見出し画像

「ハラカド」から考える商業施設の未来


はじめに

先月神宮前交差点にオープンした話題の商業施設「ハラカド(東急プラザ原宿)」を見に行ってきた。

もっとも、私は流行りのフアッションとかブランドについては疎いので、この商業施設のテナントミックスについて論じる資格はないし、そのつもりもない。そこいらあたりの議論は他の人に譲るとして、私が「ハラカド」を見て興味深く感じたことを以下にまとめてみた。

売り場有効率が低い?

TV東京の「ガイアの夜明け」でも取り上げられていたように、「ハラカド」の「目玉」はB1Fに誘致した高円寺の老舗銭湯「小杉湯」と、書籍取次の日販がプロデュースする雑誌の創刊号を集めた雑誌の図書館「COVER」(2〜3F)であろう。

雑誌の図書館「COVER」は入場無料、小杉湯も入浴料は都内の銭湯と同額の520円に抑えられている。地階で立地が悪いとはいえ銭湯ともなれば設備投資もそれなりにかかるはずで、果たしてこの値段で採算が成り立つのだろうかと心配になる(余計なお世話か?)。いずれにせよ、これらのふたつの「目玉施設」はどちらも直接的な売上というか収益を(ほとんど)生まない施設だとみてよいだろう。

B1F 小杉湯
2〜3F  COVER

これだけではない。4Fに設けられた「ハラッパ」(なんと312坪!)。ここはなんだろう、イベントスペース?。公式サイトの説明では「「自然・チルアウト」×「原宿で体験」をテーマにした企画を展開。焚き火を囲うようなインスタレーションなどの、自然やサステナブルを感じるコンテンツが、神宮前交差点の前の約312 坪で展開されます。」とのことだが、植栽とベンチが並べられた空間で、ここも直接的には売上を生まなさそうな施設である(ただし、いろいろ見てみるとこのハラッパは「第一弾として」「可変する」「期間限定」などと書かれており、特に用途をこのかたちで固定しているわけではないようだが)。

4F ハラッパ

さらに5・6Fの一部と屋上(7F)の神宮前交差点に面した側には緑豊かなオープンテラスが設けられているのだが、ここも入場無料である。5・6Fの建物内は飲食ゾーンなのであるが、この眺望の良い側をあえて飲食店舗にせずにテラスとして無料で開放しているのである。

屋上テラス

いかにも地価が高そうな表参道の一等地の商業施設でありながら、小杉湯・COVER・ハラッパ・屋上テラスという、直接的にはいかにも売上を生まなさそうな床がけっこうな面積を占めているなあ、いわゆる売り場有効率(売り場面積÷延床面積)が悪そうだなあ…というのが、私が「ハラカド」を見て抱いた第一印象である。

私のような部外者からすれば「こんなに有効率の低い建物で果たして採算がとれるのだろうか」と心配になるが、もちろん事業主の東急不動産にしてみればそんなことは「余計なお世話」である。東急不動産だって慈善事業でやっているわけじゃない。ちゃんと勝算があってやっているはずである。
この点について東急不動産の城間剛氏は

商業的な話になりますが、神宮前交差点のあの人通りのある立地で、人気のあるテナントさんに入っていただいて、従前の商業施設のモデルでビジネスをすれば、確実にある程度の売り上げは見込めるものです。そういう意味では、今回の原宿・神宮前の歴史を踏まえて、カルチャーを軸とした街づくりに取り組んでいくというのは、東急不動産としても大きなチャレンジです。まさに、未来に対する投資です。」

https://ambitions-web.com/articles/harakado

とキッパリ!。そもそもの「志(こころざし)」から違うということだ。

「ハラカド」に込められた思いを勝手に推察

ではいったい東急不動産は何を考えている(めざしている)のだろうか。改めて同社のニュースリリースや担当者のインタビュー記事などに目を通してみた。

以下に気になったフレーズを抜き書きする。

  • クリエーターとさまざまな企業や人が出会い協業し、新事業を模索する場

  • クリエイターの共創を促す“クリエイティブな社交場”

