

初出 2022年10月1日

ウォーカブルシティ

 このところ「歩きたくなるまち」「ウォーカブルシティ」に取り組む自治体が増えている。

 記事にもあるように、ウォーカブルシティは欧米の主要都市では以前から取り組まれてきており、ニューヨークのタイムズスクエア、コペンハーゲンのストロイエ、パリのセーヌ川河岸道路などが、道路からクルマを閉め出して歩行者空間化した事例として有名である。

 日本でも京都市四条通、大阪市御堂筋、松山市花園町通、神戶市明石町筋、姫路市大手前通など、車道幅員を削減し歩道を拡幅する取り組みが全国各地で行われている。2020 年の道路法改正に伴い創設された「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)」や、2020 年の都市再生特別措置法の改正に伴い創設された「滞在快適性等向上区域(通称:まちなかウォーカブル区域)」など、歩行者中心の道 路空間再編を支援する制度も整備されつつある。

道路空間を取り戻せ

 そもそも自動車は非常に大きな土地面積を必要とする移動手段である。下の写真は同じ人数の人間を移動させるのに【左から】バス(公共交通機関)、自転車、自動車という移動手段がそれぞれどれだけの面積を占有するかを示したものだが(We Ride Australiaより転載)、これを見れば土地利用の面で自動車がいかに非効率な移動手段であるかということは一目瞭然である。

 開発余地の少ないまちなかにあって、道路空間(特に車道)は行政が活用可能な貴重のひとつなのである。車道を削ってその分歩道を拡幅してオープンスペースをつくれば、そこは住民にとっての憩いの場となり、賑わいが創出されるだろう。自動車の交通量が減れば交通事故も減らせるし、CO2排出量の削減にもつながる。さらには「歩くこと」を通じて、市民の健康増進や身体機能の維持といった効果も期待できる。富山市では「歩きたくなるまちづくり」を通じて市民の健康増進につなげる「富山市歩くライフスタイル戦略(とほ活)」を推進しているところである。

 このように、ウォーカブルシティ政策は、さほどお金をかけずに(なぜなら公道なので用地買収費が不要)一石二鳥にも三鳥にもなる効果が期待できるのだから、基本的にはどんどん進めて行っていただければと思う。

歩行者だけじゃなく

 ところで、このような従来自動車に割り振られていた道路空間を他の用途に割り振り直すことは「道路空間の再配分」と呼ばれているが、再配分の相手は歩行者空間だけではないという点には留意が必要だ。歩道を拡幅して賑わい空間を創出することももちろん重要だが、歩行者以外にも自転車、バスやトラムなどの公共交通、あるいは電動キックボードのようなマイクロモビリティなど自動車以外の交通手段のために割り振るという視点が求められる。そのためには都市の交通体系のありようも併せて再構築する必要がある。

NACTO "Transit Street Design Guidline"より転載

「点」から「線」へ

 また、現状では、国内の取り組み事例の多くは都市の駅前やメインストリートなどの限られた範囲、いわば「点」の空間整備に留まっているケースが多い。もちろん駅前やメインストリートのような地域の核となる部分からまずは賑わいを創出していこうという取り組みに異存はない。とはいえ、移動のための空間という道路の本来の機能を考えるなら、「点」と「点」をつなぐ「線」あるいは「ネットワーク」として道路をどのようにリニューアルしていくかという視点が不可欠だし、逆にネットワークの整備によって「点」の部分がいわば「結節点」としての機能を果たすことで、全体の価値も高まっていくのではないだろうか。

 道路の歩行者空間化といえば、ニューヨークのタイムズスクエアのプラザ化が有名だが、ニューヨーク市道路局(DOT)は同じブロードウェイ沿いのヘラルドスクエア、マディソンスクエア、ユニオンスクエアをタイムズスクエア同様にプラザとして整備を進めており、同時並行でブロードウェイについても自動車車線を減らして歩道と自転車レーンに転用する工事も進められている(Broadway Vision)。プラザという「点」がブロードウェイという「線」でつながれて、歩行者・自転車オリエンテッドに整備されることで、ユニオンスクエアからセントラルパークに至る4km弱に及ぶ魅力的な歩行者空間が創出されることになる。

ニューヨーク市道路局"Broadway Vision"より転載

 欧州最古の歩行者天国と言われるコペンハーゲンのストロイエも同様だ。ストロイエは西端の市庁舎広場と東端のコンゲンス・ニュートー広場をつなぐ全長1.1kmの歩行者専用道路だが、途中にあるガメルトーゥ広場・ニュートーゥ広場・アマートーゥ広場という3つの広場を貫いており、両端のふたつの広場と合わせると5つの広場をつなぐネットワークを形成している。なお、下図のようにストロイエからさらに左右に枝道のように歩行者専用道路が伸びており、ネットワークが拡がっている様子が窺える。

NACTO"Transit Street Design Guideline" より転載

 その意味で期待できるのがほこみち第一号にも指定された大阪御堂筋であろう。淀屋橋から難波西口まで全長約3km、しかも幅員44m。まずは側道部分の歩行者空間化が着手されたところだが、2037年をターゲットイヤーとして全面歩行者空間化を目指しているとのこと。淀屋橋・本町・心斎橋・難波という「結節点」をどのように演出して御堂筋全体を魅力付けできるか、実現が楽しみである。

 cover photo:歩道・自転車道拡幅中の御堂筋(2022年筆者撮影)

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