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「東京小景 2023年夏」

現代詩 午前零時の再登板 №9

女たちよ
せわしなく
靴音を立てて歩かないでおくれ
後ろから高い音が近づき
前に来たあんた
ハイヒールなぞ履いていた日にゃ…

女が立てる 靴音は
 エスカレーターで
  地下街で 
   ビルの谷間で
ぼくの気に障る鉦の

東京都心 ビジネス街で
 女は働くひとり
  ぼくとて そのひとり 嘱託
   いや もうすぐ退職だけど

あんたの存在は認める
春には春の 夏には夏の 秋には 冬には…
冬 あんたが立てる音は
乾いた空気に 響く
セクシーだ
後ろから聞こえただけで
振り向いちゃう
そして
あんたが ぼくを追い越し
ハイヒールの持ち主たる
女の後ろ姿を
見つめ 静かに追い
顔かたち 肉づきまでを
確かめる――
大会社の高層ビルが立ち並ぶ
ビジネスエリートらの中を
大股歩きで歩く あんたたち
自信にあふれ 高い靴音を響かせる

六十過ぎた くたびれ果てた無職男
ただの かすでしかない
ひとりのオヤジ
そんな男に
その靴音を聞かせてやってくれ

詩人宣言XXI」(2021年7月17日)を改変

イラスト=鱗粉あす


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