  • 多様な文化やアートを体感し、感性と出会う

  • その街が持っている歴史的な背景や文脈に沿って、その街に必要な機能を強化していく

  • 施設単体で完結するのではなく、原宿・神宮前エリア全体の魅力を高め、価値を上げていく

  • その街が持っている歴史的な背景や文脈に沿って、その街に必要な機能を強化していく

  • 神宮前の良さや特性を増長させて、文化を創造し、それを発信していく

  • 原宿・神宮前の歴史を踏まえて、カルチャーを軸とした街づくりに取り組んでいく

  • 原宿の歴史と文脈を受け継ぎ、個性と才能をぶつけ合う場づくりを通じて、独自の文化の創造と発信を加速させていく

  • 都心の商業施設にあえて「銭湯」を入れることで日常的に街や人に愛される施設を目指す

  • お風呂という日常のことが「ハラカド」にあることで、商業施設が街から孤立しない場所になる

などなど。

これらのフレーズを勝手ながら整理させてもらうと

  1. 人々や企業が交流・協業する文化創造・発信拠点

  2. 原宿・神宮前エリアの歴史・文脈・背景を踏まえ、エリアの魅力を高める

  3. 街(エリア)から愛される・街から孤立しない

の3点に集約されそうだ。

「どこにでもある」から「ここにしかない」へ

と、東急不動産がハラカドに込めたであろう思いを私が勝手に3点に集約してみたのだが、ここでふと思った。朝ドラ(虎に翼)的に言えば「はて?」というやつだ。

「文化創造・発信拠点」って、かつてのセゾングループに似てないか?!

セゾングループについては以前の記事(「〈セゾン文化〉について改めて考える」)でも取り上げたが、70〜80年代に池袋や渋谷を「文化の創造・発信拠点」とすべく、西武美術館や西武劇場という文化施設(=非・売り場=収益を生まない)を商業施設の中核にあえて据えることでエリアの魅力を高めるという戦略で商業開発を展開してきたことはみなさんご承知のとおりである。

以前の記事では、

  • 「場所(place)」と「空間(space)」

  • 「脱埋込み」と「再埋込み」

  • 「ここにしかない」と「どこにでもある」

といったキーワードを用いて、「脱埋込み」によって「どこにでもある均質的な〈空間(space)〉」へと向かう東京において、池袋や渋谷を文化の拠点とすることを通じて「ここにしかない個性的な〈場所(place)〉」へと「再埋込み」しようとした事例だと、セゾングループの取り組みを整理した。

そして、鈴木謙介氏のいう「情報化の進展がもたらす現実空間の多孔化」に伴って、そうした現実(リアル)空間の優位性・特異性を強化する試みは、セゾンの取り組みを最後に行われることはなくなったと私は結論付けたわけだが、なんとここに来て、「文化」を旗印に「エリアの魅力を高める」という「再埋込み」に「ハラカド」があえて再びチャレンジしようとしているように私には見受けられるのだ(あくまで私の勝手な「見立て」に過ぎないが…)。

この「ハラカド」の取り組みは、単なる突然変異的な「先祖返り」(セゾンのコンセプトの焼き直し)に過ぎないのだろうか、あるいは今後の商業開発の方向性の転換点となるような試みとなるのだろうか。

少なくとも「ハラカド」が「どこにでもある」商業施設ではなく「ここにしかない」商業施設を目指していることは間違いないだろう。もちろん「文化」とか「創造」とか「情報発信拠点」とか「エリアの魅力を高める」といったフレーズを表層的に(ポエムとして)掲げるだけの事業はそれこそ「どこにでもある」が、そのために売り場有効率を下げてでも取り組もうという東急不動産の心意気にはエールを送りたいと思う。
あくまでも「採算が取れるなら」の話だけど(余計なお世話だっつーのw)。

□□□□□□
最後までお読みいただきありがとうございます。もしよろしければnoteの「スキ」(ハートのボタン)を押してもらえると、今後の励みになります!。noteのアカウントをお持ちでない方でも押せますので、よろしくお願いいたします!

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?