見出し画像

【サラリーマン詩】「エラくなる法」

現代詩 午前零時の再登板 №18

「あの人 またエラくなったようですよ」
元働いていた会社の同僚がささやいた
退職して9カ月 その前から仕事には出なかったから
会社を離れてほぼ1年がたつ

辞める前
エライ人に呼び出された
エライ人だ
組織の中で人を差配する立場にある
昔はぼくの後輩だった ずっと前から
ぼくより エライ人だ
その人に呼び出された
ドキドキした
何かやらかしたっけ?
自分には「過去」がある
それをほじくり返される気がした

エライ人は言った
「会社は今 こういう時期なので あなたの契約は満了にします」
ああ 会社も業界も こんな働かないシニアを抱えてはいられないってか
もういらない あなたの仕事はないって―

わかっております わかっております
年金受給までまだ間がある もうちょっといられるはずでは?
エライ人に何か言うべきなのか… ぼくは頭の中で言葉を探す
しかし
ぼくはぼくで 自分の道を自分で考えて
生きてゆくのがよい このあたりまえのことを
そのとき 気づかされたようで

わかりました―そう答えた

最後の最後までしがみつくより ぼくは背中を押されたのだ
――背中を押してくれてありがとう――
エライ人に そう言いたい気分になった
そのときは リタイアを受け入れるのは
しようがない しようがない 今はしようがない
と 思い その先を生きてゆこう そう思った―

そして1年がたち あのエライ人が
「またエラくなった」そうだ

自分の首を一番大事にして
多くの人の首を刈り 階段を上ってきた
だから エラくなれたんだろうね

もうぼくには関係のない…話である

しようがない」(2023年5月9日)を大幅に改変

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?